File10 地球滅亡の日#5
『続いて2012年マヤ文明の暦が終わっていたことに端を発し、世間を騒がせた終末論について語ろう。』
これが科学の授業であったなら、伊藤先生がビデオを強制終了させているところだが、どうやらまだ終わらないらしい。
『メディアはこぞってマヤ文明の暦を根拠としていたが、真実はWEUが故意に流した誤情報である。』
「デマの犯人がここにいやがったとはな。裁かれろ。」
「デマの情報源を取り締まる法律がありゃ、紙の買い占め騒動の犯人と同じ牢屋に入れたのにな。」
『何故WEUは誤情報を流したのか。世界を混乱に招きたかったわけでも、騙されているメディアを見てほくそ笑むためでもない。本当の世界滅亡の予言を隠すためである。』
「負のエネルギー対策?」
「そっ。」
『ここまで来れば勘のいい視聴者も薄々答えを導いているであろう。そう、未だ詳細を掴めていない負のエネルギーをこれ以上増大させないためであった。
隠された予言にはこう記されていた。2012年12月23日、地球より50光年離れている未開拓の星プラマーが寿命を迎え、超新星爆発を引き起こす。この影響により、地球は生命の絶望の末に滅亡する。
我々はこの予言を回避するべく、2000年から対策本部を設置。12年という短いタイムリミットの中、超新星爆発から地球を守るにはどうするべきか。我々は原初の盾の力を再び借りなくてはならないようだ。』
「あの雲みたいなもののことか?」
「えっ。なんで知ってんだよ。中学科学のそれこそ1億光年先だぜ。」
それはちょっと中学生を馬鹿にしている。
「伊藤先生が超科学実験の動画で解説してた。」
「そういやそんな話してたな。相変わらず訳分かんねぇ話だったけど。あいつ声ぼそぼそしてて、睡魔と戦うのも大変なんだわ。そんなに起きて欲しいなら伊藤自身もっとはきはき喋るべきだね。」
「先生の声が小さいのとクラスの大半が爆睡するのは別問題だと思う。」
体育の授業の後でクラスの大半が寝ていたので、呆れた伊藤先生は暇だからと電流の授業なのに、太陽系の動画を流し始めた。
勿論江利も理科室の冷たい机に突っ伏して眠っていた。
「伊藤大先生は天文学の世界的権威だからな。いくつもの研究機関からスカウトされているのに、生徒に教えている方が面白いからって断ってんだ。」
熱心でない荒れ果てた田舎の生徒に教えて何が面白いのだろうか。というか何故御書は知っているのか。
「同族のことを調べるのは当たり前だろ。」
再度モニターに注目する。
『そして太陽系の……』
太陽系の形成から、分子フレグランスだかの説明をしてくれている御書弐号には悪いがさっぱり頭に入ってこない。
伊藤先生の解説を思い出す。
簡単に言うと太陽系も出来上がる前に爆発に巻き込まれて、崩壊するはずだったが、星の雲が盾になってくれたので今の俺達が存在している、
ということだった。
『原初の盾、分子雲を形成するにはまず我々は材料を集めなくてはならない。分子雲の主成分である水素、磁場、仕上げの重力である。
この時点で人類は詰んでいる。地球上の水素をかき集めたとしても分子雲の形成には程遠いし、宇宙スケールの磁場も重力を生み出すほどのエネルギーもない。
そこで我々は初めに兄弟達の助けを借りることとした。木星、土星を初めとする水素を多く持つ惑星や小天体などから太陽系に影響を及ぼさない範囲で水素を抽出することにした。』
何十機以上の小さい人工衛星のようなものがモニターに映し出され、地球から一斉に飛び立って行った。
『そして磁場。』
次にバスケットボールくらいの大きさの丸い鉄の球体が映し出された。
『この何の変哲もない鉄の球体の中には、コイルと電力装置が入っている。そして内部のコイルに電気を流し、磁場を形成する。』
ここら辺なら前に授業でやったのでなんとなく分かる。このコイルに電流を流すことによって磁場が発生する。だが地球の電力で作れる磁場なんてたかが知れていると思うが。
