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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
47/75

File7 第一回文芸部活動#5

「で、話って。」

 自分から呼び止めたくせに一向に話そうとしない目の前の人物に痺れを切らして、またまた不機嫌そうに言ってしまった。

「その、ごめんなさい。用事があったみたいなのに。話というのは、盗まれた横断幕のことなんだけど……。」

 男子生徒は大きく息を吸い込んで意を決したように、

「あれ盗ったの僕なんだ!」

言い放った。

「はぁ?」

 怪しいとは思っていたが、まさかの真犯人という予想外の事実にこの一言しか出なかった。

「そ、その、嫌がらせをしようとかじゃないんだ!これは、信じてほしい。」

 そして清水は犯行の一部始終を自白した。内容はこうだ。清水は実は元バレー部員で、卒業生の仕打ちに耐え兼ね、志半ばで去年の夏頃に手芸部に転部したのだという。

 1週間くらい前の帰り道に体育館前に通りがかると、バレー部とバスケ部の横断幕が落ちていた。なぜこんなところにと疑問だったが、小さな穴を見てそこから出てきたのだと思った。

 早く返そうとバレー部員に渡そうとしたが、年季の入った横断幕には所々虫食いのように破れていた。

 それを見た男子生徒は、手芸部の血が騒ぐと同時に世話になったバレー部の先輩達や同級生の顔が浮かび、横断幕を綺麗にして返却しようとしそのまま持って帰った。

 手芸部歴1年未満だが、この学校の手芸レベルは高いらしく、横断幕も満足のいく出来になった。ところが次の日、そっと返却しようとしたところ、バレー部やバスケ部は無くなった横断幕のことで大騒ぎ。しかもミントン部のシャトルの盗難被害も確認され、いよいよ言い出せなくなってしまった。

 更に追い打ちをかけるように、自分の針がまち針以外盗まれ、自分が犯人だという人物からの脅しだと思いここ2、3日はまともに眠れていないという。だからバチだとあのとき言っていたのか。

「そんなことならさっさと言い出せば良かったじゃない。」

「だ、だって。そしたらやっていないことまで疑われるじゃないですか。」

「そうやってずるずる黙っているからこういうことになるのよ。バレー部への応援も兼ねてたんでしょ。それこそ直接伝えるべきよ。」

「でも……」

「あー!イライラする!」

「怒らないでよ……。」

「やってないことはやってない!って胸を張って言えばいいじゃない。それに誰もあんたみたいなのが無駄な盗みをするなんて思わないんじゃないの。」

 数時間しか会っていないが、根はいい奴なのだろう。それに早川が分かってくれる気がする。

「横断幕は持ってきてるの?」

「うん。」

 そう言うと男子生徒は鞄から布を取り出して広げた。

「ほんとに破れてたの?そんな風には見えないけれど。」

「たまたま同じ生地が家にあったから、結構上手くいったと思うんですけど。」

「へぇ、なかなかの腕前ね。尚更渡してきたほうがいいわよ。3年あたりが泣いて喜ぶかも。きっとまだいるだろうから。」

「そう、かな?」

「スッキリしないまま手芸部を続ける気?安心しなさい。あんたの針はちゃんと見つけてあげるから。」

 今のところ手がかりもないが同級生の好だ。何とかして見つけてあげよう。

「うん、そうだな。これ返してきます。そして正直に話してくる!」

 そう言って清水は走って体育館に向かった。きっとあいつは大丈夫だろう。やはり真相は大したことないのだ。

 だがあたしの気は晴れない。まだバドミントン部の羽とバレー部のネット、手芸部の針を探さなくてはならない。同一犯であることを願う。そのほうが楽そうだ。もし犯人が見つからなくて、ネズミの仕業でもないとすると、

「妖精?」

 口に出して見たもののすぐに頭を振る。解決できないことを全て怪奇のせいにするのは間違っている。明日の捜索に憂鬱になりながらも、目先の緊急事態である紛失した石のことを思い出して文芸部に行こうとしたところ、

