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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File8 初めてのお使い#9

 迷子になったときの帰り方は3代目に教えられた。それはまたまたあたしが狭間に迷い込んで、迎えに来てもらった時のこと。

『私はいつでも助けに来れるとは限らない。』

『そんなぁ。じゃああたしはずっとまいごになっちゃうの?』

『だから江利は自分で道を見つけて戻ってこなくちゃいけない。』

『むりだよ。あたしよわむしだし、なきむしだし。』

 3代目は半透明の手であたしの頭を撫でてくれた。

『私の子孫ならきっと大丈夫。強く念じていれば、あんたが戻りたい場所に帰れるはず。』

『ほんとに?』

『私が嘘をついたことがある?まずは自分を信じることさ。』


 暖かな手に触れた。ここが今のあたしが帰りたい場所のようだ。

「江利。」

 翔瑠君がほっとしたような、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。桃原も無事一緒だ。

「ちょっと大冒険して来ちゃった。」

「知ってる。全部見てたから。すけさん、これで合格だろ。」

「あぁ。」

 忘録が欠伸をしながら返事をした。そんなことよりも全部見ていたと言っていなかったか。桃原も聞こえていたようで、すけさんに詰め寄っている。

「見てたってどういうことだ!私があんなに怖い思いをしていたのにすけさんは黙って指しゃぶりしながら観察していたのか!」

「煎餅食ってた。ほら、前に道の駅に売ってたやつ。」

「なにを〜!!私の分もあるんだろうな!」

 問題はそこではない。翔瑠君も気まずそうに目を逸らした。

「翔瑠君、ほっぺになんか付いてるよ。」

「いや、これは、江利が試験の間まったりお茶とかしてたわけじゃなくて……!」

 カァッと頬を赤くして腕で口の周りをゴシゴシした。

「嘘だよ。」

 そう言うと固まってしまった。ということはしてたんだな。まったりティータイム。

「鬼塚が言ったとおり、今日はお前たちの試験。水沢と恭子がコンビを組むにあたってのな。試験内容はこの墓地の解決。」

「人を試すような真似しやがって。」

 悪びれる様子のない忘録につい悪態をついてしまう。

「相性とか色々あんだよ。まずは答え合わせといこうじゃないか。

 水沢が予想していたとおり元々この墓地は普通の家で両親に子供1人が住んでいた。だがある日家が跡形もなくなって代わりに墓場が建っていた。

 だが周囲の人間は気にも留めないし、一家が行方不明になったってんのに親戚は気がついていなかった。いや、認識していなかったというべきか。

 しばらくしてその家族も遠い県外のマンションの一室に忽然と現れた。しかも行方不明となった翌日に不動産会社と契約したことになっていて、周囲もなんとも思っていなかった。

 恐らくパラレルワールドに知らないうちに迷い込んで、何かの拍子でこっちに戻ってきたのだと思われる。あとは辻褄を合わせるために、こっちの世界の作用が働いたって寸法だ。」

 大事なところの説明がフワッとし過ぎではなかろうか。

「そして墓地と問題だけが残った。この墓地は本来はこの世にあるべきものではない。それがなんでこっちに召喚されたのか?

 研究室で原因を解明したところ、どうやらこの座標と重なっている狭間が元凶みたいでな。」

「それがあたし達が迷い込んだ空間だったわけね。」

「そうだ。わざわざ時空を飛び越えて解決しなきゃいけないってんで適正のあるお前ら2人の試験会場に設定した。狭間に潜り込めたら合格だったんだが、まさか元凶の退治までするとはな。おかげで俺の仕事が減った。サービスだ。20点オマケしといてやる。」

「そんなのいらないからお小遣い倍増にしなさいよ。」

「欲深いやつだな。」

 100点満点のテストで120点もらったところで100点は100点だ。一方桃原恭子は憤慨しており、

「どうして試験って教えてくれなかったんだよ!怖かったんだぞ私!」

と抗議を始めた。

「そしたら試験の意味ないだろうが。恭子は怖がりを治せ。水沢は無謀に戦いを挑むのは辞めろ。」

 小言にはいはいと適当に聞き流す。

「そんなことより無事で良かった。よく帰ってこれたな。すけさんは倒せても絶対に帰って来れないからって迎えに行く準備をしていたんだぞ。」

 いつの間にか仲良くなったのか、翔瑠君まですけさん呼びを始めた。

「うーん、感覚?気がついたら翔瑠君のところに着いちゃった。」

 翔瑠君は少し照れたようにはにかむ。それは視界に入れてしまった人全員の心臓を撃ち落とすような破壊力を持っていた。

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