『そして水素原子を出来るだけ圧縮するほどの重力。』
今度は妙な形の装置が映し出された。棒に鎖を括りつけて先端にはトレーニングボールサイズの球体が繋がれていた。
『このハンマー投げのような装置はドッグ2と呼ばれている。この球体内部に電力装置を入れプラマーから10光年離れた場所に設置する。』
球体の中に球体が入っているのはなんだかおかしな感じがする。ドッグ2はロケットに乗せられ、目的地にたどり着いたようだ。
『更にドッグ2の中に水素原子を集めたミニドッグ達を入れ、水素原子を中で放出したら準備完了。ドッグ2を回転させる。』
初めはゆっくりとグルグル円形に回っていたがやがて目にも止まらぬ速さで回転し始めた。
『この装置は時速約70万kmで回転し、遠心力を使って人工重力を再現。その後、宇宙空間に一気に放出する。』
ドッグ2の球体は回転を急速に止めて、パカリと開いた。
『仕上げに真空バリアを貼り、人工分子雲が霧散することを防ぐ。』
四箇所にセッティングされた小さい衛星がビームを放ち、それが四角形になると透明なバリアが形成された。
『視聴者もこれらの動力源が気になっている頃であろう。これらは全て負のエネルギーによって稼働している。我々は世界各地から特殊能力を持った人間を集め、負のエネルギーを蓄えた。未だ原理は不明であるがこのエネルギーは万能のエネルギーで様々なエネルギーに変換することができた。
これが現段階での我々の限界。失敗は人類の滅亡を意味する。あとは祈るのみであった。科学者達が見守る中、超新星爆発は起こった。』
モニターは爆発の瞬間を映し出される。過去のことなのに思わず俺は固唾を飲んで見守っていた。画面越しに分かる衝撃波。それをキラキラ輝くガスのようなものが覆っていく。
『作戦は成功した。』
ほっと胸を撫で下ろす。
『この作戦は多くの人々の協力あってこそであった。我々WEUの力では、地球の滅亡を黙って見ているしかできなかったであろう。
全世界に誤情報を流す承認をいただいたマヤの子孫の方々、多くのマヤ文明の研究者達。この者達の協力なしでは、人々は不安に陥り、無意識に溢れ出た負のエネルギーによって地球滅亡の予言を的中させてしまっていたかもしれない。』
モニターにとある民族とドキュメンタリー番組で見たことがあるような研究者が移された。
『そして各国に散らばる超能力者達。この者達がいなければ、そもそも先程の装置は稼働できず、作戦は行う前から失敗していた。』
切り替わりアマゾンの森林、インドの前世の記憶持ちの小さな少年、そして江利によく似た人物の顔が映し出された。
『感謝の意を表する。』
今回協力してくれた人達の名前をテロップで映し出し、終 制作・著作 ━━━━━ 御書でんき の文字で締めくくられていた。
「へぇー、うちの部長も引っ張りだこだな。」
動画が終わり荒崎が口を開く。
「あれは部長の母。」
と弐号。
「アメリカの仕事ってこのことだったんだ。」
江利のお母さんは大洗に引っ越してきたと同時にアメリカの会社に転職が決まり、たまにしか帰ってこないといっていた。江利が6年生になってからは一度も帰ってきてない。どこをほっつき歩いていると思ったらこんなところにいたのか。
「彼女は負のエネルギーの研究にも大いに貢献したが、今は消息不明。指示した飛行機と全く違う飛行機に乗った瞬間が確認された。WEUも部長の元に帰すべく大捜索しているが世界各地での目撃情報があまりに多く困難を極めている。世界規模の迷子になっていると思われる。」
「部長母は飛び抜けて妖力とか凄かったからなぁ。その代わり神話級の方向音痴なんだよ。玉に瑕ってこういうことを言うんだな。」
「参ったなぁ。江利がまた落ち込む。」
「まぁ結婚式までには間に合わせるさ。」
小馬鹿にしたような言い方だったで俺は無視した。だから気が付かなかった、動画内の『次回予告』の文字に。




