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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
40/75

File6 消える死体#7

「お、おい!」

 作戦通り翔瑠君は腕を組み仁王立ちで悪魔達の前に出る。悪魔達はずっと荒崎を囲っていたが、強い妖力の主に興味を持ったのか翔瑠君の方を向いた。

「そ、そんな弱っちい丸腰じゃ、何もできないようなフリーランスの陰陽師気取りを囲って、お、面白いのか!なかなか、趣味が悪いな!」

 まずい、思った以上に棒読みだ。いつものあの逞しい翔瑠君は何処へ。こんなに悪口が下手だとは思わなかった。台詞を考えておいて良かった。

「は?」

 悪魔達もこの反応である。

「そ、そんな人間より、こ、この、日ノ本一の、よう、妖怪遣いの子孫鬼塚翔瑠と遊ばないかぁ!」

 最後はやけっぱちだった。

「ふ、あーはっはっは!日ノ本一?その程度の魔力でよく私達の前に出て来れたわね。恥知らずにも程があるわ。」

 魔力という表現はこの国の妖怪達は使わない。やっぱり外国産だったか。

「貴様はこいつを殺した後にじっくり遊んであげる。貴様が護りたがっているあの娘もね。」

「江利には手を出すな!」

「まぁ待ちなさいな。こいつから先に始末する。」

「うっ、それはそれで困るんだが。」

 ダメだ。ちっとも効いちゃいない。やはりここはあたしの出番か。

「ごほん、あー育ちの悪い紳士淑女の諸君。」

「今度は何?」

「寄って集って生気もない死霊みたいな人間を囲っちゃってまぁ。そんなんだから…………」

 悪魔達の動きが止まった。宙に浮かびかけていた荒崎のことも離した。あのくらいの高さなら軽い打撲で済んだろう。そのことに一安心したのも束の間、

「おのれぇぇぇ!!」

 悪魔達はあたしに怒りの矛先を変えた。

「え!えぇ!あたしそこまで酷いこと言った?!」

「俺でも引いたぞ。」

「わぷっ!」

 翔瑠君が目にも止まらぬ速さで超大型犬の姿になり、あたしをひょいっと背中に乗せて走り出す。

「気をつけろ。舌を噛む。」

「さっきより怒ってるんだけど!」

「相手は幽霊だぞ。コンプレックスの塊みたいなもんだ。なのに、」

「あたしが酷いみたいに言わないでよ!翔瑠君だって超棒読みだったじゃん!」

「とにかく!!このままあいつらを昨日の神社まで引き連れていけばいいんだよな?」

「そう!昨日の今日よ!きっとまだ魔法陣の効果は消えていないはず!追いつかれなければの話だけど!」

「それは安心していい。」

「頼もしいね!」

 あたしは後ろを振り返る。悪魔達は無我夢中で追いかけてきているが、世界で一番早いグレイハウンドよりも速い翔瑠君には敵わない。

「まだ付いてくるのね。そんだけ人間に未練タラタラってことね。情けない。」

「小娘がぁぁぁ!」

「わざわざ刺激するな!あともう少しなんだから静かにしててくれ!」

 翔瑠君にまで怒られてしまった。悪魔と命懸けの鬼ごっこをしているとようやく目当ての神社の鳥居が見えてきた。

「そのまま入って!」

 幸い蝋燭は片付けられてしまっていたが、参道の真ん中に描かれた魔法陣はまだ僅かに残っていた。翔瑠君は拝殿の前で立ち止まる。あたしは背中から降りる。

「江利、いける?」

 ちょっと不安げにあたしを見つめる。

「よゆー!!何年この変な体質と付き合ってきたと思ってるのよ。」

「でも前にずっと遊んでたって。」

「遊びも仕事のうちよ!」

 程なくして悪魔達も追いついてきた。

「その色白い皮膚も内蔵も全て全て全て切り刻んでやる!」

 もう少し。もう少し陣の中に引き付けなければ。

「はん。やれるもんならやってみなさいよ!1年ぽっちの新人にも負けてるくせに!」

「赦さない!赦さない!赦さない!」

「やっと入ったわね!」

 あたしは悪魔達が魔法陣の中に入ったことを確認して、地面に手を付ける。目を瞑って魔法陣に妖力を送るイメージをすると手が少し温かくなってきた。髪を風が撫でる。また銀髪が増えてしまうのは憂鬱だが、致し方がない。

