表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街角豆腐連合  作者: もん・えな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

天道大志、その美徳

 甘木の恋敵が激辛マー坊を完食し、街角豆腐連合は少年に歓声を上げている。その暴挙を前に、新田は衝撃で動けずにいた。


 歓喜の中心にいる天道がおもむろに立ち上がり、


「ごちそうさま。また来るよ」と甘木の肩を叩いた。


 下を向き、唇を食む甘木。その身体は失意と屈辱に震えている。


「じゃあね甘木君! また学校で!」


 セラさんが元気よく立ち上がり、とと、と出口を目指す天道の背を追った。


 甘木は顔を上げることが出来なかった。足元に雫が滴り落ちる。自分の初恋の遠ざかっていく音が、いやに大きく響いた。


 街角豆腐連合の男たちが二手に分かれ、出口まで花道を作った。彼らの表情は実に清々しく、「いいものを見せてもらった」「完食するものが現れるとはなぁ」と感嘆の声を上げる。


 セラさんは自分の事のように誇らしげに胸を張り、「いやはや、どうもどうも!」と手を振って歩く。彼女の愛嬌道中には目もくれず、天道はドアノブに手をかけた。


「待ってくれ!」


 歓声は途切れ、首を傾げ声の方を向く花々。甘木が顔を上げた。花道に立つ新田の背中が視界に飛び込んでくる。ドアノブから手を離し、ゆっくりと振り向く天道。新田は少年の顔――顔面蒼白、虚ろな瞳、唇は明太子のように紅く腫れている――を見て、「あれこんな顔だったかな?」と脳裏を過った。その疑問をはすに置き、彼は重々しく口を開いた。


「……なぜ?」


 新田は激辛マー坊に絶対の自信があった。アベックを破滅させること二十余年。小樽に築かれた記念塚は、市政の謀略により後世に残ることはない。しかし人々の記憶に、深く刻み込まれてきた。その歴史的傑作を、四半世紀も時を知らない小童が、攻略したことを受け入れられないでいた。


 気だるげな天道の視線。新田は喉が干上がるのを感じた。少年の息遣いがすぐそこで聞こえるようだった。皆が天道の言葉を待つ。


「食事は残すな、両親にそのように教わりました」


 天道は静かにそういうと、頭を下げて、堂々たる足取りで店を出た。


 セラさんも天道に倣い、ぺこりとお辞儀をして彼に続いた。


 店のドアがばたりと閉まる。


 新田は力なくその場にくずおれた。


「……両親の教え? そんなものに私は、激辛マー坊は……」


 失意がポツリと言葉になった。肩に伸し掛かっていた何かが落ちるように――



***



 燦然と煌めく太陽。冷涼な風に潮の香りが混ざっている。


 天道とセラさんが小樽の街を並んで歩く。


 上機嫌に捲し立てる少女を、適当にあしらう少年。


「ねえそんなにおいしかった?」


「旨かったよ。ただ、ひとの食うものじゃないな」


「なにそれ」


 セラさんはおかしそうに笑った。


「それにしても……、あははっ、大志君、ひどい顔!」


 彼女はそういうと、アイフォンで写真を撮る。


 天道は抗議の視線を向けて、彼女の手からアイフォンをひったくろうとした。しかしその瞬間、腹が悲鳴を上げた。それを聞いて、セラさんがまた笑う。


 一通り笑い終えてから、彼女は急に真面目腐った表情を繕った。


「ところで、辛くなかったの? 残せばよかったのに」天道の前にセラさんは躍り出ると、いたずらっぽく上目遣い。「もしかして、好きな子にいいところを見せたかった、とか?」と含み笑い。


 天道は渋面を作り、セラさんの隙をついてデコピンを食らわせた。デコを抑え、非難の目を向けるセラさん。それを素通りし、彼は腹をさすった。セラさんは不貞腐れたように、天道の隣まで駆け寄ると、彼の腕に自分の腕を絡めた。天道は面倒くさそうに彼女を見やったが、特に何か言うでもなく、そのまま歩き続けた。





ごきげんよう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

『街角豆腐連合』これにて完結です。

感想等いただけますと、励みになります。

では、またお会いしましょう。

かしこ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初、料理ものかな?と思ってからの激辛麻婆豆腐で破局って斬新で笑ってしまいました。最後は完敗ですね笑。街角豆腐連合の今後が見れなくて寂しいですが、最終話がスッキリしていてよかったです。
面白かったです〜! まさかの題材。破局のマーボー豆腐って!!衝撃的でした! 笑 一体どう展開するのかとわくわくしながら一気読みさせていただきました! 最期は綺麗にまとまって、後味も良かったです! ご馳…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