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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
66/75

File9 そうだ、京都に行こう♯3      その頃の江利達その2

「喧嘩売ってどうすんのよ。」

「だってぇ〜。」

 珍しくタオがしょげている。雨でも降ってくるかもしれない。

「雨宮さんも雨宮さんだけど、タオもタオよ。慣習に則ってる本人を前にはっきり悪しき慣習なんて言ったらキレられるに決まってるでしょう。」

「うん……。」

 本当に落ち込んでいるらしい。あたしは話題を変えようと神社の購買に目を向ける。

「折角来たんだし、水占いでもしてみない?」

「はぁ?龍神も見ているのだろう?研究室の人間が目の前に行くのは不味いんじゃないのか?雨宮からも私達のことはよく思ってないってはっきり言われちゃったし。」

「大丈夫よ。そんなちっちゃいことで怒るほど神は心狭くないわ。」

 あたしは神社の巫女さんから水占い用の紙を2枚貰った。

「神様直々に見てもらうのに200円は破格じゃない?数十万円してもおかしくないわよ。」

「天の人っていうのは価値観が違うんだろうな。金で推し量ること自体烏滸がましいのかもしれない。」

「そういうもんなのかしらねー。」

 あたし達はそっとおみくじを水の上に浮かべた。項目以外空白になっている紙には、徐々に文字が浮かび上がり、最後に吉の字が真ん中に印字された。タオは中吉だった。

「大凶でもなく大吉でもなくか。びみょーね。」

「おみくじは中身だろう。なんて書いてるかな?」

 水の中から紙切れを取り、内容を吟味する。

「江利はなんて?」

「病気、甘味を控えよ。だって。余計なお世話だっつーの。」

「当たってるじゃないか!他には?」

「恋愛、今の縁を大切に。失せ物、信ずる心を持てば見つかる……、失くしたものなんてないけどな。他は当たり障りないことだわ。タオは?」

「私も似たようなものだ。願望、傍に居る物が鍵。そば?江利のことか?学問、苦手を克服すべし。」

「社会ね。たまに現実も怪奇も見分けついてないから。」

「こう見えて社会は得意なんだぞ!」

 あたしはあることに気がつく。

「タオのおみくじ、なんで失せ物が探し人になってるの?」

 失せ物の時にバツが付けられ、横に小さく探し人と書かれていた。タオは紙をグッと顔の前に近づけ、一字一句じっくり読んでいた。

「必ず、見つかる……。」

「良かったわね。神様のお墨付きよ。」

「だといいんだがな。もう行こう。まだ検査は残ってる。」

「そういえばまだ1件目だったわね。」

 折角なので、おみくじの持ち帰り用の容器を購入し、あたし達は次の神社に向かった。


 宿に着いたのは結局六時くらいだった。

「もう足パンパンよ。一年分歩いたんじゃないかしら。」

 宿に着くや否やあたしとタオはフロントのソファに座り込んだ。タクシーを使ったとはいえ、神社の前までなので、龍穴が神社の奥にある場所は徒歩での移動だ。おまけに多くの神社は山の中に龍穴があるものだからほぼ登山だった。もう一歩も歩けやしない。

「お疲れ様。」

 首に突然冷たい何かが当たり悲鳴をあげ飛び上がった。

「ひゃあ!!」

 そこには缶のお茶を持った翔瑠君が浴衣を着て立っていた。

「翔瑠君!無事だったんだね!蛮族に襲われそうにならなかった?!」

 ほい、と缶を手渡されありがたくいただく。一日中歩き回って乾いた心と体に染み渡った。

「龍はいたか?!写真撮ってきたんだろうな!」

「奇襲されそうにはなったけど無事だ。龍はいなかった。」

 タオはなーんだとつまらなさそうにソファに再び座り込んだ。

「部屋に行こう。夕飯の前にすけさんが作戦会議するって。」

「あの人あたし達を労うとかないのかしらね?」

「まぁ、そこはすけさんだし。」

「鬼塚はいつ着いたんだ?」

「30分くらい前。この紙が場所を教えてくれたんだ。」

 すると翔瑠君の肩に人型の紙が立っていた。

「これはKのだな。さすが京都人!式神もちょちょいのちょいだ。」

「便利ね。鍛えれば掃除もしてくれそう。というか明日の龍穴チェックもこいつに任せればいいんじゃない?我ながらいい考え!」

「そうやって酷使してると、式神も拗ねるんだからな!それに繊細な仕事がこいつらに出来るわけないだろうが!」

「2人とも、紙が落ち込んでるからそれ以上貶すな。」

 よく見ると確かに紙は萎れていた。


「おぅ、帰ったか。」

 部屋には既に運び込まれた夕食を食べ始めているすけさんとKがいた。

「私こんなに頑張ったのに!すけさんとKは呑気に夕飯か!いいご身分だな!」

 これにはさすがのタオも憤慨している。

「俺達だって色々飛び回ったんだから。な、K。」

「すけさんは大した仕事はしていませんけどね。」

「事前準備に全振りしたんだよ。ほら、お前らも食え。今日と明日は室長の奢りだ。」

 奢りという言葉に心が踊るのだからあたしもまだまだだ。

「で、そっちはどうだった。」

 京都のすき焼きに心奪われ会議どころではなくなっていたが、すけさんが切り出した。

「どの神社も異常なかったぞ!」

「鬼塚は?」

「追い出されはしなかったけれど……」

 翔瑠君は爺さんとのやり取りの一部始終を話す。頑固で厄介な爺さんの相手をしていたなんて可哀想で仕方がない。

「他に気になるようなこと言ってたか?」

「特には……。あ、最後に従者みたいな男が出てきて、時雨は渡さないって。」

「時雨?」

 なんだか聞き覚えのある名前だ。

「雨宮時雨のことじゃないか?今日貴船神社で案内をしてくれたんだ。」

「そういえばそんな名前だったわね。」

「ふーん、そいつが龍殺しの娘なのか?」

 浴衣バージョンのすけさんは顎をさすって考え込む。研究室は陰陽師もどきの集まりだからか、洋服よりも和服が似合う。

「でも掟破りのことは知らないって言ってたぞ。」

「タオが先に無神経に声をかけたからよ。」

「私のせいか?!」

「明日することが決まりましたね。鬼塚さんは引き続き貴船さんのところへ。家に入れただけでも大きな進歩です。水沢さんと桃原さんは引き続き龍穴の状態確認と雨宮時雨に再度接触してください。」

「さすが京都班の班長。指示が的確だぜ。」

「すけさんが適当なだけです。明日も早いことですし、温泉に入って早く寝ましょう。」

 Kの解散の合図で、あたしとタオは隣の部屋に移動した。持ってきた荷物を整え、温泉に向かおうとすると、丁度隣の部屋から翔瑠君も出てきた。

「翔瑠君も今から?」

「うん。二回目。」

「どうだったか?肌はすべすべになるか?」

「よく分かんないけど、美容成分?だかが配合だって。めっちゃ暑かったけど。」

「お風呂上がったらピンポンしない?夢だったんだよね〜、銭湯でピンポン。」

「銭湯は将棋だろう!」

「いやよ、ルール知らないし。オセロならいいけど。」

「将棋もオセロも似たようなもんだろう!」

「丁度3人だし多数決しましょ。翔瑠君は?」

「はよ寝ろ。」

 最終的にタオとあたし、観戦の翔瑠君はKが止めに来るまでピンポンと将棋崩しをしていた。

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