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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File8 初めてのお使い#4

「左遷?!なんで?!」

「めちゃくちゃ壊してたからな、俺達。」

 そこは『達』じゃなくて単体だよとつい本音を漏らしそうになったのをグッと我慢する。

「左遷か。あの2人には世話になったのに。」

「挨拶できなかったね。」

 お通夜ムードになったあたし達に忘録はわざとらしい咳払いをした。

「馬鹿、転勤だよ。」

「すぐネタばらしするんだから。つまらないなぁ。」

 たぶん翔瑠君も同じことを考えていた。桃原恭子の話はまともに取り合うものではない。

「どこに行ったの?」

「霞ヶ関。」

 どっかで聞いたことのある場所だがイマイチピンとこない。すると翔瑠君が横から東京にある警視庁や文部科学省など日本の省庁が集められたところだと教えてくれた。ということはエージェントと姐さんは本部の幹部にでも出世したのか。

「正しくは連れ戻されただな。2人とも元々家が東京にあるしな。しかもF男が今年大学受験なんだと。塾にも行かなくちゃならないとかで遠方の茨城まで来る余裕がないとさ。お前ら2人もだいぶ妖力を扱えるようになったしって希望を出したそうだ。」

 F男とはエージェントのことだろうか。

「私と水沢江利、おまけの鬼塚翔瑠はF男とQ子の仕事を引き継ぐことになったんだ。」

「F男とQ子ってなに?」

「お前らの指導係の2人だよ。内部の奴らは匿名だから入った順にアルファベット呼びにしているんだ。仕事しづらいからな。」

「あたしも翔瑠君も、ついでに桃原恭子も匿名&顔隠すべきじゃないの?」

「お前らは妖術師の中で有名だからそんなことしたって意味は無い。」

「隠しきれないオーラというものだな!」

 桃原恭子は得意げに胸を張る。

「あと呼び捨ては慎め。私はこの中では経験年数が長い、いわば先輩なのだからそれ相応の呼び方をしてもらわないと困る。」

 言ったからには10年は妖怪と戯れてたんだろうな。

「桃原さん。」

 なーんて反抗したところで無駄な気力と体力を使うだけなので黙って『さん』を付けてあげることにした。

「まだ2人は茨城の支部にいるから帰りに寄っていってやる。」

 このまま挨拶も交わさずに2人とお別れかと思っていたので、忘録の言葉に少し胸がホッとした。

「でもなんで後継者があたしと桃原さんなの?」

「ちょうどいいのがいたから。」

 嘘でも力が強かったとかあたしと桃原恭子のシンクロ率が神ってたとか言って欲しかった。

「ちょうどいいでいいなら俺と江利だけでいいだろ。」

 仲間はずれにされていた翔瑠君は腕を組んでムスッと拗ねている。仲間はずれにされていることよりも、知らない人が横槍を入れてきたのが面白くないようだった。

「お前は不安定だからな。現場に出てくるよりも、こいつらのサポートをしていたほうが役に立つ。」

 翔瑠君はますます眉間に皺を寄せる。

「あたしはよく知らない桃原さんより、その、仲のいい翔瑠君と組んだほうがいいでしょ。」

 別に機嫌を直してもらおうという魂胆はなく本心だった。こんな頭のおかしい女とチームを組まされるよりも、息ぴったりの翔瑠君のほうが絶対力を発揮できる。

「駄目だ。お前ら2人だと因縁が深すぎる。」

「初代の話?それは解決したわ。」

「違う。試しにお互い手を合わせて力を込めてみろ。」

 あたしと翔瑠君は顔を見合せ、右手同士をぴったりと合わせる。そしてお互い妖力を込める。窓も開けていないのに車の中で風が吹き、翔瑠君は犬の耳がぴょこんと生えた。次の瞬間、自分の中に何かが無理矢理入り込もうとする気持ち悪い感覚に襲われる。取り憑かれる。

「嫌っ!」

 あたしは咄嗟に手を離す。車の中の風は止んでいた。不快な感覚は嘘であったかのように既に無くなっていたが、心臓は未だにバクバクして全身から嫌な汗が滲み出ている。自分の体であることを確かめるように懸命に呼吸をする。

「江利!どうした?!」

 翔瑠君が背中に手を伸ばしたが、あたしは身をびくりと震わせ、

「触らないで!」

 と大きな声を出し拒絶してしまった。翔瑠君は手を寂しげに引っ込める。頭に生えていた耳はいつのまにか消えていた。代わりに桃原恭子が背中をさすってくれた。

「ゆっくり息を吸って吐くんだ。安心しろ。鬼塚翔瑠もお前を傷つけようとしたわけではない。」

 ようやく呼吸が整ってきた。同時にぼんやりとしていた思考もまとまってきた。

「ご、ごめん!」

 あたしは自分のしでかした事を翔瑠君に謝罪した。翔瑠君は寂しそうに笑うと「大丈夫だから。」と大丈夫そうではない様子で答えた。

「ほらな。水沢、鬼塚に触れたとき変な感じになっただろ。」

 忘録は後部座席でか弱い女子が1人パニックになりかけていたというのに全く動じる様子もなく平然と運転していた。ルームミラー越しに目が合う。

「手を触れた時、体を乗っ取られると感じがしたの。凄く嫌な感じだった。これが因縁のせいなの?」

「異能保持者は能力から過去の縁ありとあらゆる全ての情報が末代までの魂に刻みつけられる。」

 翔瑠君を見上げ、恐る恐る彼の手に触れる。今度は逆に翔瑠君のほうがビクッとして避けようとしたが、逃がすまいと腕を掴んで手を繋いだ。さっきの感覚は襲ってこなかった。なんともないことを確認して手をむにゅむにゅ揉んでみる。スポーツをしているからなのかあたしの手と違って筋肉質で男子の手だ。

「前にすけさんが教えてくれたやつだな。お前らはどれだけ問題を放置していたんだ。」

「してないわよ。最近進展があったんだから。両家の誤解も解けたし、お家問題も解消しているわ。それに翔瑠君の背中に乗っているときも旦那さんが乗っ取っていたときも平気だったよ。」

「いや。」

 翔瑠君が重々しく口を開いた。

「邪神の力が俺の中にまだ残っているんだ。」

 翔瑠君の中には旦那さんの話によると邪神の血も入っている。邪神は初代を狙っていた。500年経った今でも虎視眈々と初代の血を狙っているのだろうか。普段から旦那さんの気配しか感じないからすっかり警戒を解いていた。

「発動条件も不明。逆に江利を危険な目に合わせる。だから俺は除外なんだな。」

「そうだ。」

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