File8 初めてのお使い#2
「水沢江利!!いるのは分かっている!!」
女は立てこもり事件の犯人を説得しているような声量を出す。
「近所迷惑な女だな。水沢ァ、行って止めて来いよ。」
「結束、警察。」
すぐに結束へバタンを渡した。
「面倒事をすぐ僕に押し付けるのやめてよ……。」
「このまま無視を続けるつもりか!お前が幽……」
ついに女は全校生徒の前で暴露という強行手段に出た。
「やめろぉぉぉぉぉー!!!」
あたしは窓を全開にし大声を出す。我ながら抜群の瞬発力ではないかと心の中で自分を褒める。と、同時にやってしまったことに気が付く。
「やっぱりいるじゃないか!!」
不審者にあたしの位置を教えてしまったのだ。こうなれば仕方あるまい。
「あぁ……、ちょっと殺してくる。」
「殺さないで。それこそ父さんの出番。」
「春嵐 波乱を運ぶ 新メンバー」
窓の外を眺めながら、一ノ瀬君は一句唱えた。
「一ノ瀬君、茶化してる場合じゃないから。」
「すみません、つい思い浮かんでしまったもので。」
あたしは酸欠気味になりながら文芸部を後にした。
靴を履き替え、校舎の外まで出ると桃原恭子と名乗る女と翔瑠君が揉めていた。
「江利に何の用?」
「この学校はイケメンが多すぎるな!かく言うお前も女子の心を掴んで離さない切れ長のミステリアスな双眸!大人の雰囲気を醸し出しているが、隠しきれない童顔!冷淡な口調だが、芯から温かみを感じる声!あと一歩で私のストライクゾーンど真ん中だ!」
「そんなのどうでもいいから、江利に何の用だ?」
「さてはお前好きな女子には甘いタイプだな!くぅ〜、こんな相棒を侍らせているなんて水沢江利が羨ましい限りだ!」
「……話が通じない〜。」
不審者に絡んでしまった翔瑠君は困惑している。
「しょうがないよ。春だから。」
「江利。」
好きな女子には甘い美少年はあからさまに助かったとミステリアスな双眸を少し細める。
「降りてきてやったわよ。何の用?」
「ようやく来たな!年が暮れるところだったぞ!この私が直々に1時間以上離れたこの酷く荒んだ学校まで来た理由。それは1つしかない!水沢江利!私と……」
桃原恭子は言葉の途中で背後から何者かに頭をハリセンのようなもので叩き付けられる。地面スレスレのところで足を踏ん張り、地面と同化することは回避できた。あたしと翔瑠君は目を丸くして立ち尽くすしか無かった。
「いったいなもう!いきなりレディの頭をハリセンで殴るとは乱暴だなぁ!」
殴られたのが痛いのか桃原恭子は頭を抑えている。
「慎重にって言ったそばから他校の校舎で拡声器で呼びつけるとかどんな頭していたらそんな発想になんだよ。」
桃原恭子を叩き付けたのは、目には覇気がなく、眠そうに欠伸をしている如何にもやる気の無さそうな背の高い男だった。歳はあたし達より10個くらい上に見える。
「すけさん!第一印象が大事だぞ!」
「それなら今ので最悪だ。安心しろ。」
横でただじっとしていた翔瑠君は頭を振りあたしの前に出て近づくなと手を広げた。
「また江利か!巻き込むなら容赦しないからな!」
感情が平坦なのがデフォルトの翔瑠君にしては珍しく声を荒げ髪の毛を逆立てている。最近元気が無いと思えば今日はカンカンに怒っていて忙しい人だ。
「片足突っ込んどいて今更だな。水沢江利は去年承諾した時点で俺達の組織の一員だ。巻き込まれるとはわけが違う。」
男が着ている黒子の衣装白色バージョンは姐さんやエージェントが着ている物とそっくりだ。こんなへんてこなものを制服にしている組織は1つしかない。
「あんた達研究室の人間?依頼ならいつもあの2人から受けているわよ。」
「大人の事情ってヤツ。ま、他人に妙な噂を立てられなくなければ大人しく付いてくるこった。」
男は右腕を広げ周囲を見るよう促す。周囲には好奇の目をした男子生徒達が数人いた。




