File9そうだ、京都に行こう♯10
「おい待てって!そいつらは……」
こちらの静止に全く耳を貸さず、2匹は七つ頭の龍に向かって一直線に駆け抜けていく。するとだんだん2匹の体に変化が生じ始めた。
「蛇よ、奴らの行動を止めよ!」
「分かってるっての!」
狐に命令された蛇は、テレビでしか見たことないようなジャングルに住むアナコンダのような巨大な大蛇に変貌した。
そして背後から七つ頭の龍に絡みつき、目一杯の力で締め上げた。龍は大蛇から逃れようと抵抗するが、抵抗すればするほど大蛇の締め付けが強くなる。
「九尾!モタモタしてると俺が絞め殺しちまうぞ!」
「戯け!貴様ごときが龍神の配下に敵うはずもなかろう!」
狐は超大型犬バージョンの俺よりも一回りほど大きくなり、一本だったしっぽは根元から先端にかけて9本に分かれた。これが妖怪図鑑でよく見る九尾というやつか。
「下級妖怪が、我らに勝てるとでも思っているのか?」
「ふん、何千年も前に時の勝者となったくらいで上級などと自惚れるでない。」
「鏡でも貸してやろうか?お前らは八岐大蛇様の真似事をしてるだけだ!くおりてぃが低いな!」
龍もただただやられているわけではなく、大蛇の拘束を抜け出した一つの首が噛み付いた。大蛇は悶えていたが、こちらも負けじと大口を開けて首に噛み付く。凄く痛そう。
狐はというと邪龍目掛けて口から炎を噴き出した。が、邪龍も黒い霧のようなものを吐き出しこれに対抗する。2体の攻撃は正面でぶつかり合い、しばらく拮抗していたがやがて跡形もなく霧散してしまった。映画化も夢ではない。
「ほれ!主も見ておらんで手伝え!」
光の戦士に出てくるような大怪獣大戦に、比較的一般人の俺を巻き込まないで欲しい。そんなことを思っていると、
「巫女さんにだけ働かせるつもりか?情けねぇないとだな。」
そこまで言われてしまっては傍観者に徹しているわけにはいかない。俺はどうにでもなれと邪龍に近づき、がら空きの右の足か腕にあたるところを思いっきり齧った。
すると龍は悲鳴を上げ、暴れ始めた。離さないよう必死に喰らいつく。
「何があってもギリギリまで離すなよ。巫女さんを勝たせたかったらな!」
返事をする余裕もない。無我夢中で噛んでいると、ふわりと自分が浮く感覚がした。
「小僧、射程範囲だ。少し左に避けろ。」
人がせっかく押さえ込んでいる時にさっきからいちいちうるさいなと思いながら、言う通りに体を少し左に避けた。
その直後、俺の真横すれすれを猛スピードで風が通り抜けた。邪龍は一刀両断され、青年が開いた黒い穴の中へ吸い込まれて行き、穴は素早く閉じられた。
「え、今のなに……?」
「ふぅー、危なかった。天狗め、俺のことも巻き添えにしようとしてたな。」
いつの間にかに蛇は大蛇から普通の蛇に戻っていた。
「翔瑠君!」
草むらから木の枝を持って頭に葉っぱを付けた江利が出てきた。そこら辺に枝を放り投げ俺に駆け寄って首に抱きついてきた。首を絞めんばかりの勢いに変身が解けてしまいそうだったがなんとか耐える。山の中で、しかも江利の前で、素っ裸になるわけにはいかない。
「大丈夫だった?さっきの当たってない?」
「どこもなんともないけど。」
「良かったぁ!」
「さっきのは何?」
「つむじ風じゃよ。ちょっと触れたら切断されるくらいの。」
答えたのは一匹の烏だった。空から降りて江利の肩にちょこんと乗った。
「天狗のじーさんが教えてくれたの。ほらね、あたしの潜在能力も凄いでしょう。」
「なにが凄いじゃ!まだまだ修行が足りん!」
烏は江利の頭をつついた。血は出てないからたぶん手加減はしてくれている、と思う。
「いやー、狐さん、蛇さん、それと天狗さんありがとうね。」
青年がへらへらしながらやってきた。
「ふん、白々しい。妾達が来るのを知っていたようではないか。」
「そんなことはないよ。」
と言いつつも、青年がにやにやしているところを見るに確信犯だ。まさか、俺達が遭難していた甲斐があったとは、江利の霊的勘が働いたのか、はたまた龍神様の思し召しか。
「旦那ぁ、これで貸し借りなしだぜ。」
「貸し借りもなにも、アレは貸しでもなんでもないって。」
蛇はチッと舌打ちをして、山奥へすーっと地面を這いずって戻ってしまった。
「妾も帰ろうとするかの。貴様も程々にな。それと小娘と小僧。毎回こう上手く行くと思うでない。相手の力量を観察し、よく考え動くように。」
激しく同意だ。そして狐も背を向け、烏も江利の肩から飛び立とうとした時、
「全員逃げろ!」
真っ先に帰ったはずの蛇が戻ってきた。彼の物凄い形相に俺達が困惑している中、いち早く反応したのは江利だった。
地面に放り投げた木の枝を素早く拾い上げ戦闘態勢を整える。と、同時に何も無い空間から黒い穴がぽっかりと開き、鋭い爪が江利目掛けて振り下ろされていたが、すんでのところで江利は木の枝で防いだ。




