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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
38/75

File6 消える死体#5

「ビクともしない!」

 結束の軽くて細い体ではあたしを止めることは出来ない。あたしはそのままずるずると結束を引き摺る。こうしているうちにいずれ諦めるだろう。

「帰るわよ。今日はちょっと寄り道するだけ。」

「その寄り道がダメなんじゃないか!」

 すぐ音を上げると思っていたのになかなかしぶとい奴だ。すると背後から視線を感じた。嫌な予感。

 そうだった。朝の会で先生が全ての部活動は停止と確かに言っていた。ということは翔瑠君も帰りは一緒になるはずで……。

「ふーん、知らなかったよ。お前達が腕組むくらいに仲が良かったのは。」

 少し怒りが籠った声に体がびくりと震える。だから早く行こうと思ったのに。

「お、鬼塚君……。」

 分かりきったことをわざわざ言わないでくれ。また叱られているのは目に見えているので、あたしは振り向けずにいる。

「そ、そうだ!鬼塚君からも何か言ってよ!水沢さん、危ないことに首突っ込もうとしてるんだから!」

 結束は昨日のことも今日あたしが何をしようとしているのかも全て洗いざらい話した。火にガソリンだ。

「江利?」

 こういうときに優しい声を出さないでほしい。突然の豹変に結束は短い悲鳴を上げ、あたしの腕を離した。逃走するなら今がチャンスだが、後が怖いのであたしはその場で硬直するしかできない。

「昨日も言ったよな?好奇心で?」

「……行動しない。」

「危ないところには?」

「……行かない。」

「なにかあったら?」

「……すぐ連絡する。」

 一向に振り向かないあたしに痺れを切らしたのか、翔瑠君はあたしの目の前に来て、

「帰るぞ。」

と、あたしの手を握った。

「あたし、犯人分かったよ。このままじゃ荒崎も危ない。」

「えっ。」

 結束は驚きの声を上げる。翔瑠君も怪訝な顔をした。

「昨日の死体事件は荒崎が不登校になったのと何か関係があるのだと思う。」

「水沢さん、それってどういう?」

 あたしは翔瑠君を恐る恐る見上げる。上目遣いで瞳も少し潤ませてみる。

 翔瑠君はどうやらあたしのことが結構好きみたいなのでこうすればお願いを聞いてくれるだろう。ダメだ。全然怒っている。と、翔瑠君ははぁーとため息を吐いて、頭に手を当てる。

「お前、面白がってるだろ。」

 クラスメイトを心配する切なげな顔をしていたはずなのにバレてしまった。

「俺も行く。隠し事は今回限りだぞ。」

「うん!」

「鬼塚君も本気?!やめようよ!こういうのは警察に任せてほうが……」

「結束は知らないだろうが、こうなった江利を止めるのは俺でも不可能だ。」

「そんな自信満々に言わないでよ……。もう!僕も行く!」

「お前は来るな。」

「猟史君に関わることなんでしょ!僕も行く!」

 結束は弱っちそうに見えてなかなか頑固らしい。

 ということで3人で現場に向かうことになった。翔瑠君は結束とあたしの間に入って、内緒だなんて言っていたのに周囲に見せつけるように堂々と手を繋いできた。

「水沢さんと鬼塚君、付き合ってたんだね。」

「言っておくけど、1年前の夏休み明けは、江利が声をかけたのはお前と席がたまたま近かったからなだけだ。あと江利は曲がったことが嫌いだったからお前を先輩から助けてやったんだ。他意は全くない。勘違いするなよ。」

「そんなマウント取らないでよ……。僕だって他意なんてないから。でも意外だな。鬼塚君、小学校から無表情で無口で誰とも関わりたくないって感じだったのに、水沢さんの前ではああいう風に怒ったりするんだね。」

「あんたがモタモタしているせいだけどね。」

 翔瑠君に睨まれてひゅっと喉の奥で変な音が鳴った。

「ところで水沢さん、何処に向かっているの?」

「昨日の神社。」

「犯人は現場に戻ってくるって言いたいの?刑事ドラマの見すぎだよ。」

 本職になるとこうも浪漫がなくなるのかね。

「あんたここら辺の地図持ってない?」

「大洗の?待ってね、確か地理のプリントに……、あった。」

 結束は一枚の紙切れを鞄の中から取り出す。それは社会の時間に地元をもっと知ろうだとか先生が言い出して渡された茨城県全体の地図だ。

 あたしはそれを受け取り筆箱からシャーペンを取り出す。まずはこの事件の始まりである鹿島香取神社に丸を付ける。そしてその後事件現場となった鹿島神社、大洗磯前神社、稲荷神社、昨日の水神宮稲荷神社に丸を付ける。

「これが今までの犯行現場。結束、刑事の息子として何か思うことはない?」

「えー、なんだろう。父さんの話だと因果関係が分からないって。」

「十字架になるな。」

 横から見ていた翔瑠君が口を開く。

「さっすが翔瑠君!名探偵になれるんじゃないかな!ここをこうすると十字架になるの。」

 あたしは定規で丸を付けた箇所を線で結ぶ。不格好だが十字架となっている。

「たまたまなんじゃない?」

「そうかもしれないね。それか犯人が警察で遊んでいるのかもしれない。でもあたしにはそうは思えないのよ。

 犯人はこのルートでしかできなかったんだわ。本当は昨日にでも全てを終わらせようとしていたんでしょうけど邪魔が入った。だから急遽予定を変更してそいつは今日で終わらせる気ね。」

 邪魔をしたのはあたしだが。あのロウソクと魔法陣。間違いなく犯人は何かしらの儀式を行おうとしていたはずだ。

「なんで今日で終わりなの?」

「6体揃ったからでしょうね。」

「6体……。そんなに被害者がいるの?!」

「まぁ被害者というか加害者というか。現場に向かわないことにはなんとも言えないわね。」

 だからこのまま結束に付いて来られては困ったことになる。そもそも翔瑠君さえ来なければ、学校から出た瞬間にダッシュで結束を撒こうとしたつもりだったのに。

 しかし翔瑠君のしっかりと繋いだ手がそれを許してくれない。結束を置いていく方法も見つからず、神社に刻一刻と近づいていく。

「あ……」

 全身の鳥肌が立った。この反応は良くないモノを察知したときの感覚に似ている。目的の神社までまだ先だというのにこの反応はおかしい。封印の場所を急遽変更したのだろうか。ただ早く行かなくては手遅れになってしまう。

「翔瑠君、ごめん!これっきりだから!一生のお願い!」

 翔瑠君はあたしよりも握力があるが、不意に手を振り払ったことで、驚き手を離してしまった。あたしはすかさずダッシュで妖力が濃くなっている場所に向かった。

「江利!!!」

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