File9 そうだ、京都に行こう♯8
「ここまでくれば時間は稼げる。かけちゃん、犬神の血引いてるくせに遅いね。」
「お前、どういうつもりだよ!」
ぜーはーぜーは息を切らしている俺と対象的に、青年の呼吸は一切乱れていない。
「あんた、何者?」
さっき手酷い反撃を受けたからか、江利は警戒心を強める。青年に地面へ降ろされると、くるりと青年を睨みつけ、左手を拳銃のようにし青年の首に突きつける。青年はさっきの集団とは違ってちょっと豪華な服装をしていた。神主なのだろうか。
「そんなふうにしないでよ。流石の僕も泣くよ。」
「じゃあ誰よ?」
「僕は凛ちゃんのお兄さんだよ。」
「凛の?」
確かに似ているような気がしなくもなくもない。
「じゃあなんで巫たちに囲まれていたのよ?」
「あれは巫じゃないよ。彼らは元々私……、龍神の従者だったんだ。」
龍神の従者ということはあの7人は正真正銘の龍なのだろうか。それならあの強さに納得だ。
「彼らは諸事情で龍神を裏切ることにしたみたいだ。僕が止めに入ったらあの始末さ。」
「諸事情って。よっぽど勘に触るようなことをしたのね。従者が楽しみにしていたアイスを食べたとか、テレビのチャンネル権を譲ってくれないとか。」
そんなことで神様が裏切られていたら今頃日本は誕生していない。しかし、青年は否定せず、
「そんなとこかな。横暴だったんだろうねぇ。」
と適当なことを抜かした。
「いやー、あと一歩君達が遅かったら、この京都は龍による恐怖政治が始まっていたかもしれない。いや、」
青年は深刻な面持ちで口を開いた。一体京都の街はどうなってしまうところだろうか。
「劇場版スーパードラゴン大戦シリーズが始まっていたかもしれないね。一作目はVSフォックスで二作目はVSスネークだろう。」
「そんなタイトルじゃ一作目で大コケして、誰が見るんだっていう時間に追い込まれて終わりよ。それに一作目は内輪モメからでしょうが、フツー。」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだからな!!」
この中で一人京都の未来を憂いていた俺は耐えきれず突っ込んでしまった。たちまち江利がシュンと擬音が聞こえるくらい縮こまってしまった。
「……ごめんなさい。」
「そうだよ江利ちゃん、呑気にもほどがあるよ。」
「特にお前に言ったんだが。」
青年はこほんと態とらしく咳払いをした。
「はてさて、このまま世間話に花を咲かせていれば、僕ら三人とも裏切り者に抹殺されてしまう。」
「そうは言ってもあたしと翔瑠君の状態を見ればわかるでしょ。アレには適わないわ。」
江利が断言する。いつも強気な彼女がこう言うということは相当難敵なのだろう。青年は江利の背中に触れ、少し強く押す。
「ちょっと不味いね。骨折まではしてないだろうけど、痛いでしょ。」
「これくらいなんともない。平気よ。」
口とは裏腹に、顔は痛みで歪んでいる。だから青年は丁重に運んでいたのか。
「その意気だ。心苦しいけど今は無理してもらわないとね。あとで雨ちゃんに治してもらおう。だからちょっとだけ我慢して。」
江利はこくんと頷いた。
「ここはお兄さんが一つ知恵と加護を授けよう。」
江利と俺はキョトンと顔を見合せた。




