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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File8 初めてのお使い#7

「パラレルワールドは丑三つ時だったのね。最悪のタイミングだわ。このままだと本物に喰われかねない。」

「ま、まま、待て!なんだ喰われるって!」

「人間を喰うのは化け物しかいないでしょう。あたしはそんな奴らに勝てる自信はないわよ。」

「嘘だ!私を脅かそうたってそうはいかないぞ!」

 と言っているがこの桃原恭子の慌てよう、脅しだとしたら大成功している。やっぱりそんなに経験ないじゃないか。

「餌やり体験したいなら無理に止めないわ。まだ余生を楽しみたいなら……」

 あたしは一旦言葉を区切る。早くもこの世のものではないものがお出ましだ。さっさとここから離れなくてはいけない。あたしは桃原恭子の腕を掴んで、墓地の外まで全速力で駆け出した。

「わぁ!なんだよいきなり!」

「死にたくなければ黙ってなさい!」

 桃原恭子はハッとしてキュッと口を閉じた。墓地を脱出すると景色はガラッと変わっていた。住宅街にいたはずだが、家は一つもなく、家の代わりに墓が一定区間に設置されている。おまけに首のさらし台も道の真ん中に設置されている。お化け屋敷だったら120点満点だ。

「家がなくなってる……。すけさんは?車もここにあったよなぁ!」

「違う世界だからあるわけないでしょう。あれよ、ネットでもたまに話題になってるパラレルワールド。」 

「パラレルワールドって……。そうだ!トランシーバー!」

 桃原恭子は慣れた手つきでトランシーバーを操作する。こういった緊急事態は初めてではない様子だ。落ち着いている。しかし、何度かガチャガチャとしていたがトランシーバーを見つめたまま目を大きく開き呆然とする。

「動かない……。」

 ほらな。いざというときのアイテムは大抵いざという時に役に立たない。

「自力で帰れってか。今回もなかなかハードな依頼ね。」

「どうしてお前はそんなに冷静でいられるんだ?」

「どうしてって言われても、こういうところに連れ去られるのは初めてじゃないもの。」

 引っ越し前まではこんなことは日常茶飯事だった。大洗のように近くにショッピングセンターはないし、1時間かけても過疎地域にしか行けない場所だった。

 そんな自然と一体化している土地だったからか、人と妖怪との距離は近かった。おまけに霊感が全くない人でも怪奇現象は身近な存在で、幽世と現世の境界が曖昧だった。

 それが原因なのか神社の娘だったあたしはしょっちゅう狭間に置いてけぼりにされていた。

「こういう中途半端な場所が一番危ないのよね。ここはたぶん現世から幽世までの中間地点ね。中間に留まってる奴らはどっちの世界からも追放されたのが多いし、気性もその分荒くなっている。あのまま墓場にいたらあたし達もそいつらの仲間入りするところだったわ。」

 雑草の合間から墓場を観察する。人型の化け物は覚束無い足取りで徘徊していた。目も鼻もついていないのっぺらぼうのようなもので、恐らくあたし達が残した妖力を頼りに探し回っている。見つかるのも時間の問題だ。

「終わりだ。すけさんがいないんじゃ私は無力だ。」

 桃原恭子は肩を震わせ、よろよろと地面にへたりこんでしまった。

「過剰な自信と無駄に高いプライドはどうしたのよ。」

「実を言うと、経験こそ長いがそれはほとんどすけさんのお陰だったんだ。あの人がいなかったら私は怖くて逃げてしまっていた。」

 桃原恭子は今にも泣きそうな声を出す。

「偉そうにしてごめん。私という人間は本当は臆病なんだ。それを態度で誤魔化している。だってそうでもしないと、人を守れない。」

「そこまでして守らなきゃいけないもんなのかね。」

「理不尽な人も助けるべきなのか迷う人もいるけれどそれでも守らなきゃいけない。じゃないと私は()()()に顔向けできないから。」

「故郷に男でも置いてきたわけ?」

 ちょっとからかったつもりだったが、桃原恭子は顔の輝度をより一層落とす。

「今の私では手が届かないほど遠くにいるんだ。もうずっと会えていない。あいつを取り返すために研究室に入ったんだが、それも今日で終わりみたいだ。」

 深くは踏み込めない雰囲気を察知してあたしは黙る。鈍いことに定評のあるあたしにだってそいつがどれほど桃原恭子にとって大切な人だったかは雰囲気で分かる。桃原恭子は体育座りをして膝の間に顔を埋めた。

 遠くにいて会えない人。誰かいるかと尋ねられたらあたしはお母さんと答える。もう一年近く会えていない。あたし達の生活のために仕事をしているのだと頭では理解していても、寂しさがないわけではない。しかも迷子で音信不通。ある日なんの前触れもなく、お母さんが事件に巻き込まれてあたしの前からいなくなってしまったら。考えただけでもどうしようもなく悲しくなる。お母さんに会いたい。最近はミケや翔瑠君がいるから不安は少しは和らいでいるが、1人になるとどうしても悪い方向に考えてしまう。


 でもお母さんは地球のどこかにいて、桃原恭子の大切な人もどこかにいる。ならばあたし達が今すべきことは一つだけ。再会を信じて生き続けること。


「……あたしが帰るのには付き合ってもらうわよ。来月最新機種のゲームが出るんだから。」

「お前はいいよな呑気で。」

「あんたも帰るのよ。」

「だから無理だって……」

「あたしだけ帰ってきたら翔瑠君に嫌われるでしょうが。なんて薄情なヤツなんだって。そしたらあんた、責任取れるの?」

「話聞いてるか!私は……」

「あんた、何ができる?」

「……雷を落とせる。でも敵を前にするとコントロールが効かないから物陰に隠れて狙いを定めるしかない。」

 こいつは電気タイプだったらしい。元の世界に戻るためには墓地から出口を見つけ出さなければならない。となるとあの人型との戦闘は絶対だ。物理攻撃がどこまで効くのか分からないが、自然現象である雷なら足止めくらいは出来るかもしれない。

「じゃああたしがおびき寄せてあげるから、あんたはピッタリのタイミングで雷を落としなさい。」

「無茶を言うな!こんな状態で狙い通りに落とせるわけが無い!」

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