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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
67/75

File9 そうだ、京都に行こう♯4

再び翔瑠side

「巫山戯んなジジィ!研究室に時雨を引き渡す言うんか!」

 またまた車に乗せられ、貴船さんの家に置いてけぼりにされた俺が、屋敷の前に立っていると屋敷の中から怒号が響き渡った。

「静かにせぃ。外にまで聞こえる。」

 ばっちり聞こえてしまっている。

「俺は絶対に反対やからな!昨日来た男を見たやろ!あの頼りなさそうで負のオーラ纏ってるやつ!絶対邪神やで。」

 頼りなさそうで負のオーラ纏ってて悪かったな。

「ではお前に何が出来る。龍の力を使ってもこの老体一人も倒せぬお前に。」

「ジジィが規格外なんよ!ジジィがそのつもりなら、今からでも俺が研究室を壊滅してくるけ!」

 不穏な声とともに、門が開け放たれた。出て来たのは昨日皮肉交じりに殺害予告をしてきた男だった。俺に気がつくと爺さんと男は顰めっ面になった。どことなく顔つきが似ているような気もしなくもない。

「お、おはようございます……。」

「小僧、また来たのか。」

「チッ、まずはお前からや。付いてこい。」

 付いてこいと言われても、用事があるのはこいつでは無い。無視しようとしていると、

「少し、孫に付き合ってやってくれないか。」

と、昨日とは打って変わって穏やかな口調で爺さんが頼んできた。というかお孫さんだったんですね。

「……はい。」

 これには二つ返事するしか無かった。既に先を歩いていた爺さんの孫を早足で追いかける。孫は振り返ることなく、屋敷をぐるりと囲んでいる塀に沿って歩く。

「この壁、戦国時代の石垣みたいだろ。」

 突然口を開いたかと思えば何を言い出すんだ。

「まぁ、外敵からお屋敷を守ってるみたいですね。」

「ナンセンスよな。この家はジジィが大工と考えて造ったんや。流石に山ん中の神社に住むのは大変やろうて、街に近いとこに建てたんや。それでも山がそばにある好立地や。

 なのに、爺は山から変なもんが家に入ってこんように塀なんてもんを周りに立てやがった。山は龍神様のご威光を間近に感じられるっちゅーのにな。」

「はぁ。」

 肯定するわけにも否定するわけにもいかず、俺は曖昧な相槌を打った。塀に沿って半周ほどすると、山の麓にたどり着いた。

「こっちや。」

 春の装いにスニーカーという登山をお互い舐めている格好なのだが、このまま登る気らしい。俺は覚悟を決めて、あまり整備されていない斜面に足を踏み出す。

 山の中はまだ昼だというのに木々に光が遮られ辺りは薄暗い。ただでさえ不気味なのに、五寸釘が突き刺さった藁人形まであるときた。死体が一体埋まっても何も不思議ではない。まさか俺もここで遺棄されてしまうのだろうか。

 息が既に上がってしまっている俺とは違い、孫は黙々と進み続ける。10分ほど登っただろうか。孫はふと立ち止まった。

「あの、一体俺をどうするつもり……」

「龍神様が堕ちて来はってから1000年。龍どもは己の高潔を忘れ、信仰を忘れ、親愛を忘れ、時とともに堕落していった。

 遂には、龍神様の忠誠心さえも捨て、気に入った娘を我がモノとしようとした。昔話に出てくる化け物と何も変わらん。

 一つ違ったのは、その娘の親が勇敢であったこと。あの人らも神様の所有物を壊すという意味を十分に理解していたはずや。それでも娘を守るため、化け物の首を討ち取った。」

「それが、龍殺しの真相?」

 こいつの話が本当なら正当防衛が適用されるのではないだろうか。俺の疑問を無視して男は続ける。

「やけど、例え神様の所有物が穢らわしいものであったとしても神様のもんは神様のもんや。それを傷つけたとあっては神様への反逆と同然。死罪を下さられただけでも救いだと思わんといかん。

 それでも、俺は、時雨を泣かせる奴は人間だろうが神様だろうが許さへん。誰であっても。」

 孫の雰囲気がガラッと変わった。そして山を住処にしていた鳥達が一斉に鳴き声を上げて逃げ惑う。気がつくと、孫は黒い霧のようなものに囲まれていた。

「な、なんだ?!」

「冥土の土産や。俺は貴船凛(きふねりん)。龍の一族唯一の龍人。」

 黒い霧が晴れると、爺さんの孫改め凛の姿はなく、変わりに雑木林よりも背が高く、山を覆い尽くさんばかりの巨大な翼を持った巨大な緑龍が現れた。写真を撮ればきっと江利が喜ぶぞぉ、なんてことしか思い浮かばない。

「どないした?お前もあるんやろ、別の姿って奴がよ!」

 やっぱり知らない人にほいほい付いていくものではない。よくよく考えれば頼んできた爺さんも知らない人だった。

「俺はモンスター対決をしに来たんじゃない。」

「その気がないんやったらこっちからやってやるよ!」

 こちらの声が届いていないようなので声を張り上げる。

「交渉しにきたんだ!」

「あ?態々化けなくても俺ごときどうってことない?舐められたもんやなぁ!」

 全然聞こえてない。最悪なことに悪い方向に捉えられている。俺はもっと大声を出すべく、大きく息を吸う。

「時雨さんとやらの事情は分かった!これから研究室と……」

「名前で気安う呼ぶな!!」

 『時雨』は聞こえるんだ。

「人間なんて知らん、一族の尊厳なんて知らん。時雨が幸せになれんのやったら、俺は魔王にだってなったる!」

 凛は吠えた後、大きな手で地面を叩いた。たったそれだけなのに地面が大きく揺れ、俺はバランスを崩しその場に倒れ込む。ふと黒い影が刺した。今まさにその巨大な手に踏み潰されそうになっていた。これは、十中八九圧死してしまう。

 だが、そんなことにはならなかった。

「なんやこれ?!」

 見上げると龍となった凛は右の翼を鎖で拘束されていた。

「Ha! You gotta be kidding me… that rookie—little Rebecca—was actually right? Best of luck!」

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