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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File9 そうだ、京都に行こう♯12

 山に、立っていた。木々は枯れ果て、動物達は死に絶えている。その原因は俺にあると何故か理解していた。ここはどこで、さっきの祟り神はどうなったのかは分からないのに。

「神々を蹂躙し、民達を恐怖に陥れ、其方は何になるつもりか。」

 殺気立った目で睨み付けてくるのは、助けてくれた謎の青年。青年は額から頬にかけて引っ掻き傷が付いていた。祟り神に奪われた右腕は元通りになっていたが、その代わりに左目は開かれることはなかった。

 ふと足元に視線を向けると、邪龍退治に協力してくれた狐と蛇がぐったりと横たわっていた。さっきより少し大きくなっている気がする。この状況はなんだ。まさか俺が気を失っている間に体を乗っ取られ破壊の限りを尽くしたのか。

「恐れ多くも伊邪那美命様への復讐を企てているのではないだろうね?」

「復讐?」

 勝手に口が開いた。『イザナミ』という言葉に憎悪の炎が燃え上がる。

「伊邪那美如きにそんな感情を抱くと思うか?これは日の本の継承者争いさ。俺は何れ天界に降臨し、天照からその座を奪い日ノ本の支配者となる。手始めに、その子孫から根絶やしにしなくてはな。」

「道理で近頃かんちゃんを占うと大凶となるわけだ。だが其方の本懐は遂げられずに終わる。天照大御神様はもう既にお気づきだ。私にも敵わない其方が、大御神様の基へ辿り着けるはずもない。」

「いいや、遂げるさ。なんのために態々遠回りをして神殺しをしてきたと。」

 青年はハッとする。

「まさか、其方は……!」

 俺の体は既に人の姿をしていなかった。ぎょろりとした目玉、

山を八巻くらい出来そうな巨大な体、無数の手足には鳥肌が立ってくる。そう妖怪図鑑に乗っている大百足そのものになっていた。

「だがもう遅い。龍神、お前も我が支配の礎になるがいい!」

「させるかぁぁぁ!!」

 青年は龍の姿で対抗する。きらきら光る綺麗な青色の鱗を持ち、目が合った者を圧倒するような金の瞳。

 邪神はそんな神々しい龍神に怯むこともなく勝負を挑み、その戦いは三日三晩続いた。戦争の後、残ったのは左の翼が折れた龍神と力を失い一寸ほどしかない小人となった邪神だった。


 ハッとして目が覚める。さっきのは夢だったのだろうか。そんなことより江利は、邪龍は、龍神は。頭も視界もはっきりしない。

「だから儂は言ったのだ。早々に処分すべきだと。」

「もっと慎重になるべきだ。こやつを封じたとて、邪神までも封じ込められるのか?人間の器を喪ったことで、復活を遂げたらどう責任をとる?」

 老人達が嗄れた声で揉めている。体勢を変えようと試みるもカチャカチャと金属の音がするだけで全く動かない。

「し、縛られてる?!」

 それはもう厳重にがっちがちに鎖で縛られていた。腕には手錠、足首にも重りがついている。問題は寝かされているところなんだが、俺を囲むように木が立てられ、しめ縄が飾られていた。あとなんだか下から風が吹いている。

「争っている場合でない。さっさと龍穴に突き落とせば良かろう。邪神とてこのエネルギーには敵うまい。」

「異物を落として龍神様に何かあった場合、責任を取れるのか!」

「龍穴?!」

 俺の声が響き渡った。ここはどうやら地下のようだ。そしてこの光景、江利が昨日言っていた貴船神社の龍穴がある場所と似ている。ということはこのまま落とされたら四肢断裂してこの世とおさらばだ。

