File9そうだ、京都に行こう♯7
江利の勘によって山を彷徨うこと数十分。鬱蒼した木々を前に遭難しているのではないかと不安になってくる。
江利の勘を頼りにそれらしき場所に駆け回っていたが、まったく当てにならず、山の奥にひっそりと佇むこじんまりとした祠に何故かたどり着いてしまう。確か狐や蛇が祀られていた。江利の勘はなんだかんだでいつも当たるのにこんなことは初めてだ。龍とは相性が悪いのかもしれない。
だが出来た彼氏である俺は、間違いを指摘したりせず、何度目かの無関係な祠に辿り着いたあたりで、江利の指示はガン無視して、今度は邪神の勘を頼りに進んで行った。方向音痴な彼女は全然気が付かなかった。
俺は妙な気配を感じてふと立ち止まる。目の前に突然現れた豪華な社。その中から今までの妖怪達とは比べ物にならない禍々しくも神々しい妖気が溢れていた。
「ここじゃないかな?」
こんな異様な妖気に江利は気にする様子もない。
「嫌な感じがする。やっぱり引き返して、ドラさんに報告しよう。」
「そんな悠長なこと言ってたら、龍神がゲテモノ料理にされてしまうわ。」
「料理するためにあいつらもわざわざ来たわけじゃないと思うけど……。」
「何にも心配いらないさ!あたし、潜在能力と妖力は人の身に余るくらいあるらしいから!」
妖力が強くても、使える技術がなければ意味がないってエージェントは説明していたが、都合のいいことしか耳に入っていないようだ。諭すべきか迷っていると、
「さぁ、扉を壊して登場しましょう。ヒーローは神出鬼没なのよ!」
などと、無茶な提案をしてきた。こうなってしまえばやけだ。俺は助走をつけ、入口を破壊しながらのド派手な登場をする。
「神狩り共め、そこまでよ!」
江利は元気よく言い放つ。すると不気味な集団が一斉にこちらを見た。巫のように白い上着に黒い袴を着て、文字がびっしりと書かれている布切れで顔を覆っている。……微かに、甘い香水の香りがした。
7人の怪しい集団は何かを囲うように輪になっていた。隙間から中心を見ると、そこには青年が立っていた。集団で龍殺しの儀式でも行っていたのだろうか。
「江利、龍神がいない。」
「ほんとだ。さては幽閉しているのね。さぁ、龍神を解放しなさい!今なら命までは取らないであげるわ!」
この強気発言は直した方が良いと窘めるため口を開きかけた時、
「君達、逃げるんだ!」
囲まれていた青年が焦ったように叫ぶ。その瞬間俺と江利はともに外に投げ出され、木に叩きつけられた。
「何故人間がここに。」
「悪しき者の末裔がいるぞ。」
今まで散々締め上げられたり、物凄い握力で手を繋がれたり、包丁で指を結構深く切ったりと色々な痛みを経験してきたが、比にならないくらいの激痛だ。
体長約2m、体重約300kgー研究室調べーの化け物を一瞬で吹っ飛ばすなんて只者ではない。
江利が地面に伏しているのが視界に入った。こんな化け物でさえ痛みを感じるのだ。普通の人間である江利はタダでは済まない。最悪の事態を想像してしまったが、それを払い除け体を起こし、慌てて江利に駆け寄る。
「江利!」
「いったぁ〜!随分な歓迎ね。普通ぶぶ漬けを振る舞うところでしょうが。」
悪態をつくくらいには元気なようだ。
「ぶぶ漬けを出されたら、早々に帰るものだよ。」
いきなり現れて江利を支えたのは先程の青年だった。
「あんたさっきの……」
「話は後、かけちゃんは走れる?」
かけちゃんって俺のことだろうか。
「なんとか。」
「じゃあ僕の後に付いてきて。」
「ちょっと!下ろしてよ!」
そういうと江利をお姫様抱っこし、走り始めた。
……お姫様抱っこ?!
「お前!!」
俺は全速力で青年を追った。
自分の途方もない妄想に苦戦しております。化け物退治って大変なんですね。投稿カタツムリです。




