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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
48/75

File7.5 要注意団体♯1

 連続窃盗事件を無事秘密裏に解決した文芸部一行。その裏では江利の知らないところで新たな要注意団体が動き出していた。(翔瑠視点)

異常現象対策研究室組織理念

 我が國の建國から2600年余り。重く長い歴史は常に滅亡との隣合わせであった。その滅亡と人知れず対峙してきた者達が陰陽師である。陰陽師は人間の手には負えぬ怪異からこの國を護り続けていた。

 しかし守護者無き今、我々は立ち上がらなくてはならない。愛すべき美しきこの國と國民を決して喪ってはならない。

 國民が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、守護者の代理として護り続けなくてはならない。

 2006年1月13日 

 異常現象対策研究室 室長 ■■ ■■


 野球部の活動が終わり、教室に置きっぱなしにしている鞄を取りに行くため校舎の中に入る。クラスメイトは全員既に部活に行っていて教室には誰もいない。

 はずなのだが、机が床を引きずる音が聞こえた。江利の好奇心旺盛なところが移ったようで、俺は音がしたほうへ近づく。

 よっぽど慌てていたのだろうか。姿を隠したはいいものの、紺色のスカートの裾が机からはみ出している。制服でスカートを履く人物はこの学校には1人しかいない。

「江利、何してるの?」

 江利は膝に顔を疼くめて小さな体を更に小さくし、机の下で息を潜めていた。あんなに音を立てておきながらやり過ごせると思ったのか、声を掛けると江利はびくりと体を震わせ勢いよく顔を上げた。その拍子にガタンッと机に頭を強打してしまったらしい。短い悲鳴をあげ、再び蹲った。

「大丈夫か?!なんで隠れたんだよ。」

「ど、どうしよう!石失くした!」

 しかし、江利はすぐに立ち直るとこちらに飛びかからんばかりの勢いで捲し立てた。マイペースな江利がこんなに焦っているのは珍しい。

「え?あの大事だって言ってたの?」

「うん!どうしよう!万が一失くしたって知られたら……!」

「いつも首に下げていただろう?失くなることってあるのか?」

 江利は研究室の依頼の時も寝る時もいつも常に石を首から下げている。江利は寝相が悪く、部屋まで起こしに行くとひっくり返っているなんてこともあったが、それでも石を片時も手放したことはない。誰かにひったくられない限り失くなるとは考えずらい。

「チェーンが切れちゃったのかなぁ?!こんなことなら頑丈なチェーンにしておくべきだった!」

「まず机から出よう。あと今日の行動を振り返るんだ。」

 ハッとして江利は机の下から這い出る。明るいところに出てきたことで江利の表情がはっきりと見えた。

 頬を紅潮させ、目は泣きそうなのか少し潤んでいる。笑顔もなかなかの破壊力があるが、泣きそうな顔もちょっと可愛い。この非常事態にこんなことを考えているなどと悟られないよう俺は表情筋に力を入れる。

「移動教室はなかったよな。だとすると教室だけど、机の中には?」

「うん、無かった。」 

「あと部活中だと思うけど、そういや荒崎と結束、あと1人誰かが野球部に来たぞ。」

 江利は今日の文芸部の活動について話した。また変なことに突っ込んでと険しい表情をしてしまった。窃盗事件の解決を頼みに行った学級委員長が一番悪いが、引き受ける江利も江利だ。だが今回は流石に可哀想なので怒らないであげよう。

「まず文芸部に行ってみようか。」

「ごめんね……、付き合わせちゃって。」

 江利はシュンと落ち込んでいる。あの石はよほど水沢家にとって大切なものなのだろう。それなのに、廃墟で俺を護るために預けてくれたことに胸がいっぱいになる。

「いいよ。あの石には助けられたし。見つけたら新しいチェーンでも買ってこよう。」

「除籍されちゃったらどうしよう……。」

 どうやら惚気けている場合ではなく、江利は先のことを心配している。

「きっとどこかにあるって!研究室も特別な石や御守りは必ず持ち主の元に帰ってくると言っていたし。」

「うん……。」

 いつもの明るさをどこかに忘れてしまった江利は力無く頷く。

「あ、あの!」

 声のするほうを振り返った。数十メートル離れた先に男子生徒が肩を震わせて立っていた。学年集会で一度見かけたことがあるから恐らく同級生だろう。

「み、水沢さん!は、話したいことがあって。今いいですか?」

「悪いけど、今それどころじゃないんだけど。」

 入学したての頃のような誰も近づくなと言わんばかりの声だった。責められたと勘違いしたのか男子生徒は顔を強ばらせ一歩下がった。その様子に江利は少し眉をぴくりとさせた。

「誰?」

「針を盗まれた手芸部員の清水。」

 清水という男子生徒はオドオドしていてこちらを視線を彷徨わせては目が合うとすぐに下を向く。いかにも気が弱そうな奴だ。なのに勇気を振り絞って江利を呼び止めたのにはただならぬ事情があるのだろう。

「いいよ。行ってきなよ。大事な話そうだし。」

「でも……。」

「ちゃんと探すから。」

 パニック状態の江利が冷静に探せるはずもない。それに江利の性格上、このまま困っている同級生を放っておきたくないだろう。気を紛らわせるためにも江利を半ば強引に教室に戻し、俺は1人文芸部室に向かう。


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