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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
46/75

File7 第一回文芸部活動#4

 次にあたし達が向かったのは手芸部が活動している家庭科室だ。教室の扉を開けると、バレー部の時と同様、お裁縫男子達が一斉に手を止めこちらを見た。あたしは顧問がいないことを確認し、

「文芸部部長の水沢です。手芸部で針を盗まれたと聞いて来たんですけど。」

 6人ほどしかいない部員たちは各々顔を見合わせたのち、1人の3年が立ち上がった。

「手芸部部長の藤原です。えーと、なんで文芸部が?」

 部長の反応は当然である。生徒会でもなく全くの部外者である文芸部がこんなことに首を突っ込んでいるのだろうと自分も思う。なんだったら生徒会の仕事でもない。教師の仕事だ。

「バレー部の横断幕が無くなってしまったらしく、我々のところに相談が回ってきたものでして。手がかりを探すために各部活動に聞き込みを行っていたのですが、ご協力願えますか?」

 一ノ瀬君は警戒心を解くように笑顔で捜査への協力を要請する。部長は、

「確かバレー部もバドミントン部も困ってたよな。」

 などと独り言を言って、1人の男子生徒と目配せした。目が合った男子生徒は裁縫の手を止めてこちらにやって来た。

「その様子だと先生達に秘密なんでしょ。盗まれたのはこいつだけです。」

「2年2組の清水です……。」

 清水は蚊の鳴くような声で話す。小柄で身長もあたしよりも少し大きいくらいだ。

「顧問がそろそろ来るかもしれないから、聞き込みなら別の教室でやったほうがいい。時間稼ぎくらいはしておく。一応、手芸部の活動は家庭科室のみ。裁縫道具はあの棚に閉まってます。あとはコイツに聞け。」

 流石手芸部部長。判断が早いし、状況説明も的確だ。

「ありがとうございます。あたし達は文芸部室にいますので、何かあったら来てください。」

 手芸部部長に言われた通り、清水とあたしと一ノ瀬君は一旦文芸部室に移動することにした。

 移動している間、他愛もない会話を一ノ瀬君と清水はしていたが、清水はどこか落ち着かない様子だった。文芸部に着き、一ノ瀬君は3人分の紙コップを用意し、麦茶を注いだ。

「なんだか僕お客さんみたいですね。」

「まず事情聴取からよ。針を盗まれたって聞いたけどいつ盗まれたの?」

 と早速尋問を始めた。一ノ瀬君は記録係としてノートを広げた。

「は、はい。一昨日あたりになくなったんです。前日まではあったので、部活が終わった後に無くなったのではないかなと。」

「バレー部とはまた違う犯行時刻ですね。」

「裁縫道具は部長が言っていた場所にあったの?」

「そうです。なのに、僕のだけまち針以外が無くなっていて。」

「1本や2本じゃないのね。部活できないじゃない。」

「だから今は備品の針を借りてる。」

「家庭科室ですと、どのクラスも家庭の授業で使いますからね。」

 あれか、学校の人間全員が容疑者になるというやつか。

「バレー部と手芸部の犯行が同一人物と仮定した場合、だいぶ絞られてくるとは思いますが。問題は何故貴方一人だったのか、というところですね。」

「バチが当たったかな?」

「バチってなんの?」

「あ、いや!その!」

 明らかに怪しい言動を取る清水にもう少し問い詰めようとしたとき、

「悪い。顧問が来た。10分が限界そうだったから戻ってきてくれないか。」

 時間切れとなってしまった。あともう少しで犯人が分かりそうだったのに。

「は、はい!すみません!僕はこれで!」

 清水は慌てて部室を出て行ってしまった。

「なんか怪しくなかった?」

「そうですね。終始目を泳がせていましたから。」

「明日も聞いたほうが良さそうね。」

 はぁとため息を吐いていると外に行っていた3人が帰ってきた。

「ただいまー。あんまり収穫無かったよ。そっちは?」

「似たようなものです。ただ1つ、体育館倉庫の穴から鍵を開けるのが困難ということは分かりました。」

「外から見てみたけど結構小さかったもんね。外の部にも色々聞いてみたけど、何も盗まれてないんだって。」

「で、犯人の目星は付いたのか?」

「容疑者は見つけたわ。でも証拠がない。そもそも防犯カメラもない校舎で犯人と横断幕の行方を探すって無謀だと思うわ。」

「でも無理でしたでは終われないでしょう。」

「はぁ、明日も考えましょう。今日は解散ってことで。」

「いつも思うけどいいの?こんな早く終わって?」

 本来部活は6時まで行われる。現在時刻は5時40分。まだ20分ばかし早い。

「部長判断だしいいじゃない。どーせ土御門先生は今日もこないだろうから。」

 元々荒れている学校だ。部活が早く終わるぐらい見逃してくれるだろう。あたしが帰る準備をすると、結束も荒崎も帰り支度を始めた。御書は既に鞄を持っている。無口な彼も一応仕度の遅い部員達を待っているらしい。

