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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
4/66

始まりの始まり#4

「だから、なんでいるんだ。」

 さっさと片付けをして校舎の前で待っていたあたしは、ようやく出てきた鬼塚の前に立ちはだかる。

「あたし考えたんだけどね、奇襲される前に殴り込んだほうがいいと思うの。無視しても向こうから来るかもしれないじゃない。」

「俺が言いたいのは、なんで待ち伏せしていたんだ。」

「道案内。一度でも手を出したのだから、最後まで付き合うべきだわ。常識でしょう。」

「知るか。俺は帰る。」

「帰り道一緒じゃない。あたしの家の隣だったのね。」

「……なんで住所知ってんだ?」

「たまたま職員室に入ったら、全員の住所書いてあったの。あたし人の名前は覚えないのにそういうのは覚えれるのよね。なんだろ?」

「どうなっても知らないからな。」

 鬼塚はため息をつき、諦めたかのように道案内してくれた。

「ここだ。高校生の溜まり場になっている。」

 連れてこられたのは駅前のトンネルだ。トンネルの中は狭く、壁は一面に落書きされていてまた新しい落書きをする場所を探すのに一苦労という状態で治安の悪さを物語っている。高校生くらいの男女も集まっており、煙草を咥えている。あと3、4年したら嫌でも80年吸えるようになるというのにどうして待てないのだろう。

「あいつだ!」

 あたし達に気がついた男女グループの1人があたしに気がついて声を上げた。

「あれが3年の佐藤先輩。」

 鬼塚が指を指した先の人物に見覚えがあった。俺の女にしてやる的な上から目線の告白をしてきたので、まずはその小物みたいな態度をどうにかして、軍艦の一つや二つ木刀一本で沈めてから来いと言ったら怒鳴り散らして去っていった奴だ。

「あぁ、この間話しかけてきたじゃない。身長だけでなくて心も低いみたいね。大勢の中で見ると更にちっぽけに見えるわ。やっぱ……」

言葉を続ける前に鬼塚が手で制した。これ以上怒らせるなという顔だ。だけど手遅れだ。トンネルのせいであたしの声は贅沢にもエコー付きでこの場にいた全員の耳に届いた。

「このアマー!!」

 なんてテンプレの怒り方をしている。そんな苗字に反して甘くない佐藤を高校生のボスと思わしき男子が止める。

「約束通り来るたァお利口じゃないか。だが1人邪魔者がいるなぁ。」

 邪魔ものとは鬼塚のことだろう。ここまで連れてきてくれたし巻き込むのは忍びないと思ってこの辺でいいと耳打ちしようとしたら、なんと鬼塚はあたしを庇うかのように前に立っている。

「先輩、水沢が生意気なことを言ったかもしれないですけれど女子ですよ。ここは穏便にできませんか?」

 黒い噂とは想像できないくらい平和主義者なのだが。しかし、こんな賢明な提案も高校生達は笑い飛ばす。

「穏便にだってよぉ!ぼっちゃんは帰りな。」

「義務教育を棄権した奴らに穏便なんて言葉使っちゃだめよ。言葉の意味を分かるわけないじゃない。ああいうのは実力行使よ。」

 それでも鬼塚は微動だにしない。なんだか雰囲気がさっきと変わった気がする。何もしない鬼塚に痺れを切らしたのか、高校生の1人が近づく。

「まずはお前からだっ!」

「ちょっと!」

 鬼塚は殴られそうになっているのも気にも留めず、ただ真っ直ぐに高校生を凝視する。するとなんとトンネルの中にある電灯が殴りかかっていた高校生の頭上に鈍い音を立てて落ちた。

「え?」

 この場にいる全員が困惑する。ただ1人鬼塚を除いて。

「鬼塚、お前……!」

 鬼塚は俯いてため息をつく。悲しそうな顔をしていた。

「どういうことだよ!」

「こいつ、祟りだ!さっきだってきっとこいつが」

「なんでそんな奴連れてきたんだよ!」

「知るか!」

などと大声を荒らげながら高校生達は逃げ出そうとする。が、今度は街の灯りが全て消えた。さっきから30分おきに走っていた電車の音も聞こえなくなった。おまけに野良犬の鳴き声があちこちから聞こえた。高校生達は大慌てで携帯のライドで地面を照らし、悲鳴を上げながら退散していった。あの人たち噛まれなければいいけど。

「拍子抜けだったわね。」

「お前も分かっただろう。」

 鬼塚も携帯を取り出し、どこかに電話をかけた。通話を切ったのを見て口を開く。

「何が?」

「この人は救急車を呼んでおいた。死んではいない、たぶん。が、次はどうなるか分からない。」

 それだけ残して鬼塚はさっさと去ってしまった。さっきの鬼塚の表情を思い出すと、何故か心臓のあたりが傷んだ。

続きます

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