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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File6 消える死体#8

「いつもヒヤヒヤする。」

「でも全然平気だったでしょう。」

「まったく。いつか危ない目に遭うんだからな。」

 翔瑠君は冷ややかな視線を送る。あたしはそれに気がついていないフリをする。それよりも気になることがある。

「さっきの言葉、なんだったんだろ?私は本当に生み出されるものだったのかって。人間がいるだけで怨霊なんて生産されるものなのにね。」

「荒崎のことも言っていたな。」

「また面倒事に巻き込まれるような予感がする……。」

「研究室に報告しておこう。何はともあれ一件落着だ。」

 後ろから翔瑠君が大きな頭を背中に押し付けてグリグリする。本人曰く褒めているつもりらしい。

「ちょっとくすぐったいからそれやめてっていつも言ってるじゃん。」

「黙ってた罰。甘んじて受け入れるべきだな。今回は無事に解決したけど、毎回そうとも限らないんだから。次からはちゃんと報・連・相だ。」

「……善処します。」

「江利〜!」

「ちゃ、ちゃんとするから!もう!仕返し!」

 弱いという顎の下を撫でる。あまりの心地良さに怒る気力も無くなってしまうという。

「ふわぁ。じゃない!そこは反則!」

「こんなとこでもイチャイチャか。いいご身分だなぁ!お姫様がよ!」

 振り返ると放置していた結束を背負った荒崎がいた。死神ごっこはもうやめたらしい。

「学校サボって厨二ごっこしてた奴に言われたくないわ。」

「お前らが見えるものしか対処してないからだろ。今になって協力しろだなんだと。お姫様と翔瑠(ペット)が派遣されたのもそれが理由だろ。」

「翔瑠君をペット呼ばわりしないで。まるであたしが人間を飼ってる性悪女みたいじゃない。」

「問題そこじゃない。研究室もお前のことを探していたのか。」

「何も伝えられてないのか?お前ら潜りなんじゃないか?一週間前に来たぞ。この力を役に立てないかってな。俺はお姫様の犬は兎も角、国家の犬になるつもりはないんでね。」

「皆何かに縛られる犬なんだから、長いものの犬になればいいじゃない。ちなみにあたしは猫派。」

「ちっ。俺はそんなのに加担しない。」

「あっそ。」

「江利、こんな奴のことよりどうするんだ?地方紙とはいえ死体事件を警察は追っているんだろう。」

 すっかり忘れていた。フィクションに出てくるようなポンコツ警察なら誤魔化せるかもしれないが、つい昨日出会った警察官はどこにもポンコツな感じがしなかった。最悪迷宮入りして何年後かには世紀の未解決事件が放送されたりなんかしちゃったりして大事になってしまうかもしれない。こんなときの研究室なのに、荒崎が抵抗する以上その手は使えない。

「仕方ない。お兄ちゃんに連絡しよう。」

「辿萊さんならあのいつもの手だな。」

「ちょっと荒崎!逃げるんじゃないわよ。逃げたらあんたを全国に指名手配する。」

 この場からそそくさと離れようとしていた荒崎をとっ捕まえ、電話の機能しか持っていないスマホに電源を入れる。と、家やお兄ちゃんからの着信が10件くらい来ていた。ミケに悪いことをしたなと軽く心の中で謝罪をしつつ、お兄ちゃんに電話をする。

