File9 そうだ、京都に行こう♯5
黒いスーツ、真っ黒のサングラス、金髪、2mはありそうな屈強な男二人組。外国人のマフィアはこんな格好をしていそうだ。
男の片割れはスイッチを左手に持っており、ボタンを押すと再び凛目掛けて地面から鎖が飛び出した。
「Don’t get careless. Even if it’s restrained, the dragon’s power is immeasurable. Keep it firmly under control.」
「Yes, yes, Mr Perfect's serious work ethic.」
中2レベルの英語を習っていない俺には全く2人の会話は聞き取れない。
「おのれ研究室!力で敵わへんからって卑怯な真似を!」
左右の翼と両手足を拘束されてもなお凛は抵抗を辞めない。寧ろ今にも喰い殺しそうな目で俺にあらぬ疑いを掛け睨みつけてくる。
「研究室なわけないだろうが!だいたいお前が俺をこんなところに呼び出したのが悪い!」
俺は鎖を引きちぎるべく超大型犬に変身しようとしたとき、背中に手を回され地面に叩きつけられる。カチャリと耳元で音がした。
「If you still have any regrets left in this world, don’t move.」
必死に抵抗しようとするも更に地面に顔を押し付けられ男の拘束は増すばかり。そして今気がついたが、俺はどうやら頭に拳銃を突きつけられているらしい。サーっと血の気が引く。今日で何回死にかければすむのだ。
「Hey, handle him with care! He’s the bait for the princess, remember?」
「If it turns into a hellhound, it’ll be a problem. Can’t be helped. If you want him alive, stop wasting words and neutralize the dragon.」
「ぐぁっ?!」
銃声とともに凛が耳をつんざくような大きな悲鳴をあげる。助けてやりたいところだけれども、俺にはどうすることも出来ない。しかし、遠くから聞き覚えのある足音が聞こえた。
「翔瑠君に、何晒しとんじゃボケぇ!!」
大好きな声とともに、ドスっと鈍い音が聞こえた。俺を押さえつけていた手は離れ、ようやく解放された。
「What's up?!」
「命の1個差し出す覚悟はあんだろうなぁ?!」
ズキズキする頭を抑えながら顔を上げると、江利がスーツ男の一人の胸倉を掴んでいた。
「You're the one who told me to be on my guard.」
仲間がやられたというのに、凛を取り押さえている2人は動揺した素振りも見せず鎖を引っ張り凛を地面に叩き付けようとする。凛の体には、猛獣の確保に使うような麻酔銃の針が刺さっていた。しかも実物よりももっとでっかいやつ。痛そうである。
「江利!まずは凛を助けないと!」
よろよろとなんとか立ち上がり、未だに男の胸倉を掴んで離さない江利に駆け寄る。
「いいえ、こいつを抹消することが最優先よ。翔瑠君の顔を傷付けて、拳銃まで突き付けたのよ。最低でも両手足に弾丸を撃ち込むべきだわ。」
「そこまでしなくていいよ。撃たれたわけじゃないし。」
「甘いよ!撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ、って言うでしょう?」
「撃たれるのなんてどうってことない特殊な訓練を受けてる組織だと思うけど……。それより凛……」
「というかなんで翔瑠君はこんなところにいるの?貴船のじーさんに会いに行ってたんだよね?」
「凛に呼び出されて。そんなことより凛が……」
「さっきからりんりんりんって誰よその女!」
江利からもあらぬ疑いを掛けられる。
「あの龍のことだけど。」
「あー、なーんだドラゴンのことか。ドラゴン?!」
江利はドサッと男を地面に投げ捨てた。
「本当に実在したのね!翼で飛ぶのかなぁ?!火も吹く?水も操ったりして!」
そんなことを言っている場合じゃないというのに、江利は目をキラキラさせながら凛を見上げている。凛は睡魔と戦っているのかふらふらし始めた。
「呑気に観察している暇ないんだってば。スーツ男に捕獲される前になんとかしないと。」
「さしずめ盗賊団と言ったところね。映画っぽい!」
「えーりぃ?」
「至って真面目だって!心配ないよ。ヒーローは遅れてやってくるんだって。」
「え?」
「サンダーボルト!!!」
突如頭上から桃原の叫び声が聞こえた。瞬間、雷鳴が轟き、鎖に垂直落下する。科学の問題だ。人が金属を身につけたまま雷が落ちるとどうなるか。答えは簡単。
「あががががががッ!!」
急激な眠気から強制的に目を覚まされた凛は、神獣の類がおおよそ出してはいけない悲鳴をあげている。スーツ男2人も直立不動で痺れている。
「りーん!!」
「たーまやー!」
スーツの2人組は呆気なくバタンと倒れた。凛はなんとか持ち堪えていたが、遂にずしんと地面を揺らしながら倒れた。
「桃原お前!保護対象まで巻き込んでどうすんだよ!」
「避けない奴が悪い。それよりもどうだった?私、カッコよかったろう!」
桃原は一切悪びれることも無くドヤ顔している。いつも通りと言えばいつも通りなのだが。
「凛くん!!」
今度は茂みの中から金髪の少女が出てきた。黒い煙がもくもく昇っている凛に駆け寄る。
「凛くん!しっかりして。酷い傷……!!今鎖を解くからね!」
それはほとんど桃原が付けたものだ。
「あ、あの雷女!直下で落としてきよった!」
少女の声にハッと目を覚ます。文句を言える分には無事なようだ。
「あの子は?」
「あの子が雨宮時雨さん。今回の保護対象だよ。」
雨宮は泣きそうになりながら凛の翼をさする。
「取り敢えず恩は売れたし、この弱みにつけ込んで雨宮さんを捕獲しちゃおう。ついでに要注意団体の首も持って帰れるしね。」
江利はどっちが悪役か分からないようなことを口走る。そのとき、江利のドロップキックにやられて地面に伸びていた男の手がピクりと動いたのが一瞬見えた。
「江利下がって!」
英語は大の苦手なので、ChatGPT大先生と英語翻訳アプリを使用しています。勘弁してください。




