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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
43/72

File7 第一回文芸部活動#1

「暇ぁ。」

 陸上部の活動を横目に、猫型ロボットの冷温庫の中にある冷たい麦茶のペットボトルを取り出し、紙コップに入れて一気に飲み干す。

「1人カルタでもやってりゃいいだろ。」

 適当に答えたのはさっきから転校生と将棋を刺している荒崎だ。荒崎は部室ではもう飽きたのか爽やか君の仮面を剥がし、元の口調に戻っている。

「暇かどうかは置いておいて、文芸部の再結成から早二週間。そろそろ文芸部らしい活動をしなければない時期でしょうか。」

 荒崎とは違い育ちの良さが全面に滲み出ているこの転校生は一ノ瀬匠海(いちのせたくみ)。悪魔祓いの3日後に親の転勤で哀れにもこの荒んだ学校に転校してきた。

 転校生の噂を聞きつけたあたしは他の部に取られる前に我先にと文芸部に勧誘したところ、

『特に入りたい部もないことですし、僕でお役に立てるのなら。』

と、すぐに入部してくれた。

「文芸部らしいねぇ。今まで文芸部の3年は何してたの?」

「ずっと漫画本読んでたよ。」

「コンクールとかは?」

「個人的に出てた人いたかなぁ?」

 本当に漫画読みに精を出す部活だったらしい。

「それでは漫画研究同好会ですね。いっそ名前ごと変えてしまいますか?」

「漫画だと教師が煩いわ。本は小説以外持ち込み禁止だもの。」

「既に持ち込み禁止の物を多数置いている部室はよろしいのでしょうか?」

 一ノ瀬君は冷温庫を指さす。これはあたしが大洗に引っ越してきたときに引越し屋から貰ったものだ。使う機会もないので物置の中に入れていたが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。こっそり持ってくるのにも苦労した。

 部室にはこの他にもゲーム機やボードゲーム、お菓子まで無許可で持ってきているのでよろしくはないが、今のところ一度も教師が覗きに来たことはない。かく言う一ノ瀬君だって冷温庫にあった冷たい麦茶を飲んでいるし、大胆にも将棋盤まで持ってきた。

「そもそも文芸部って何?」

「知ってて来たんじゃないの?」

「幽霊部員がほとんどだから楽だと思って入ったのよ。それ以外ある?」

「一応僕は真面目に活動してたからね!図書館の本読んでただけだけど。」

「東京の学校に文芸部はあったの?」

 東京はなんてたって大都会だ。きっと活動も斬新なものばかりに違いない。

「いえ。手芸部や書道部などはありましたが。」

「地味ね。」

「僕の中で文芸部は、百人一首に青春を賭けているイメージですね。あと、彼のような無口な部員が一人はいますね。」

 一ノ瀬君がちらりと視線を送ったのは、同時期に入部した御書叶都(ごしょかなと)だ。こちらの会話なんて興味無さそうに読書に励んでいる。勧誘した時もこんな感じだった。

 文芸部存続のため部員探しに躍起になっていたあたしは、2年になって突然部活の入部が必須と言われ戸惑っている奴は他にもいるだろうと思い、各教室を見て回っていたのだ。

 そして2年4組の教室を覗いたら、夕陽をバックに一人本を読みふけっていた男子生徒がいた。これほどまでに文芸部が似合う男子中学生はいない。声を掛けてみると、短い返事だったがどの部にも所属していないらしいことは分かった。

『文芸部に入部しない?』

 僅かに頷いたように見えた。無口でミステリアス文学少年キャラは某地球外生命体の人造人間を思い出してしまうが、そのほうが文芸部っぽくていい。

『じゃあ決まり。あたし部長の水沢江利。あんたは?』

『御書叶都。』

 こうしてギリギリ5人揃い、文芸部の存続は公式に認められたのだった。ちなみに顧問の先生は2年5組の土御門先生が自ら名乗り出てくれた。だが1度自己紹介に来たっきり、忙しいのか1度も覗きに来ることはなかった。。

「文芸部って特に何もなければ何もしない部だったりする?」

「全国の文芸部員に謝って!そもそも水沢さん部長でしょう?活動報告とかもあるんだから考えてよ。」

 こんなことになるのなら部長になんてなるんじゃなかった。

「取り敢えず自作小説とか詩でも各々書いて、将来の黒歴史にでもすればいいんじゃないかしら。」

「なんてことを言うの!創作活動も立派な活動なんだからね!」

 結束は熱心に文芸部について語り始める。あたしは手持ち無沙汰になり、髪の毛を弄ぶ。

 荒崎の事件以来、白髪の範囲がまた少し拡大してしまった。一般人からしたら以前と変わらないように見えるのだろうが、日頃自分の髪の毛をよく観察しているあたしには一目瞭然だ。

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