「目覚めてしまったぞ。」

「貴様の声が大きいからだ。」

 老人達は再び揉め始める。

「ここを通せって言ってんだろうがよ!!」

 中だけでなく外も騒々しい。地下に通じる扉の向こうでは複数人で何やら言い争っている。

「今は立ち入り禁止や!黙って待ってろって保護者から言われへんかったか!」

「待ってられるわけないでしょうが!翔瑠君を返して!だいたい誰のおかげで無事だったと思ってんの?!ここで一族根絶やしにしてやろうか?!」

「そうだそうだ!この因習一族め!お前達なんてな、全員川から足突きだして溺れてしまえ!」

 この甲高い声は江利と桃原だ。

「もういっぺん言うてみぃ!俺は女やろうと容赦せんで!」

「かかってこいや!重要文化財だろうが知ったこっちゃねぇ!この神社ごと吹き飛ばしてやる!」

「そちらがその気なら研究室は総力を上げて対抗する!」

「凛くん落ち着いて!皆さんも!!」

 一人冷静な雨宮は止めに入るが、言い争いは止まない。物騒な音まで聞こえてきたが、取っ組み合いの喧嘩をしてるわけじゃないよな。

 すると老人達がはぁ〜と深いため息を一斉についた。

「騒々しい。静かに出来んのか。龍人に選ばれたとはいえ、甘やかしすぎではあるまいか?」

 あの爺さんが孫を甘やかしているところなんて想像出来ないけどな。

「埒が明かないわ!邪魔よ!どきなさい!!」

 ばごん!とドアを破壊する音が聞こえた。

「耄碌爺ども!施設に入れられる資金はあんだろうなぁ!」

 元気そうで安心する。

「江利、目上の人にいくらなんでもその言い方はないよ。」

 驚きよりも注意が出るとは俺もいくらか余裕があるらしい。

「…………お爺様方、天に召される心の準備は出来ていますか?」

「丁寧にすればいいってもんじゃないからね。」

「無礼者が!誰の許可を得てここに入ってきた!」

 言わんこっちゃない。喧嘩腰で来れば向こうも喧嘩腰になるに決まっている。それでも江利の減らず口は止まらない。

「生憎老人ホームの面会はしたことないんでね!」

「貴様……、龍神様。」 

 突如老人達が姿勢をただし、はは〜と水戸黄門のお決まりみたいな声を出しながら土下座した。老人達の注目を集めていたのは謎の青年もとい龍神だった。

「ふん、ようやくあたしの偉大さに気がついたみたいね。これに免じて年金2ヶ月分で手を打ってあげましょう。」

「江利、後ろ。」

「ん?」 

 得意げになっていた江利は後ろを振り返る。

「お兄さん!」

「やぁ江利ちゃん。元気そうだね。」

 切り離されたはずの龍神の右腕は元通りになっていた。潰れた左目も顔の傷も存在していなかった。

「腕くっついたの?!」

「雨ちゃんのおかげでこのとおりさ。それよりこの場を正さないと。」

 龍神は1歩前に出た。少なくとも1000年は生きている龍神にとってはこの老人達も子どもに見えているのだろうか。

「皆、顔を上げて。」

 恐る恐るといった様子で顔を上げる。すると江利が駆け寄ってきてくれた。

「目の前にいるのは邪神の末裔。」

 手で鎖を引きちぎろうとするが、ビクともしない。

「思うところがあるのは理解出来る。だけど先祖は先祖、子孫は子孫だ。何より今回の一件の功労者は江利ちゃんとかけちゃんだ。」

 今度は落ちていた石を叩き付けてみる。カンカンカンという音が会話の邪魔をするだけで何も起こらない。むしろ凄い勢いで叩いているので、俺の手にいつ当たるか不安になってくる。

「それでもまだ断罪が必要というのなら、この事態を招いた僕が受ける。」

「滅相もございません。」

「じゃ、かけちゃんは解放でいいね?これから僕らはやることがあるんだから。」

「仰せのままに。」

 龍神が突然俺のほうに寄ってきて鍵で鎖を外してくれた。鍵ちゃんとあったんだ。

「2人とも、貴船神社に帰るよ。今日は君達への感謝の会と雨ちゃんの送別会だ。」

 全く話を聞いていなかった俺と江利は顔を見合わせる。

「「送別会?」」

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