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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
62/72

File9 そうだ、京都に行こう♯1

翔瑠side

「えーとこれが一日目、二日目はワンピースがいいかな。」

 江利は目を輝かやかせながら明日からの京都旅行の準備をしている。初めは乗り気じゃなかったのに、今はすっかり旅行が待ち遠しくてたまらないといった様子だ。背後にわくわくというオノマトペが今にも浮かび上がってきそう。

「翔瑠君のも詰めなくちゃ。」

 自分の準備を終えた江利は次は俺の分まで手を付けようとしている。こんなに楽しそうなのに止めるのは野暮だ。俺は江利に任せることにした。するとぴたりと江利は手を止め、何かを思い出したように立ち上がった。

「そういえば学校の帰りに京都旅行用の服を買ったの!翔瑠君に似合うかなって!」

 スキップをしながら自分の部屋に一旦戻り、じゃーんと1枚のTシャツを見せびらかした。Tシャツにはかの有名なパブロ・ピカソ風の絵が散りばめられている。本人の絵がプリントされているならいいが、()である。しかも全てが蛍光色。

「あ、ありがとう。凄く嬉しい。」

 色々言いそうになるのをすんでのところで堪え、お礼の言葉を振り絞った。キラキラとした健気な青い瞳を曇らせることは出来ない。それに嬉しいのは本心だ。惚れた者の弱みとはよく言う。

「ほんと!良かったぁ。ミケってば酷いんだよ。誰がこんなローセンスの服を着るんだって。そんなことないのにね。」

「全くもって酷い猫だ。あいつのセンスがおかしいんだ。気にすることはない。」

 悪いが俺も同じことを思ってしまった。ここはミケに悪者になってもらおう。

「翔瑠君は超大型犬になったとき用に多めに持っていかないとね。」

「制服でいいよ。」

「ダメだよ!京都なんだよ?あの研究室の人間に『よう斬新な洋服着てはりますなぁ。』なんて言われたらどうするの!あの研究室によ!」

 むしろあのTシャツを着ていたら……。

「京都っ、京都っ、楽しみどすえ〜。」

 江利は待ちきれないといった様子で準備を再開した。


 そして当日、新幹線の中。

「わぁー、見てみて!速いよ!車もあっという間だよ!」

「そうだな。」

「景色もグルグルだね!」

「そうだな。」

 窓際に座っている江利は外の景色に釘付けだ。新幹線には数回しか乗ったことしかないらしい。

「ミケも来れば良かったのに。写真見してやろ。」

 そういうと江利は持ってきたデジカメのシャッターを切った。ミケは意外にも自ら留守番を申し出た。なんでも京都の猫とは反りが合わないんだとか。

「あまり騒ぐな。恥ずかしい。鬼塚も飼い猫のリードくらい持っとけ。」

「すけさん!!見ろ!山だ!」

 注意するすけさんも飼い犬の躾がなっていない。

「山なんていつでも見てんだろうが!静かにしろ!ったく。」

 すけさんは持ってきたリュックの中から煎餅を取り出し、桃原に与える。大喜びで桃原はそれを受け取り口からは咀嚼音しか発しなくなった。

「やっと静かになった。」

「単純ね〜。」

「お前が言うな。お前ら目的忘れてるんじゃないか?今から何しに行くか言ってみろ、はい水沢から。」

「京都で聖地巡礼!」

 江利は元気よく答える。先日、本屋で買った京都旅行の雑誌には印と付箋でいっぱいだ。3泊4日で全て回りきれるだろうか。

「違う!タオ!」

「んぅ?もごもご。」

 タオはお菓子を食べる手を止めない。

「あー、論外だ。鬼塚!」

「カルトへの勧誘。」

「もっと言い方あるだろうが!はぁ、そんなんじゃ先が思いやられる。お前達の今回の任務は京都にいる龍穴の状態確認と、龍の娘への勧誘だ。」

「状態確認ってなに?1日で終わるんでしょうね。こっちの計画はいっぱいいっぱいなんだから早く終わらせてよね。」

 江利は完全に本来の目的を見失っている。

「それはお前らの頑張り次第だな。龍穴、パワースポットのことだ。そこが呪いのスポットになってないか確認してもらう。」

 江利の願いも虚しく3日はかかる気がする。

「えぇー。1日で終わんないじゃん。」

「パワースポットは強い力が集まる分、呪いも集まりやすい。だから定期的に様子を見て、不穏因子を取り除く必要があるんだ。」

「だけどなんで京都から遠い俺達が行くことになったんだよ。京都に人はいないのか。」

「京都は東京並みに激務だからな。なのに関西はたった6人で回してる。ちな関東甲信越が15人、北海道東北、中国四国がそれぞれ5人、九州が8人でなんとかしてるのが現状だ。」

