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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
7/66

File1 切り裂きジャック#3

「痛い。」

 目を覚ますと真っ白い天井が目の前に広がった。

「動かないほうがいい。」

 上から鬼塚が覗き込んでいた。久しぶりに声を聞いた。  

 寝ぼけて働かない頭をゆっくりと動かし状況を整理する。人が寝ている上で宿題を広げている鬼塚を見るに、あたしはまだ死んでいないらしい。となると自ずとここがどこか答えは出てくる。

「病院?」

「日赤。小さい病院じゃ診られないって。」

 鬼塚は持っていたペンを病院ベッドの机に置いてナースコールを鳴らし、看護師を呼び出した。病室の向こうで小さな世界の曲が流れた。曲が止まると同時にはーいと間延びした声が返ってきた。

「水沢江利ですが、無事に目を覚ましました。」

と鬼塚が伝えると、ほどなくして看護師と医者が病室に入ってきた。医者がいくつか質問したあと、聴診器を心臓に当たられたり、レントゲンを撮られたりと病院でされること全てをされた。先生はうんと頷くと、

「今のところは異常見られませんね。お家の人はいますか?」

「いないです。母が出張中で。」

「おとうさ……」

「元からいません。」

「そうですか。親戚の方は近くにいますか?」

「従兄弟がいます。」

「じゃああとで連絡するので電話番号を教えてください。目を覚ましたばかりです。今は安静に。」

 そう言って病室を出ていった。あたしは2人がいなくなったことを確認してまたベッドに寝転んだ。そしてずっと気になっていたことを聞いた。

「あんたなんでいるの?」

「商店街に用事があって行ったら、お前が血だらけで倒れていた。」

「ふーん。ねぇ、あたしってどのくらい気を失ってたの?」

「今は昨日にとっての明日の10時だ。」

「え、そんなに寝てたの?!しかもあんた付きっきり?暇なの?てか学校は?」

「だから1回帰ったって!……あんな姿見て放っておけるかよ。」

 教育が行き届いているらしい。よくあんな治安の悪い場所でここまで人間の善性を保っていられるものだ。

「お前こそどうしてあんな人通りの少ないところを歩いていたんだ。危ないだろうが。ニュースでも事件のこと取り上げてただろ。まったく、記念すべき6人目の被害者だ。」

「まぁ、ね。それを解明しようと……。」

 鬼塚はちょっと引いている。

「なんで自分から厄介事に首を突っ込むんだ!」

「あんただって人のこと言えないじゃない!」

「お、俺は大事な用事があったんだ!」

「自分の命より大事な用事ってなによ!」

「水沢の探偵ごっこよりは大事な用だ!お前も変な詮索はやめて警察に任せたほうがいい。眠っている間も来てたぞ。」

「そりゃあわざわざご足労をかけたわね。」

 全身に鋭い痛みが走った。起き上がるって腕をみると、右腕に皮膚の間に針が縫い付けられている。それからパジャマのボタンを少し外して患部の確認をすると左肩から腹にかけて右腕と同じような縫い目が施されている。しかも3本線。3本とも体の姿勢をピシッと真っ直ぐにすると一直線になる。大型動物に引っかかれた跡のようだ。

「よくこれで生きてられたわよね。」

 眺めているとだんだん痛みが増してくる感覚がしてボタンを留め直す。さっきからそわそわして目を逸らしていた鬼塚が口を開いた。

「……謝らないからな。俺に近づくからだ。」

「なんで謝るの?あんた何も悪いことしてないじゃない。それともあんたが真犯人なの?」

「違うけど。」

「じゃあ謝る必要なんてないじゃない。」

「俺と関わったからだ。他の被害者だって入院までの怪我は負わされていない。きっとお前のときだけ犯人が手を滑らせて想像していたよりもざっくりいったんだ。」

「そんなことあるのかしらね。同一犯だと思う?」

「俺に聞くな。探偵に聞け。推理小説の見すぎだ。」

「ぽっと出の奴が華麗に推理をして警察に自首させるなんてちょっと癪ね。憂さ晴らしに犯人を見つけて文句を言ってやりたいわ。しかももう明日でしょ。せっかく1000日連続ログインまだあと一歩だったのに台無しじゃない。最っ悪。」

 あたしにここまでの重症を負わせて、連続ログボを台無しにした罪は、日本の刑罰では済まされない。一言二言罵声を浴びせなければ後悔が残るというもの。

「もう一度行く必要があるわね。あのときはただ歩いて回っただけだったから。」

「また行くのか!今回何針縫ったと思っているんだ!」

「人間なんて生きてりゃ100針くらい縫うわよ。針千本飲む約束何回してると思ってんのよ。ちょっと!なんでまたナースコール無言で押そうとしてるのよ!」

「頭の病気だ。重症のな。」

「いや、ち、違うのよ。こ、これは唯一あたしの話をまともに聞いてくれるおかしい……、とっても優しいクラスメイトのためでもあるのだよ!」

 自分のことを言われていることに気がついてジトっとした目であたしのほうを見る。

「犯人が分かればあたしが大怪我したのも呪いじゃないってなるでしょう。そもそもそんなのあればどれだけ人生楽になると思ってんのよ。上手くいかないことはぜーんぶ呪いのせいにすればいいんだし。だから!ナースコール押さないでよ!」

「他人の悩みを茶化した罰だ。」

「違うってば!あたし神社の元娘だから!ほら、真相を突き止めて本当に呪いだったらお祓いするし!そのためにもまずは切り裂き魔を突き止めないと!」

「被害者はお前と今日の合わせて7人も出ているんだぞ。俺らで解決できるもんか。」

「あたしを誰だと思っているのよ!地元じゃ負け知らずの有名な最終奥義の水沢江利ちゃんよ!久しぶりに本気を出そうかしらね。そんなに不安ならあんたも付いてきてよ!」

「はぁ?」

「あたしが退院でき次第さ!」

「巻き込むな。俺は行かないからな。」

「あんただって呪いだなんだってヒソヒソされるのに飽き飽きしてるんでしょう。」

 鬼塚の忌々しそうな態度を見ていれば分かる。

「なんで?」

「ん?」

「なんでお前は俺に構うんだ?」

「いやだって最近つまんなかったけど面白そ……」

 本音が半分以上でてしまった。あたしはこほんと咳をして、

「困っている人を助けるのに、論理的思考がいるのかい?!」

 鬼塚は無言でナースコールを押しやがった。おまけにあることないことを医者に吹き込んだ。おかげであたしは脳の大掛かりな検査を受けさせられ、3日くらいを予定していた入院が1週間に伸びた。

 腹いせに江利ちゃんパンチを食らわせたがまだ腹の虫が収まらない。

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