「江利。見つけたよ。」

 翔瑠君が教室の前で待ち構えていた。手には失くした石を持っていた。

「ありがとう!!神様仏様だよー!」

 飛びつきそうになったが、翔瑠君に静止されてしまった。

「ご、ごめん。どこにあったの?!」

「文芸部に落ちていた。」

「そうだったの。一ノ瀬君はいなかったの?」

「……誰もいなかった。次からは気をつけるんだぞ。」

 そう言って翔瑠君は石を首に掛けてくれた。先ほどよりも元気がない。

「……翔瑠君、怒ってる?」

「えっ?怒ってないけど。どうして?」

 顔をまじまじ見ると本当に怒っていないようだ。怒っている時は少し目が赤く光っていることが最近気がついた。

「さっきより元気ないように見えるっていうか。」

「あ、え、きっと部活で疲れたんだ。早く帰ろう。」

 引っかかるものがあったが、あたしはそれを心にそっと閉まった。

「手芸部は大丈夫だったのか?」

「たぶん自分でどうにかするんじゃないかな?ふふっ。」

 自然と笑い声が漏れた。

「なんだよ?」

「ううん。すれ違いも悪いもんじゃないね。」

「どういうこと?」

「青春ってこと!」


 翌日、学級委員長が部活動の開始と共にやって来て、昨日の礼に来た。どうやら清水は全て正直に話せたようだ。そして綺麗になった横断幕を見て3年は全員泣いていたのだと。なんだったら顧問も泣いていたという。善意故の結果ということで清水はお咎めなしだったそうな。

「残りはミントンとバレー部のネット、手芸部の針なんだがな、戻ってきてそうだ。」

「戻ってきたの?!」

「書き置きと共にな。『勝手に盗ってすみません。とても役に立ちました』って。」

 他人の物を盗んでおいてそれで済むと思っているのか。と、責め立てたくはなるが、これ以上は面倒であたしの好奇心レーダーの反応も悪いので関わりたくない。

「不思議なこともあるものですね。今日は書き置きの犯人探しですか?」

 一ノ瀬君、余計なこと言わないで。だが、学級委員長の返事はあたしの願いを聞き届けたのか意外なものだった。

「いや、いい。ミントン部も手芸部も大事にしたくないって。それに横断幕も戻ってきて皆どうでもよくなってたしな。」

 メインは横断幕だったからな。依頼者がいいというのであれば未解決事件として記録に残しておこう。人生には多少謎があったほうがいいものだ。

「お裁縫男子清水も感謝してたぜ。名探偵のおかげで胸のつっかえが取れましたって。後でくるんじゃないか?」

「あっそ。」

「水沢さんは素直じゃないねぇ。本当は嬉しいんでしょう。」

 似非爽やか荒崎はにこにこと笑っている。今日は見逃してやってもいい気分だ。

「また困ったときは頼むよ。」

「お断り。文芸部は創作で忙しいの。」

「まあまあそう言わずに。あとこれ。3年と早川さんと俺から。」

 学級委員長はお菓子の袋をいくつか取り出した。しかもお徳用サイズ。

「部員で買い出しに行かなくてはいけないところだったんです。良いタイミングですね。」

「これ全部?!」

 まさかの報酬に心が弾む。

「いいぞ。」

「でも部室に置くにはちょっと多いね。」

「ここは部長にお好きなものをお渡しするのは如何でしょう。」

 そんな好待遇いいのだろうか。平部員の3人はこくんと頷く。御書は、興味無さそうだ。

「貰うよ、貰うわよ。あとから返してって言っても返さないからね!」

 そう言ってあたしは大好きなチョコレートのお菓子を貰った。

「まぁ?また相談に乗ってやらないこともないわ。」

「現金な奴だなぁ。ま、そういうことだから。ありがとな、名探偵。」

「名探偵って言うな!」

 こうして第一回目の文芸部の幕は閉じた。この噂が出回って、また相談が殺到するのではないかという懸念もあるが、毎回このくらいのリターンがあるならそれも悪くないかなとあたしは部室用のクッキーを頬張った。

続く!

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