『はい、水沢です。』

「お兄ちゃん!あたし!江利!」

 お正月以来だったので思わず声も明るくなる。すると受話器の向こうから大きく息を吸う音が聞こえ、

『江利ちゃん!!今何処にいるんだ!!ミケから江利ちゃんが帰ってこないと電話があって何回も電話したのに全然出ないし!!何時だと思っているんだい!!』

 お兄ちゃんは大声で一気に捲し立てる。耳がキーンとする。スピーカーにしていないのに2人に丸聞こえだ。

「あの、辿萊さん……」

 見かねた翔瑠君がフォローに回ろうとしてくれたが逆効果だ。

「翔瑠君、今はちょっと静かに!」

『その声鬼塚翔瑠か!!やはり君か!!江利ちゃんを連れ回しているのは!!』

「違いますよ!怪奇現象を解決しようと……」

「それも禁句!」

『なんだって?!?!また研究室か!!こんな遅くまで青少年を!!今迎えに行くから待っていなさい!!それでどこ!!』

 あたしは観念して場所を伝えることにした。ここで嘘をついても後が怖いだけだ。

「駅近の神社です……。」

『一歩も動くんじゃないぞ!!』

ぶつんと電話が切れた。

「凄い剣幕だったな。」

「お兄ちゃん怒ると怖いんだよねぇ。昔、似たようなことして、めっちゃ怒られたことあるんだよね。そのときの倍は迫力あったね。」

「いとこにあまり心配かけるなよ……。」

「あんなのが今から来るのか!冗談じゃない!俺は帰る!」

 逃がすものかと荒崎のフードを掴む。

「離しやがれ!」

「逃がさないわよ!あんたのせいでもあるんだからね。あんたはあたしの弁解をする義務があるわ!」

「知るかお前の家庭事情なんて!」

「あたしはあんたの家庭事情を考慮して来てやったんだから他人事じゃないわよ!」

「誰も頼んでねぇ!」

「あたしは頼んでいる!」

 死神をしているだけ力は強い。あたしの足はじゃりじゃりと音を立てる。こちらも負けじと荒崎のフードを引っ張ると奴はバランスを崩しかける。が、またすぐ体勢を建て直すと一歩一歩前に進む。

「離しやがれ!」

「あんたが止まれば離すわ!ちょっと!見てないで手伝ってよぉ!」

「あー、うん。でもたぶん辿萊さん来たよ。」

 それを先に言って欲しい。荒崎に構っていたせいで心の準備が全くできていない。そして思わずフードから手を離してしまった。荒崎は前から盛大にこける。

「いだっ!俺は逃げるぜ!」

「どこに?」

 一足遅く、今は閻魔大王よりも恐ろしい人が火山を大噴火させながら参道に仁王立ちしていた。

「はわわ!翔瑠君!護ってよ!」

「無理、かなぁ?」

 その後は語るまでもないと思うが、あたし達結束除く3人はお兄ちゃんの大目玉をくらい、かれこれ1時間くらい説教を聞かされた。この間、結束は1度も目を覚まさなかった。眠り姫の才能があるんじゃないかね。

 それでもお兄ちゃんは隠蔽工作に加担してくれるようで、

「まったく。しょうがない。江利ちゃんと死神少年はそこに並んで。」

 イタチの事件と同様、偽の記事を掲載するために写真を撮ってくれた。

「江利ちゃんを送っていく、と言いたいところだが、隠蔽は早いほうがいい。名残惜しいが僕はここで失礼する。鬼塚翔瑠、其方はどうなってもいいが、江利ちゃんは死んでも送り届けろ。」

 ちょっと大袈裟すぎるお兄ちゃんの言伝に、

「はい!」

 純粋な翔瑠君は元気よく返事をしている。

「では、また近いうちに遊びに行くよ。あとミケに心配をかけさせるでない。泣いていたのだからな。」

 そう言って、お兄ちゃんは仕事場へ戻っていった。なんてブラックな職場なのだろう。

「こっわ。警察ってあんな感じなのか?」

「江利のことになるとああいう風になる人は何人かいる。」

「お姫様は違うなぁ。羨ましいぜ。」

「親泣かせてるあんたが何言ってんだか。」

「飼い猫鳴かせているお前に言われたくない。」

「お母さん、ずっと気にかけてたわよ。きっと息子が引きこもったのは自分のせいだって思い詰めてる。会ってないけど、お父さんだって。……羨ましいわね。」

「江利?」

 こんなことを言うなんてあたしらしくもない。なんでもない風を装って、

「なんでもない!早く帰ろ!」

と、翔瑠君の背中に無断で飛び乗った。

「そうだな。遅いし。」

「それ、俺らも乗せてってくんねぇ?」

「駄目。俺は江利専用。」

 あたしは別にどっちでもいいのだが、本人がダメというのならダメだ。

「そういうことだから。ちゃんと結束のことも送ってやんなさいよ。」

 荒崎は舌打ちをしながら、結束を背負って家に向かった。このあとどうするかは荒崎次第だ。

「飛ばすから、しっかり掴まってろよ。」

「あ、ちょっと待って。ほら、星。」

「星?」

「うん。ほら。」

 あたしは夜空を指さす。

「ほんとだ。こんなところでも見えるんだな。」

「綺麗だねぇ。」

「そうだな。」

 どれがなんという星座かは分からないが、そんなのは関係なしに星は光り輝いていた。


「何時だと思ってるわけ?」

 晴れ渡る気持ちで帰ったあたしと翔瑠君を出迎えたのはカンカンに怒っているミケだった。どうやらまだあたし達は眠れないらしい。

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