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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
56/75

File8 初めてのお使い#5

「……俺は江利の足を引っ張るばかりだな。」

「そんなこと……」

「おいおい諦めるのは早いんじゃないか?異能はイメージだ。慣れてくればそんなものどうにでもなる。」

 意外や意外、桃原恭子が良いことを言った。あたしは桃原恭子に乗っかることにする。

「そうだよ!きっと特訓すれば平気になるよ。今までどうにかなってたし。そしたらこんな怪しい桃原恭子じゃなくて至極真っ当な翔瑠君とペアを組めるかもしれない。」

「そうか……。」

 翔瑠君は小さく呟くと弄ばれていない右手であたしの左手を包み込んだ。

「きっとそうだな。特訓すれば桃原と組まなくて済むかもしれない。」

 良かった。元気になったようだ。

「そんなふうに言わなくたって……。」

 桃原恭子は反対にしょんぼりとしている。大失言をしたような気がするがまあいい。

 後ろを気にすることなく走らせていた車は目的地に着いたのかピタリと止まった。

「ここだ。」

 本当に墓場だった。閑静な住宅街に現れた死の象徴。ここに住んでいる人達は墓場ができる計画が出てきた際に反対しなかったのだろうか。あたし達は車から降りた。

「なんの変哲もない墓場だな。もうちょっと薄気味悪いのを想像していたのに。」

 ガッカリだと桃原恭子は肩を落とす。事件が起きないことに残念がるのは怪奇を解決する者として如何なものか。

「何の変哲もない墓で何が起きたって?」

「ここに住んでいた家族が謎の失踪を遂げている。恭子と水沢江利にはそれを解決してもらう。」

「俺は?」

「お前は車で留守番だ。」

「江利と妖力の相性が悪いのは分かってる。でも途中まで手伝わせてくれないか?足は引っ張らないようにするから。」

「ダメだ。この2人が適任だ。いいから大人しく車で俺と待ってろ。」

「安心して。ちゃんと戻ってくるから。あたし、これでも400年間無意味に浮遊し続けたご先祖さん(3代目)の幽霊から妖怪退治のレクチャーを受けてるんだから!」

「それって凄いことなの?」

「400年も目的もなく存在できるのはまあまあ凄いことではある。」

 翔瑠君と忘録のイマイチな反応にちょっとムッとする。3代目は凄い人なのに。そんな3人のやり取りに混ざることなく、雷に撃たれたかのような衝撃を受けている者が1人。

「え?すけさん来てくれないのか?!」

「俺も鬼塚も入れない。お前達2人でなんとかするんだ。」

 桃原恭子はそんなぁと情けない声を出す。

「あんた、あんなに偉そうなこと散々言っときながら、実は忘録さんに頼りっきりだったんじゃないでしょうね。」

 あたしは疑いの目を向ける。

「な、なんだその目は!そんなことない!ちゃんと私の力で解決してきた!」

「ほんとに?」

 本人の証言では信用出来ないので、今度は忘録に詰め寄る。が、興味なさそう答える。

「そこそこだな。ともあれ初の任務、しっかりやれよ。それと身の危険を感じたらすぐにこの通信機を使うこと。いいな。」

 忘録はあたしと桃原恭子にトランシーバーのようなものを手渡した。

 この手の話は、危なくなったら連絡しろと言いつつ、緊急事態が起こっても誰も間に合わず最終的には自分達でどうにかするしかないことがほとんどだ。

 序盤に設備点検が不十分だったせいで命を落とすキャラもいる。最悪次の瞬間にナレ死というパターンも。翔瑠君となら兎も角、この女と心中なんてまっぴらごめんだ。

 万が一のときは桃原恭子を盾にして逃げよう。あたしは固く決意した。

「突飛な依頼はこれっきりにしてよね。あたし達だって暇じゃないんだから。」

「幽霊が犯行予告することはほとんどないからな。慣れておけ。」

 忘録はクルッと踵を返し、車の鍵を手で弄びながら車の中にさっさと入ってしまった。

「危ないときはすぐ戻るんだぞ。いいか?約束だ。」

 逆に過保護すぎる翔瑠君はあたし達が墓場まで入るのをしっかりと見届けてくれた。

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