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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
78/81

File9 そうだ、京都に行こう♯15

「やっぱりあれは龍神さまの。」

「かつての敵の子孫に様付けされるのムズムズするなぁ。お兄さんって呼んでくれない?」

 俺はイラッとしつつも爺さんが目を光らせているので言われたとおりの名称で呼ぶことにした。

「1000年前何があったんですか?」

「そうだね。まずは君の正当な血筋、哀れな神様のことを話すとしよう。」

 何故哀れと前置きしたのだろうか。俺の疑問を感じ取ったのか、龍神は続けた。

「人々は邪神と呼んでいたようだけどね、彼は由緒正しい家系の神様だよ。ただ他の兄弟と違って欠落していただけで。」

「慈悲とか慈愛とか?」

「自分の先祖のことを悪く言わないの。こほん、彼は長男坊だったんだけどね、人の形を成していなかった。それで伊邪那美、私の上司に地上に捨てられて消滅を待つだけだった。それがなんとびっくり彼は邪神になってしまった。」

 捨てられた、という言葉が胸にトゲのように刺さった気がした。

「なんでそんな非力な神様が邪神なんかに。」

「地上の穢れを摂取しすぎたんだ。」

「人間は欲深い生き物ですからな。」

「りゅうちゃんいつも言ってるでしょ。自分達を過小評価するものではないよ。負の感情もあるけれど、そればっかりじゃない。むしろ正の感情のほうが溢れているんだ。ただ、正のほうが吸収率がいいから天界や地脈にすぐ取り込まれちゃうんだよね。

 天界の運営にもエネルギーが必要だからね。弱い存在には負の感情しか残されていない。」

「邪神も、そうだったんですね。」 

「悪いのは全部上司。地上に捨てた時に分かっていたはずだ。追放するくらいなら生きた痕跡も記録も全て跡形もなく消滅させるべきだった。それなのに親の情けを中途半端に掛けるから地上に迷惑がかかる。」

 まさにその通りだ。自分で産んでおいて冷遇されるのだったら、最初から産まないで欲しかった。

「君が見た記憶は地上の穢れで力を付けた邪神が、私の管轄内で大暴れしようとしていたから退治をしていた時のことだ。

 正直あの時は舐めていたよ。不完全な神だったから、すぐ終わらせてすぐ帰る予定だった。なんだったら流行りの妖術師姿で事なきを得ようとした。なのに、」

 龍神は顔を顰めて、左目を触る。

「人間の姿は目も当てられないほどの損壊、本体も私の治癒能力が追いつかないほど翼を壊されちゃってね。おかげで1000年経っても天界に戻れない。ま、思っていたよりも居心地がいいっていうのもあるんだけどね。りゅうちゃんもいるし。」

 凛の爺さんは深々と頭を下げる。

「この環境下に甘えていたせいで今回の事件を引き起こしてしまったんだけどね。」

「あの、なんで龍達はお兄さんを裏切ったんですか?」

「天界に一向に戻れない私への不信感、それと罪人、龍殺しの罪を問われている雨ちゃんのご両親への恩赦、要するに彼らの間で不満が溜まっていたということだね。」

「その節は感謝してもしきれませぬ。」

 爺さんはまた深々と頭を下げる。俺や凛への態度と180°違うので面食らってしまう。

「りゅうちゃんが萎縮することないってば。そもそも雨ちゃんぱぱままは何も罪は無い。そもそもちょっかいをかけたのは従者のほうでね、情状酌量の末、無罪放免と言いたいところだけど、天界の規律もあって余計拗れてしまって。

 だけど江利ちゃんとかけちゃんのおかげでなんとかなりそうだ。従者達の責任も問えるし。感謝してもしきれないよ。かけちゃん、これからも我々とは良い付き合いを望む。」

 龍神はにっこりとそう言うと手を差し出してきた。和平の握手といったところか。俺は慌てて服で手を拭い、おずおずと手を差し出し、握手を交わした。龍神の手は想像していたよりも冷たく、ほっそりとしていた。

「あ、言い忘れてたけど従者達にしたようなことはもう二度としないで。」

「なんのことですか?」

「怨霊と一緒に従者を取り込んだでしょう。あれダメね。絶対えぬじー。お兄さんとの約束。」

「ダメと言われてもどうやったのか覚えていないんです。」

「でたでた。人間お得意の使えるけど仕組みが分からないってやつ。君達はもう少し自分の能力は誰から与えられているのか学んだほうがいい。でないと、与えた張本人が方針を変えた時、君達の損失は計り知れない。そして君の中では、邪神は地上に返り咲く機会を待ちわびている。」

