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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
36/75

File6 消える死体#3

「水沢さん、もっと強引に行くのかと思った。」

「あんなお母さんの顔みたらそんなこと出来るわけないでしょ。ったく、人をなんだと思ってんのよ。あんたこそ、幼なじみの割には他に言うことなかったわけ?」

「幼なじみだからこそ言えないこともあるんだよ。水沢さんには分からないと思うけどねー。」

「むっ。あたしだって分かるわよ。アレだろ、言わぬが花ってやつ。あんたの家ここなんでしょ。明日も行くからね。」

「えー、明日もー?何回来ても一緒だよ。あ、水沢さん、ちょっと待ってて。」

 そういうと結束は一度家に入りすぐに出てきた。手には小さな鍵を持っている。

「送っていくよ。」

「余計なお世話。一人で帰る。」

「通り魔事件が近くで起こったんだ。」

 結束は自転車を押してあたしの隣を歩く。あたし達は学校の方角へと足を進める。

「通り魔?」

「ニュースで見てない?去年の今ぐらいから少し騒がれててもう6件目かな。ここから遠いところだったから近所の人たちも警戒してなかったんだけれど、近頃ここら辺になってきて小学校も集団下校しているんだ。」

「去年から?ニュースになってなくない?」

 去年の今頃は切り裂き事件の話題でローカルワイドショーは持ち切りだった。

「だって加害者も被害者も誰か分かってないんだから。」

「通り魔なのに被害者いないの?」

「現場には血痕しか残ってなかったんだって。通報した人も悲鳴が聞こえてすぐ現場に行ったらしいんだけれど、加害者は勿論、被害者も消えてたって。」

「へぇー、じゃあその犯人は被害者を殺してすぐその場から誰にも見つからずに被害者を運んだってことになるの?」

「そんなこと有り得るのかな?」

 まぁ無理だろうな。

「イタズラとか?」

「血は本物だったらしいよ。それも事件の翌日には跡形も無くなってたんだって。」

「犯人が隠滅したんじゃないの?」

「それは無理だよ。警察はずっと現場で捜査しているんだから一般人は近づけない。目を離した瞬間に消えていたんだって。」

 ますます人間技でない気がしてきた。

「てかなんであんたそんなに詳しいのよ。」

「父さんが警察官だから。」

 この正義感は父親に似たのだな。

「そうやって首を突っ込むと、変なことに巻き込まれるわよ。あんた弱っちいんだから。」

「そんなはっきり言わないでよ……。水沢さん。」

 結束が急に足を止める。あたしもつられて足を止めた。

「もう去年のことで、今更だけど、ありがとう。」

「急に何?」

「ほら、僕よく先輩に絡まれていたでしょう。そのとき水沢さん庇ってくれてたから。あの時お礼を言うべきだったのに、怖くて言えなかった。」

「別に。あいつらにイラついてただけ。」

「水沢さんも照れることあるんだね。」

「うっさい。」

 ふいっと顔を背けると、何がおかしいのか結束は笑い始める。

「だいたいあんた……」

「きゃーー!!!」

 女の悲鳴が響き渡った。

「まさか、ちょっと水沢さん!!」

 引き止める結束を置いてあたしは悲鳴がしたほうに走り出す。この通り魔事件は恐らく怪奇のせいだ。ここ1年研究室に関わってから人間の仕業か幽霊の仕業かはだいたい分かるようになってきた。

 悲鳴が聞こえてから瞬く間に人間の死体を運び出すなんてまず不可能。悲鳴と同時に早食いお食事タイムしているか、死体とともに瞬間移動してまったりお食事タイムしているかのどちらかだ。あたしは全速力で現場に向かう。どんどん妖力が濃くなってきているので、道はこっちであっている。

 辿り着いたのは駅近くにただずむ水神宮稲荷神社だった。ここが一番妖力が濃くなっている。灯篭に火が灯っているので辛うじて周辺の様子が分かる。

 まずあたしの目に入ったのは真っ赤な血溜まりだった。血と鉄が混じった臭いに頭がクラクラしてくる。死体は既にない。更に不審なことにその血溜まりを囲うように蝋燭が設置されており、地面には何やら魔法陣が描かれていた。

 怪しげな儀式の途中だったのをあたしが来たことで慌てて逃走を図ったのだろう。綺麗に蝋燭が並べられているのに、1つだけ倒れていた。たぶんまだ近くにいる。

「逃がさないわ。」

 あたしは目を瞑って精神を研ぎ澄ます。研究室から教えてもらった。こうすると妖力の感知がしやすくなるらしい。初めは全然感知できなかったが、慣れていくうちにすんなり出来るようになった。

 妖力は深い霧のようなものだ。迷ってしまったら2度と掴めない。だから慌てずに、呼吸を整えて妖力を辿っていく。そしてあるときハッキリとした妖力の元が見えるようになる。

「……見つけた。」

 あたしは鞄から筆箱を取り出し、暗闇に向かって素晴らしいまでのフォームでぶん投げた。要らないペンやコンパスも入っているから重量に問題は無い。

「っだ!!」

 男の鈍い悲鳴が聞こえた。

「犯人はあんたね!人間を食べ放題のごとく食べやがって!ただで成仏できると、人、間……?」

 予想外の犯人にあたしはぴたりと固まってしまう。犯人の姿は、黒いマントにフードを被り、死神の必須アイテムである巨大な鎌を持っていた。どう見ても死神の類だが、気配も雰囲気も人間だ。では消えた死体の正体はなんなのだ。死神のような男はそのまま逃げようとする。

「ま、待ちなさい!」

 少しだけフードの中が見えた。思ったよりも幼い顔にはべったりと血が付いている。その顔に見覚えがあった。

「誰かと思えばお姫様か。ちっ、邪魔が入った。」

 それだけ言い残して死神は暗闇の中に消えていった。

「み、水沢さん!!これ!警察呼ばなきゃ!」

 結束が遅れて殺人現場に来た。手が震えているのに、警察をすぐ呼ぶところは流石警察官の息子。間もなくパトカーが2台ほど来て、あたし達は事情聴取を受けた。

「じゃあ今日は遅いから。おうちの人は?」

未成年の一人暮らしはこういうときに困るN回目。

「姉がいます。」

 翔瑠君の名前を出すわけにはいかず、仕方なくミケを姉ということにする。殺人が起きたのに一人で帰すわけにはいかないということで、パトカーで送って行ってもらった。

 家の目の前にパトカーが来たことに驚いたのか猫姿のミケだけでなく翔瑠君まで出て来て、2人とも目を丸くしている。警察官は降りて、翔瑠君に説明する。どうやら兄と勘違いしているらしい。背が低くて悪かったな。

「じゃあここで。また何かありましたら連絡しますのでお願いします。」

「結束は大丈夫なんですか?」

「結束さんとこの息子さん?あの子も君の後で送り届けるから。」

 そう言って警察官はパトカーに乗ってサイレンを鳴らしながら行ってしまった。

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