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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
54/72

File8 初めてのお使い#3

 あたしは男と桃原恭子の背中をぼんやり眺めながら歩く。

「なぁ。いいのか。こいつらどう考えてもおかしいぞ。隙を見て逃げたほうがいいんじゃないか?」

 隣を歩いていた翔瑠君は前の2人に聞こえないように耳元に顔を寄せて囁く。最もな意見だ。怪しい大人に付き合うのは危機感が無さすぎるのかもしれない。

「不審者であることは間違いないよね。でも逃げ出してあたし達のことをバラされるほうが危険というか。」

 あんな人目に付くところで幽霊だ妖怪だと騒がれることの方がリスクが高い。黙って男の言う通りにするしかなかった。

 前を歩いている桃原恭子はこちらが気になるのかこちらをチラチラ見ているが、その度に男にこずかれ慌てて前を向く。が、またしばらくすると後ろを振り返る。まるで気になる子に話しかけようか話しかけまいかそわそわしている子どもだ。

 そろそろ逃げ出す準備を始めようとしていた時、男は黒色の車の前で立ち止まった。よく警察が覆面するときに使う車と似ている。男は白子衣装のポッケからスマートキーを取り出して鍵を解錠した。運転席に乗り込もうとしたが、動きを止めようやくこちらを見た。

「自己紹介忘れてた。忘録平佑(ぼうろくへいすけ)、俺の名前だ。」

 そして何事も無かったかのように運転席に乗り込んだ。自己紹介はあれで終わりらしい。失礼な奴ばかりでこれから上手くやっていける自信がない。

「すけさんって呼んでやってくれ。私は桃原恭子だ。」

 桃原恭子も先程から1ミリたりとも前進していない自己紹介をするものだから、

「さっき聞いた。」

 と突っ込んでしまった。

 知らない人の運転で助手席には乗りたくなかったのであたしは翔瑠君に目配せをして一緒に運転席の後ろの席に乗った。するとてっきり助手席に乗ると思っていた桃原恭子が反対側のドアから乗り込んできた。断る暇もなく座ってしまったため、助手席側から桃原恭子、あたし、翔瑠君の順番で座っている。ちょっとだけ翔瑠君の方に体を寄せた。

「お前ら、いつの間に仲良くなったのか。」

 一体どこをどう解釈したら仲良くなったと言えるのか教えてくれ。

「すけさんの運転怖いからな!後ろが1番安全だ!お前らのことも知りたいし。」

「もう何処にも連れてってやらないからな。」

「職務放棄だ!上に言いつけてやる!」

 この2人のやり取りから察するにどうやらコンビを組んでからしばらく経つようだ。さっきから桃原恭子が『すけさん』と忘録を親しげに呼んでいる。

「なぁ、どこに連れて行くつもりだ。」

「墓場。」

 忘録は一言だけ答え、シートベルトをしエンジンを付けた。

「後ろもシートベルトしろよ。公安の一端が道路交通法違反て、それこそ減給だからな。」

 お利口にもシートベルトを締めて次の言葉を待った。忘録は車を発進させ、黙ってハンドル操作をする。

「墓場って……。」

 まさか答えが3文字しかないと思ってもみなかった翔瑠君が更に質問を続けようとする。代わりに答えたのは桃原恭子だった。

「すけさんは友達が少ないから人と話すのが苦手なんだ。代わりに私が教えてやろう。」

 貶された本人はほっとけと悪態をついていたが、桃原恭子は気にせずに続ける。

「私と水沢江利はこれから同じ班として組むことになって今から初任務だ。」

「えっ、あんたと?エージェントと姐さんはどうなったのよ。」

 桃原恭子はスっと真顔になり、目を伏し目がちにする。

「……残念ながら、左遷された。」

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