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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
72/75

File9 そうだ、京都に行こう♯9

 折角命からがらあの怪しいカルト集団から逃げ出したというのに、俺はまた奴らの前に飛び出した。こんな巨体で、オマケに龍神の鈴ー偽物だと思うけどーをリンリン鳴らしながら走っているのだ。気が付かないはずがない。

 俺の姿を一人が発見すると、静かにだけど猛スピードで追いかけてきた。多くのホラーゲームは逃走中に甲高いBGMが流れるけど、実際に聞こえるのは烏のカァカァという不穏な鳴き声ばかり。こうも静かに追いかけられると恐怖もマシマシだ。怖いのとグロテスクなものは一番苦手なのに、泣きそうなところをグッと堪えて再び逃げ回る。命懸けの鬼ごっこが始まった。


『率直に言おう。僕達は彼らには敵わない。』

 青年はきっぱりとそう言い切った。江利は言い返そうと口を開きかけたけれど、結局言葉が発せられることはなかった。手痛い攻撃を受けたが、たぶんあれは奴らにとってはちょっと小突いたくらいの感覚なのだろう。

『じゃあどうするんだよ?』

『彼らの故郷にお帰り願おう。』

『故郷?』

『天界にね。あとは大御神に裁いてもらう。僕らは帰宅の手助けをしてやるというわけだ。』

『天界なんてどうやって繋ぐつもりなわけ?ご近所さんみたいに遊びに行けるところじゃないわよ。』

『まあまあ、そこはなんとか出来るさ。』

 この青年、ほんとに大丈夫なんだろうか。江利もきっと同じく疑っていただろうけれど、あいつらの足元にも及ばない俺達は謎の青年を信じるしかなかった。渋々、といった具合で青年の作戦に乗ることにした。


 俺はちらりと江利が指定された位置を見る。キラリと光が反射したのが見えた。目標地点まではそろそろだ。俺は遠吠えをする。

 すると地面に落ちていた落ち葉や木の枝が風に攫われ徐々に舞い上がる。やがて風は強まり、渦を巻き始め竜巻のように勢いを増していく。俺は竜巻に巻き込まれてしまわないようその場から離れる。

 少し離れた先に青年が立っており、すぐ傍にブラックホールのような真っ黒な大穴が空いていた。その周りだけ背景がぐにゃりと歪んでおり、現実のものとは思えない。

 青年の作戦は至ってシンプルなもので、俺が奴らを誘導し、江利の攻撃が及ぶ範囲まで惹き付け、それを見計らい江利は嵐を巻き起こし青年が開いた天界の入口まで運ぶというものだった。そう上手くいくはずもないと思っていたが、反逆集団が宙を舞っているところを見る限り作戦通りにいったようだ。ちょっと拍子抜けする。

 が、数秒後には自分の考えが甘かったことを思い知らされる。あと一歩で青年が開けた空間の中というところでぴたりと風が止んだ。

「人間のわりにはなかなか骨がある娘だ。」

「だが我らには遠く及ばない。」

 目の前の光景に唖然とする。なんと7人は一つの体に纏まっていた。伝説の八岐大蛇のように頭が7つある巨大な龍の体に変貌を遂げていた。八岐大蛇と違うのは首は8つあるが、真ん中の1つは首から上が断面のように斬られていた。こんなのとどうやって戦えというのか。

「今度はこちらの番だ。」

 圧倒されている場合じゃない。化け物はこちらにじわじわと近づいてくる。兎に角江利を避難させるべく、俺は駆け出す。妖力も限界に近く、満身創痍ではあるがなんとしても守らなきゃ。

「騒がしいと思って来てみれば、なんじゃこの有り様は。図体がデカイだけではないか。」

「ほんとにこいつ邪神の親戚なのか。弱っちいにもほどがあんだろ。」

 変な声を無視して一歩踏み出すと、肉球に何かあたった。

「これ!どこに目を付けておる!」

 下を見ると、四足歩行をしている狐と舌を出している蛇がいた。

「は、え、は?」

「犬のくせして鳩が豆鉄砲を食らった顔をしおって。」

「お前、それ言いたいだけだろ。現代の流行りに乗りすぎだ。」

 間違いない。声の主は……、

「狐と蛇が喋ったー?!?!」

「バカ犬も喋っておるだろうが!神の寝床にズカズカと入ってくるわ、祠を荒らすわ、この高貴な我らを化け物呼ばわりするわどんな教育を受けているのだ!」

「寝床?」

 数刻前のことを思い出す。江利のせいで迷子になったとき、確か狐と蛇が祀っている神社に迷い込んだ。祠荒らしをしたつもりはなかったが、あの巨体で走り回っていたのだ。人が住んでいたら振動やら騒音やらでご近所トラブルとなっていたところだろう。

 遠くから江利の声で『カラスが喋ったー?!?!』と、身に覚えのある叫び声が聞こえた。

「天狗の奴、カラス呼ばわりされているぞ。」

 蛇はしゃーしゃーと舌を出して笑っている。

「まったく祟ってやろうと付いてくれば情けないったらあーりゃしねえ。お前、化け犬なのだから、アッシー君に徹してねえで、化け犬らしいことして見ろや。」

「アッシー君ってなんだ。」

「女の都合のいい足のことさ。今のお前にピッタリだ。お姫様が頑張っているのにお前はぼーっと見てるだけ。臆病者め。」

「お前達みたいな最小動物に言われたくない。」

「こやつめ、見た目で妾を侮っておる。愚かよな。」

 見た目も何も真実じゃないか。

「だから守れねえんだよ。見ていろ、お前が侮った俺らが一体何であるかを。」

 そういうと狐と蛇は止める間もなく小さな小さな体で七つ頭の龍の元へ向かった。

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