 どくんと心臓が跳ね上がった。妖怪遣いがかつて対峙していた邪神の姿が脳裏をよぎる。

怪協(・・)はその真実に研究室よりも近づいているようだけどね。」 

「……お兄さん、どこまで知っているんですか?」

「君達の数歩だけ先。少なくとも今回の事件、怪協も一枚噛んでいると睨んでいる。シャーロット先生達は手のひらで踊らされていたに過ぎない。あまり怪協を甘く見ないほうがいい。」

 今までの飄々とした態度とは打って代わり、突然真顔になった。新幹線片道三時間も離れている中学校のALTまで知っているとは、神は何でもお見通しらしい。俺の目をしばし観察した後、龍神は再びにっこりと含みのある笑顔に戻った。

「頼んだよ。怖がりなナイト君。」


ー京都旅行最終日ー

「ほらほら早くしないと置いてっちゃうよー。」

「ま、待て。なんで、そんなに、元気なんだよ!」 

 先を歩く江利は息が全く上がっていない。それとは反対に俺は息を切らし、1歩あるくのもやっとだ。超大型犬状態では気が付かなかったが、こんな山道を駆け抜けていたというのか。とても信じられない。

「着いたぁ!」

 一足先に辿り着いた江利は大きく伸びをする。狐が祀られている祠。昨日のお礼をしようと俺達は山の中の小さな祠を尋ね回っていた。

 江利は先ほど買った油揚げを皿の上に乗せて手を合わせる。俺もつられて一緒に手を合わせ、心の中で昨日の感謝、そしてついでに願い事を祈った。

 顔を上げてもまだ江利は目を瞑って手を合わせていた。やっぱり無理に言ってでも巫女服を着てもらうべきだった。絶対様になっていたはず。なんて邪なことを考えていると祠の後ろから狐がひょっこりと姿を現し、じっとこちらを見ていた。

「江利、あれ。」

「昨日の?」

 狐はふいっとそっぽを向いて山の奥へ行ってしまった。

「みんなつれないね。命をかけて一緒に戦ったのに、まるで無かったかのような態度だし。」

 江利は少し残念がっているようだった。

「きっと恥ずかしいんだよ。」

 慰めになるようなならないような一言をかける。

「ほらそろそろ集合時間だ。駅に行こう。」

「京都旅行も終わりかぁ。京都水族館は見れたからいいけど。」

「また今度、次は2人だけで来よう。」

「そうだね。今度は霊的な事件なしで!」

 駅に着くと俺達2人以外集合していて遅いという視線を投げかける。ふと雨宮を見ると泣き腫らしており、凛がハンカチで目を拭っていた。

「凛君、私のこと忘れないでね。」

「当たり前や!時雨のことずっと待っとるし、その、慕っとる。」

 後半は雨宮の泣き声にかき消された。

「ずっとこの調子なんだ。遠距離恋愛中のバカップルでもあるまいに。」

 桃原は眉を顰める。僻みか、とからかおうものなら鉄拳が下りそうだ。泣いている雨宮の両手はキーホルダーを固く握りしめられていた。道の駅に売ってそうな小学生男子がこぞって買う金色のドラゴンのキーホルダー。

「雨宮さん、その道の駅に売ってそうな浅草の木刀に匹敵するドラゴンキーホルダーはなに?」

 触れるべきか迷っていたところ、江利はオブラートに包むことも無く聞いた。白虎隊の木刀を持っている江利に言われたくはないだろう。

「こ、これ、凛君なんですぅー!」

 途中で思い出し泣きしてしまった。

「まぁ確かにドラゴンだけど。」

「これは俺ら龍の一族をモデルに造られたんや!カッコイイやろ!」

 これにはすけさんもKも驚いていた。懐かしい定番のお土産が、まさか由緒正しいものだったとは。ところが江利はただ一人蔑むような目で見ている。江利と凛は相容れないみたいだ。

「これでお前らのこと見張っとるから、時雨泣かしたら承知せんで!」

「凛くーん!!」

 これ以上は雨宮が泣くだけと判断し、凛とKに別れを告げ俺達は大洗へと帰っていった。様々な感情を、心に残して。

ー丑の刻参りツアー 相容れない2人ー

「雨宮さんって元々金髪なの?」

「いや、前は綺麗な黒髪やったんやで。」

「へぇー。雨宮さんっておっとりしてるように見えて金髪とか意外とパンクなのね。」

「それはその、俺が時雨を選んだちゅうか、それで神の所有物判定されてもうて変色したちゅうか……」

「サイッテー。やっぱ番盗ってる種族はダメね。」

※江利個人の見解です

「なんでや!いいやろ!番!運命!女はみんな好きやろうが!」

※龍の一族の見解です

「サイッテー。雨宮さんはもっといい人を見つけたほうがいいわ。」


続く!!

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