File9 そうだ、京都に行こう♯13
その晩、感謝会兼送別会は本当に行われた。
「いいかお前ら。研究室の連中は育ちが悪いなんて噂が広まったら公安の恥だからな。行儀よくしてろ。」
すけさんの忠告は耳に届いていないらしく、江利と桃原は目の前のご馳走に目を輝かせている。
「だから3人は旅館に留守番させておけと言ったんです。」
「仕方ないだろ。龍神直々の呼び出しなんだから。」
「その龍神の姿が見えませんけどね。」
すけさんとKは龍神がいないことが不満らしく、周りに聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで文句を言っている。そんな気遣いは無駄だったようで龍神陣営はばっちり耳に届き二人をすっごい睨んでいる。凛に関しては鱗と同じ翡翠の目を光らせて江利を威嚇している。感謝会のはずなのに感謝する側からまったく感謝が伝わってこない。
バチバチと火花が散る中、今回宴会の幹事を任された凛の爺さんがこほんと咳払いをする。
「両者、蟠りがあるだろうが龍神様の計らいだ。この場は水に流そうではないか。不平不満は全て私が引き受ける。では、唱和願おう。」
全員がグラスを手に取って掲げる。未成年者4人のグラスの中身は勿論ジュースだ。
「乾杯!」
乾杯とあとに続き、正面に座っている人とグラスをコツンと合わせる。周りの人の見よう見真似で俺も目の前の仲居さんとグラスを合わせた。パチパチパチとまばらな拍手が起こった。
隣の江利はグラスを合わせてすぐさま自分の皿に料理をよそっていた。俺の分までこんもりよそってくれた。
「意地汚さがさっそく出てますよ。」
Kに咎められるも、江利は無視して手を止めない。
「江利、こういうときは偉い人から取ってあげるんだよ。」
と、テレビでマナー講師が言っていた。桃原だってちゃんとすけさんからーかなり少なめだがー盛ってるのに。
「あたしにとって偉い人は翔瑠君だけだからね!その他はいい大人なんだから自分で取りなさいよね。というか小さい子優先って子ども会で習わなかったのかしら?」
一緒にマナー教室に通ったほうがいいのかもしれない。講師に難癖を付けて出禁にされそうだけど。
「躾がなってねぇなぁ。俺は爺どもを潰してくるから利口にしてろよ。」
そう言うとすけさんは日本酒とご馳走が乗った皿を持って凛の爺さんのところへ行った。すけさんは躾というかモラルがなってない。
「大人はよくあんな不味いの呑めるわね。」
「呑んだことあるのか?」
「小さい頃近所の鬼から妙な酒を貰ってお姉ちゃん達と呑んだのよ。あの日の記憶は口の中が最悪なことになっていたことしか覚えていないわ。あたしはそれ以来一生あんな不味いものは呑まないって誓ってるの。」
未成年飲酒どころの話ではなかった。
「それ新便鬼毒酒のことじゃないよな?!」
桃原は衝撃を受けている。新便なんとかという酒は知らないが、人体にはあまりよろしくない成分が含まれていそうな名前だ。
「さぁ?いっつも酔っ払ってたからね。そんなことよりほら雨宮さんの分も。」
鬼の話をもう少し詳しく聞きたかったが、江利はいつものことだと言った様子で、雨宮の皿を勝手に取る。突然声をかけられた雨宮はびくりと体を震わせた。
「え!私はそんなに……。」
「本日の主役なんだから遠慮していてはダメだぞ。雨宮さんがいなかったら江利も翔瑠も死んでいたからな!」
「えっ。」
色々ありすぎてすっかり忘れていたが、俺達は怨霊のせいで火傷を覆ったんだった。特に江利は全身皮膚がただれ死んでしまってもおかしくない状況だった。だが、火傷跡すら残っておらずすこぶる元気である。
「雨宮さんが救護の手伝いに当たってくれたんです。治癒能力は私も初めて見ました。」
「手をかざしただけで治っちゃったのよ。あれどうやったの?」
「えと、」
雨宮はどうしたらいいものかと困ったように凛と俺達を交互に見る。
「時雨はお前らと違って由緒正しい龍神様の巫女やからな。」
凛はこほんと咳払いをし、自分のことではないのに誇らしげに話し始める。
「龍神様の権能を少し扱うことが出来るんや。あんなかすり傷。時雨にとっちゃ蚊に刺された程度や。」
「大丈夫?あとで代償を回収しに来たりしない?寿命一気に持ってくなんてことしないよね?」
「しませんよそんなこと!ちょっとその年の降水量が減るだけで。」
「それマズくない?列島が干からびるわ。」
思ったよりも代償が大きい。なんということだ。俺達のせいで、この夏、列島は砂漠地帯になってしまう。
「だから乱用厳禁なんです。今回は特例です。龍神様のお陰で梅雨が三日遅れる程度に収まりました。龍神様には感謝してください。」
「貴船のお兄さんは?大量出血どころの騒ぎじゃなかったけど。あれこそ雨が降らなくなりそうだったわ。」
凛は『はぁ?』と怪訝そうな顔をした。まだ江利は青年が龍神様であることに気がついていない。
「俺に兄貴なんかおらん。」
「え?じゃああのお兄さんは何?」
「江利、たぶん、あの人が龍じ……」
「兄上!兄上おる!奔放な兄上が!」
凛が焦ったように大声で被せてきた。
「そ、そうです!凛君のお兄さん!離れた腕をくっつけるのは一苦労しました!今年の年間降水量は1000mm減少しますね!」
「1000mmってどのくらい?」
「バケツをひっくり返したようなって言うだろう。あのくらいだ。」
「それはありがたいわ。雨が酷いと髪は決まらないし偏頭痛にも悩まされるんだから。」
「そ、それよりも!」
凛が無理矢理話題を変えた。
「あのガイジンはなんや?イギリスのエムー、MMロクみたいなやつ。」
「MI6!まったく、どうして誰もあの名作を見ないんだ。あんなにカッコイイのに!あの作品で外せないのは……」
「長くなるわ。この話は終わりにしましょう。」
タオは宴会が始まる前も永遠とあの小説の話をしていた。きっと面白い作品なのだろうけど熱量が違いすぎて着いていけない。
「私達が、あなた方を信用出来ないのはそれが理由です。」
遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。本年も江利の愉快な仲間共々よろしくお願いします。
言い訳ですがとあるゲームの終章を迎えていたら遅くなりました。ゲームに関わった多くスタッフのみなさん、先輩マスターのみなさんお疲れ様でした。
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