「僕は電車の時間もありますので、しばらく部室にいますね。」

 一ノ瀬君を残し、4人は文芸部室を出た。

「でも見つかるといいよね。卒業生の所業は酷いものだったみたいだから。それにずっと耐えてたわけでしょう。」

「あいつらは人間のクズを煮詰めたみたいなもんだったからな。」

 卒業生だって荒崎には言われたくないだろう。取り留めのない話をし、校舎から出ようとしたとき、ふと首元が軽い感じがして触れてみる。

「……ない。」

「えっ?」

 首から下げている代々水沢家に伝わる石がない。スカートのポッケの中にも、鞄の中にもない。マズイ。これは非常にマズイ。物凄く怒っているおばあちゃんを想像し、冷や汗が出てくる。

「ちょ、ちょっと忘れ物したみたい!先に帰ってて!」

 あたしは大急ぎで校舎に戻って行った。御書から熱い視線を向けられていたが、そんなのを気にしてる余裕はない。大急ぎで取り敢えず教室に向かう。

 教室には幸いにも誰もいない。自分の机の中を確認したが、置きっぱなしにしている教科書以外出てくることはなかった。

 だとすると体育館倉庫だろうか。だが運動部はまだ部活中。試合も近いと言っていたので、部延長なんかして7時までしているかもしれない。そんな中に文化部が入ったら明らかに不審人物だ。あの石の秘密を一般人に知られるわけにはいかない。

 どうしようかと考えを巡らせていると、教室に誰かが入ってきた。咄嗟に机の下に隠れた。が、どんどん近づいてくる。遂にあたしの前で足を止めしゃがみ込んだ。

「江利何してるの?」

 目が合った。覗き込んでいたのは翔瑠君だった。驚きで飛び上がったせいで、頭を強打した。

「大丈夫か?てかなんで隠れたんだよ。」

「ど、どうしよう!石失くした!」

「え?あの大事だって言ってたの?」

「うん!どうしよう!万が一失くしたって知られたら……!」

 焦りで心臓がバクバクするし、頭もジンジン傷んできた。満身創痍だ。ただの石だったら良かったのに、よりにもよって500年続く価値も付けられないくらい貴重な石を無くしてしまった。こんなことになるなら体に埋め込んで置くべきだった。

「いつも首に下げていただろう?失くなることってあるのか?」

「チェーンが切れちゃったのかなぁ?!こんなことなら頑丈なチェーンにしておくべきだった!」

「まず机から出よう。あと今日の行動を振り返るんだ。」

 ハッとしてあたしは机の下から這い出る。

「移動教室はなかったよな。だとすると教室だけど、机の中には?」

「うん、無かった。」 

「あと部活中だと思うけど、そういや荒崎と結束、あと1人誰かが野球部に来たぞ。」

 あたしは今回は事の経緯を全て話した。終盤また変なことに巻き込まれてという顔をしていたが、怒らずに黙って聞いてくれた。

「まず文芸部に行ってみようか。」

「ごめんね……、付き合わせちゃって。」

「いいよ。あの石には助けられたし。見つけたら新しいチェーンでも買ってこよう。」

 見つけられればの話だが。このまま所在不明になったらあたしはどうなるのだろうか。おばあちゃん、叔母さん達から大目玉を食らうか、水沢家から除名処分が下るか、いずれも重い処分が待っているだろう。

「除籍されちゃったらどうしよう……。」

「み、見つかるって!研究室も特別な石や御守りは必ず持ち主の元に帰ってくると言っていたし。」

「うん……。」

 普段はネガティブな翔瑠君がポジティブなことを言っているのは不思議な光景だったが、今のあたしには左耳から入ってすぐに右耳から排出されている。

「あ、あの!」

 突然呼び止められた。あたしはそんな気分ではないので振り返らない。

「み、水沢さん!は、話したいことがあって。今いい?」

 名前を呼ばれてしまっては仕方がない。あたしは嫌々振り返る。と、先ほどの清水容疑者が立っていた。

「悪いけど、今それどころじゃないんだけど。」

 ついキツめに言ってしまった。清水はビクッとして、泣きそうな顔をする。少し胸が傷んだ。

「誰?」

「針を盗まれた手芸部の清水。」

「いいよ。行ってきなよ。大事な話そうだし。」

「でも……。」

「ちゃんと見つけるから。今は5組に誰もいないからそこを使うといい。」

 半ば強引に教室に戻される。清水も付いてきた。そしてそのまま翔瑠君は文芸部に行ってしまった。

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