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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
63/75

File9 そうだ、京都に行こう♯2

 4時間かけようやく着いた京都駅は人でごった返していた。

「着いたぞー!長かったな!」

 桃原は大きく伸びをする。

「ここが、京都……。」

 江利はまたもや人の多さに呆気にとられ、具合が悪そうにしている。

「大丈夫か?どこかで休む?」

「い、いい。翔瑠君の後ろに隠れてる。」

 そう言うと江利は俺の背中に隠れおでこをピタリとくっつけた。

「おいおい、こんなんじゃ先が持たねぇーぞ。観光地はもっと人がいるんだから。」

「だけどすけさん!もうお昼過ぎだ!お腹空いた!私はどこかで食べたいぞ!」

「腹減っただぁー?あんだけ菓子食っときながらよく言うな。」

 桃原は新幹線に乗っている間、ずっと煎餅の大袋を一人で食べ尽くしていた。

「別腹だ!」

「そうやってしょっぱいものばかり食べてるから元気なのよ……。」

 桃原とは正反対に、俺の後ろにしがみついている江利は今にも消え入りそうな声だ。これはどこかで糖分チャージをしないと溶けてしまう。

「すけさん、江利も限界だ。どこかカフェないか?」

「どいつもこいつも!観光に来たんじゃないんだぞ!」


「ぷはー!生き返った〜!」

 抹茶かほうじ茶のパフェで悩んだ挙句、両方平らげた江利は、さっきとは違って顔の血色も戻りすっかり復活していた。

「私はカレーうどんが食べたかったのに。」 

 自分の要望が通らず桃原は不服そうだが、美味しそうに抹茶入りの蕎麦を2杯も食べていた。3人分奢る羽目になったすけさんは今度は顔面蒼白になっている。あとで生八つ橋でも買ってやろう。

「てっきり時計をお忘れかと心配していましたが杞憂だったようで。いい腕時計をお持ちですね、すけさん。」

 駅を出ると学生服を着た男が声をかけてきた。真っ黒なサングラスをかけており、見るからに怪しい。

「遅くなるって連絡したろ。嫌味言ってねぇで、この2人を引率したことをまず褒めるべきだね。」

「K!久しぶりだな!そして相変わらずサングラス似合ってないな!」

「変装はもっと念入りにっていつも指導されてるだろ。観光客がジロジロ見てるぞ。」

「僕はこれがスタンダードなので。余計なお世話です。」

 すけさんの表情がすっと真剣な表情になった。

「父さんは元気か?」

「……お陰さんで。転職先も決まりました。」

「えーと、あんたは、」

「申し遅れました。異常現象対策研究室京都支部に所属しております、匿名Kです。」

「……関西語じゃない?!東京からのスパイ?!」

 Kはピクリと眉を動かした。

「京都府民が全員京都弁を話すとは限らないでしょう。田舎者丸出しですよ。」

 標準語で話してはいるが、後半やや苦しげであった。

「あんた話し方変よ?無理はしないほうがいいわ。」

 時々イントネーションが訛ってる江利がなんか言ってる。

「時間が押しているんですからさっさと車に乗ってください。急ぎますよ。」

 Kは車を待たせている駐車場へ俺達を案内した。道中、生の関西人に興味津々なのか桃原と江利はKに京都弁をせがんでいた。

「あいつらガキか。黙ってるのは寝てるか食っているときぐらいだぞ。」

 江利や桃原に体力を全て吸われたかのように、疲労困憊のすけさんは小声で愚痴る。

「そんな怒るなよ。京都はなかなか来ないし。」

「東京と対して変わらないだろ。」

「夢がないなぁすけさんは。」

「まぁいい。今回の任務はお前次第だからな。」

「えっ?」

 すけさんは俺の困惑に答えることなく、出発の時から持っていた茨城土産を俺に押し付け、先を歩いていった。中身を見ると干し芋で作った菓子が綺麗に包装されていた。

 駐車場には運転手のお爺さんが車の前で待ち構えていた。一番後ろに俺、江利、桃原、その前にすけさんとKが順番に乗り込んだ。すけさんとKはすぐに話し込み始めたため、俺達は蚊帳の外になる。

「それで、そっちのほうはどうだ?」

「全く進展がありません。そればかりか取り合って貰えず、白装束を見つけると箒を持って追いかけてきます。」

「これだから頑固ジジイは嫌いなんだよな。」

「京都なんて聖地の聖地なんだから!1分足りとも無駄にはできないわ!」

 2人の会話を盗み聞きしていると江利の声が掻き消した。会話にまったく興味が無いのか、持ってきた雑誌を広げ江利はふんすと息巻いている。本気で何百ヶ所もある聖地を巡礼するつもりだ。

「だから無理だとずっと言っているだろう。龍穴チェックも大事な仕事なんだぞ?穴が広がったら京都の町が幽霊だらけになってしまうかもしれないんだからな。」

「んな龍の穴なんてボールでも突っ込んでればいいのよ。いずれ同化して閉じるわ。翔瑠君は球拾い名人なんだからいっぱい持ってるでしょ?」

 江利はそう言ってパンパンのリュックを指さす。大量に物は持ってきたが(ほとんど江利の)ボールなんて一個も入っていない。

「持ってないし無理だろ。それに、俺は球拾い係じゃない。」

「なるようになるよ。タオだって遊びたいんでしょ?」

「……縁結び神社行きたい。」

 桃原は頬を赤らめ俯く。女子校通い以外にも女子らしいところもあったのだなと感心した俺とは反対に、江利は白い目を向ける。

「神社なんて行ってもつまんねぇよ。地図で碁盤の目を見ているほうがまだ有意義よ。」

「なっ!江利も大概だろうが!」

 

「ほんまにこの人らでええんかいな?」

えぇ(いい)わがね(悪い)も暇なのはこいつらしかいないからな。諦めろ。なんくるないさー。」

 Kが深い深いため息をついたのを俺は見逃さなかった。

※わがね・・・悪い。作者の地元の方言。

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