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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
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File1 切り裂きジャック#1

「ねぇ、果たし状って……」

 鬼塚は朝に相応しくない険しい顔をした。幸せが逃げていくぞとアドバイスしてあげようとしたら腕を掴まれて連れ去られた。物凄いスピードで階段を駆け上がるものだから追いつくのがやっとだ。そして屋上の扉の前まで来たところで立ち止まった。あと一歩で青春らしいことができたのに、鍵が閉まっていることが悔やまれる。

「話しかけるなって言ったよなぁ!!」

 なぜあたしは怒られているのだろう。昨日の決闘でマナー違反があってはいけないと思って詳しそうな鬼塚に質問しただけなのに。

「昨日のことを忘れたのか!」

「…………あ、覚えてるわよ。」

 嘘である。さっきまですっかり昨日のことなど抜け落ちていた。中学生は一分一秒でコロコロと感情が変わるのだから当然の話だ。

「あの人なら大丈夫よ。しばらくは病院が家になるみたいだけれど。」

 失礼な連中に付き添ってあげたのだから褒めてほしい。鬼塚は勿論褒めてくれるはずもなく、自嘲気味に笑う。

「今回はついていただけだ。今度はお前に災難が落ちてくるかもな。」

「偶然落ちてきただけじゃないの?あの高校生、日頃の行い悪そうだし。」

「俺の周りは()()あんなことがよく起こる。周りの奴らが噂してるように呪われてるんだよ。」

「ただ間が悪いか良いだけだと思うけどなぁ。じゃなきゃあんたの家の方角が悪いのかしら?」

「それはない。家族でも俺だけだ。」

「でも呪いかどうかはまだ決まったわけじゃないじゃん。」

「……何も知らないくせに。とにかく俺にはもう関わらないでくれ。」

 鬼塚はそれだけ言い残して1人で教室に戻ってしまった。

 話しかけるなと言われてもあたしは今のところまともに話せるのが鬼塚しかいない。自己紹介から始まり、色々やらかしたあたしに原因があるとしても皆して避けすぎだ。

 以降も時々鬼塚に声をかけてみるが答えてくれることはなく、あたしの一方通行になる。挨拶すらもまともに返ってこない。

 人形のような奴に話しかけるほどあたしも暇ではなく、早いところ見切りをつけ、誰とも関わらない日々が続き、気がつけば入学から既に1ヶ月が経とうとしていた。

 

「ただいま。」

 学校の鞄をそこら辺に放り投げ、家のカーテンを閉めて部屋の電気を付ける。のそのそと飼い猫のミケが部屋にやってきた。

「おかえり。」

 『にゃあ』と鳴く代わりに日本語で出迎えてくれた。ミケはただの猫ではない。人間の言葉を理解し操り、人間に化けることが出来る万能猫だ。

 あたしが小さい頃に化け猫であるが故に野良猫から仲間外れにされ、衰弱死しそうなところを拾ったのだ。以来ずっとそばにいる。

 猫にも人にもなれるなんて羨ましい限りだが、ミケは愚かな人間に化ける者はもっと愚かなどと厨二チックなことを言ってご飯のとき以外は滅多に人間になろうとしない。

「暗くなったら電気つけてっていつも言ってんじゃん。」

「あたしは暗くてもよく見えるから困らないわ。」

 細かいことを注意しても一度も直ったためしがない。

 テレビを付けて、夕飯の準備に取り掛かる。

「今日は何?」

「シチュー。」

「またぁ?先々週はカレー、先週は肉じゃがときて今週はシチュー。」

「来週はポトフよ。」

「同じ食材だし飽きるわ。」

「飽きたなら食べなくていいわよ。代わりにキャットフードにしてやろうか。」

「いやよ。あんなボソボソしたもの。」

 献立を考えるのも大変だというのにミケは文句ばかりだ。

『続いてのニュースです。被害者はこれで五人。謎の切り裂き事件。』

「ご飯できたよー。」

 食卓にご飯を用意すると、ミケは人間の姿になって椅子に座った。文句を言いながらご飯を食べるのがミケだ。だったら最初から黙って食えばいいのに。

「最近このニュースばっかだね。」

 茨城県内のローカルニュースはここ数日連続切り裂き事件の話題で持ちきりだ。

「春だからじゃない?猫も変な奴が多くなるのよね。集会の参加も楽じゃないわ。」

『被害者の証言によると帰宅後着替えをしていた際、頬や腕に何かに引っかかれたような切り傷が出来ているのに気がついたそうです。被害者のうち1人は、着用していた制服も切り刻まれていたとのことです。

 被害者の共通点として大洗町にある商店街を通っていたとのことですが、いずれの被害者も帰り道には誰ともすれ違ってはいないとのことです。警察は……』

「変な事件。イタズラなのかな?」

「さあね。犯人が何にせよ、あたし達がいた田舎町の小さな事件じゃないんだから、江利は変に首突っ込むんじゃないわよ。」

「ムッ。あたしだってそんなホイホイと事件に首突っ込まないわよ。高校生探偵じゃないんだから。」

「どうだか。」

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