 正直悪魔祓いなんてしたことはない。おまけに敬虔なクリスチャンでもない。なら仏教徒かと言われるとそうでもない。そんなあたしが悪魔祓いなんて禁忌に触れてしまいそうな気もするが今回だけは見逃して欲しい。クラスメイトのためなんだ。あたしは深呼吸をして、目をかっと開く。

「悪霊退散!!!」

 叫んだ途端、消えかけの魔法陣が光出した。

「何?!」

 突然現れた自分達を囲う陣に悪魔達は一斉に怯む。

「おのれ!」

「その魔法陣から出ないで。痛い思いをしながら天に召されるのは嫌でしょう。」

 悪魔達は憎悪の籠った目と瘴気で威嚇していたが、自分達の状況を理解したのか大人しくなった。

「江利、上手くいったのか?」

 翔瑠君(超大型犬)が隣に来て擦り寄ってきた。このモフモフ感が止まらない。マスコットを販売すれば絶対に大金持ちになれるだろう。

「うん、良かったよ封印用の魔法陣が消えてなくて。おかげで正確な場所がすぐ分かった。」

 魔法陣がなかったら封印スポットを一から探さなくてはいけないところだった。

「ちょっと時間がかかるから暇だろうし、世間話でも。」

「誰が穢らわしい猿どもと!」

「まあまああんた達も猿だったんだから。ねぇ、あんた達何人?あたしは日本人、元神社の娘よ。」

「俺もだ。一般人だ。」

「誰も聞いておらぬし、貴様に至っては化け物ではないか!狼男の親戚か?」

「妖怪遣いの子孫らしい。」

「あんた達は?生前の名前、なんていうの?どこから来たの?」

「知らぬ。私は、誰なのか、どこから来たのか、何故粗末な土地にいるのかも、何故存在し続けているのかも何も知らない。知る術がない。」

 今気がついた。複数人の女の声が重なって聞こえていたのは3体の悪魔が同時に話していたからだ。

「記憶喪失ってやつ?変ねぇ、幽霊と同じ類なら強い思いがその地に残るから存在するはずなのに。」

「またあいつらか。怪異悪用推進協会。」

「怪異共依存協会じゃなかったかしら?」

「異常現象対策研究室ならば耳にしたことがある。私を探していた。対処しなければ大変なことになると。ついでにあの忌々しい狂人のことも探していた。」

「あいつらなにやってんの。」

「スカウトするためじゃないか?」

 それしか考えられないな。

「私は、ここにいてはならぬのだな。」

 怨霊の類はこの世に留まりすぎると普通の人間だけでなく、怨霊自体にも負担がかかる。互いのためにも成仏は早めにしたほうがいい。

「あんたにも毒だからね。さっきなんて鬼の形相だったわ。今はほら、綺麗な女の人よ。生憎鏡とかいう女子力倍増アイテムを持ち歩いてないから見せられないけど。」

 怨霊だったモノは、悪魔から人間の女の人に姿が変わっていた。手入れの施されたウェーブがかかったショートカットの金髪で、目鼻立ちはくっきりしている。映画祭で出てくる女優のようだ。

「世辞の上手い、気に喰わぬ女だ。」

「江利のお世辞がただで聞けるなんて名誉なことはない。良かったな、冥土の土産になって。」

 本当にお世辞でもなんでもないのに。

「……そうだな。終わりがこれほどまで穏やかなものになるとは思わなかった。貴様らには感謝したほうがいいのかもしれないな。」

 女の人は、静かに目を閉じる。体から光の粒が溢れていく。

「気を付けて。私とあの狂人の存在は何かに導かれここに存在した。そもそも私は本来生み出されるものだったのか。それすらも怪しい。あなた達は、自分の目で、真実を……」

 言い終わらないうちに女の人は夜空に消えていった。

「ちゃんと女の子を扱うみたいに、優しくしてやったわよ。」

 成仏させるのはあのマンションの一件以来だ。あっちで2人とも仲良くしてくれているといいけれど。

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