「研究室ってそんなに人が少ないのか。1クラス分くらいじゃないか。」

「霊能力者がそうひょいひょい現れても困るからな。スポンサーの神社を含めるともう少しはいる。」

龍娘(ドラゴンむすめ)が1人入ったところであたし達の仕事が楽になるとも思えないけどね。」

「分かってねぇな。こういうのは積み重ねが大事なんだよ。龍娘を勧誘するのはそれだけじゃない。」

「他にもなんかあるの?面倒なことだったらあたしはお断りだね。」

「そんなこと言ったら研究室の奴らは訳ありだらけだぞ!私達が会いに行く龍娘が件の掟破りか。」

「掟破り?」

「なんだ、知らないのか?龍娘の一族はな、日本の法律が通用しないんだ!」

「はぁ?」

 こいつはちゃんと社会を習ってきたんだろうか。桃原の女子校は県内随一の学力を誇っていたような。

「聞いたことがあるわ。日本の至るところに妖怪を祀っている一族がいて、その人達は日本の法律ガン無視なんだって。国家権力に根を張っているから隠蔽工作もお手のものみたいよ。」

 そんな恐ろしい昭和初期の因習村みたいな一族がまだ日本に存在していたとは。

「龍の一族が従っているのは昔から言い伝えられている龍の規律のみ。規律を乱した者は龍達に裁かれる。」

「その無法裁判から龍娘を助けに行くってこと?」

「そうだ。裁判に掛けられているのが龍娘の両親だ。ほぼ処刑確実、敗訴待ったナシ。」

 助けに行くと言いながら、ほぼ不可能なことを提示された。本当に助けるつもりはあるのだろうか。

「そんなの最強弁護軍団を連れて行っても無理じゃない。よっぽどの悪いことをしたの?教祖の銅像を木っ端微塵とか。」

「カルト教団じゃねぇんだから。龍殺しの罪だとよ。あっちじゃ死罪相当だ。」

「殺人はさすがにダメだろ。警察は動かないのか?」

 結束に相談すべきか一瞬迷っていたところにすけさんは首を振る。

「水沢がさっき言ってたろ。あいつらは国家権力にまで食い込んでやがる。だから隠蔽工作なんて朝飯前だ。

 前に正義感の強い警察官が、あいつらが引き起こした殺人事件を追っていたんだが、ある日神様が夢に出てきたとか支離滅裂なことを言い出してな。1週間後には精神に異常をきたして休職の末に辞めちまった。」

 怪奇現象を悪用したお手本のような隠蔽工作を行っているらしい。

「ボンクラ息子が長になったらやりたい放題になりそうね。」

「だったら付け入る隙があるのに、その辺割としっかりしてるんだよなぁ。」

「龍神って……、神様よね?人間が歯向かうのって相当危険じゃない?」

 江利はいつになく弱気だ。

「まずお前達じゃ無理だな。だから、交渉する。」

「人間の言葉に耳を貸すとも思えないけど。」

「レベル1の勇者がラスボスとまともに戦えるわけねぇだろうが。賢者を仲間にすんだよ。龍娘を匿ってるところのじーさん。そいつをこっち側に付かせれば勝機はある。」

「レベル1どころかレベルマイナスのお爺じゃないでしょうね。」

「……そうだったらいいんだがな。ま、着いてからだ。」

 そう言ってすけさんは腕を組んで眠ってしまった。

「無理やり連れてきたくせになんなのよ。」

「研究室は寝る暇もなく忙しいからな!寝かせといてやってくれ。あ!あれ富士山じゃないか!」

「どれどれ!ほんとだぁ!翔瑠君!富士山だよ!ほら!見える?」

「江利、あれは、ただの山だよ……。」

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