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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
33/75

File6 消える死体 プロローグ

 中学2年になった江利と翔瑠。新たな教室、新たな先生。不穏な気配を感じつつも新学期がスタートした。

 そんな中、今年からは青少年の健やかな学生生活のための政策により、部活動への入部が必須となったことを先生に告げられる。どこにも所属していない江利は、どの部へ入部するか悩むが……。

 新キャラ続々登場の中学校二年生編スタート!

 新学期。桜舞い散る景色に、あたしははぁ〜とため息が出る。

「なんでそんな休み明け毎回憂鬱そうなんだよ。」

「翔瑠君はなんでそんな平気なのさ。」

「7年学校に通っていれば慣れる。」

「慣れないよ。はぁ〜、サボりたい。」

「内申に響くぞ。」

「それが嫌だから困ってるんだよね。春休みも1ヶ月にすべきだわ。」

「そしたら江利はずっとゲームしている。だからあれほど早く寝ろと。おかげでこっちも寝不足だ。」

 翔瑠君は一緒に暮らすようになってからちょっと小言が多くなった。普通に徹夜明けで学校に行くこともあったが、阻止されるようになって夜はちゃんと寝るようになったものだから退屈な授業が更に退屈になった。ミケはいいことだなんて言っているけれど。

「翔瑠君、最近ちょっと細かい。宿題も全然見せてくれないし。」

「なっ!お前がちゃんとしてないからだろう!寝不足は体に悪いんだ!宿題に関しては自分でするものだ!まったく、今までどうやって1人と1匹でで暮らししてたんだよ。」

 どうやってと言われても、思い返せば1人だからって悠々自適に暮らしていたな。

 あたしがなんで翔瑠君と暮らすようになったのかは、2ヶ月前に遡る。


『翔瑠君、引っ越すの?!』

 突然研究室のエージェントと姐さんが翔瑠君を連れて家にやって来たのだ。そしてとんでもないことを言い出した。

『お家の方の理解が得られず……、我々の力不足で申し訳ございません。』

 どうやら翔瑠君の両親に能力のことを説明したらしい。普通の人間だったら到底受け入れられるものではないが、実の子ともあれば受け入れるものではなかろうか。

『別にいい。あいつらは元々ああいう人だ。俺のことなんかこれぽっちも気に留めていない。』

 いつも平坦な翔瑠君は珍しくカンカンに怒っている。

『2度とあんな家帰るもんか。』

 ちょっと前まで自分の気持ちに蓋をしていて感情が読み取れなかったのに、化け犬になれるようになってからと言うものの、翔瑠君は少しずつ感情を表すようになってきている。

『と、彼もこんな感じなのでひとまず霞ヶ関の本部で保護することとします。』

『霞ヶ関ってどこだっけ?』

 翔瑠君の表情が少し曇る。

『……東京。』

 離れ離れになってしまうのか。

『……そっか。』

『電車で1時間くらいだ。すぐ会える。』

『今みたいにいつでもは会えないんだね。』

『そう、なるな。』

 遠距離だけはなんとしても阻止したい。いい方法がないかと頭をフル回転させる。

『じゃあさ、うちに来なよ。』

 研究室の2人は困惑の表情を浮かべる。翔瑠君はというと少し驚いたような顔だ。

『流石に不味くないか?』

『なんで?』

『江利さんの親御もいませんし……』

『何かあったら……』

『お母さんいつもいないもの。この家広いし。翔瑠君の家は隣だけれど、時間を気をつければばったり会うこともないんじゃない?』

 3人はそれでもなお首を縦に振らない。

『江利さんはただ翔瑠さんと離れたくないだけですよね?』

『そうよ。』

 色恋とはそういうものじゃないのか。

『そんなこと言ってもですね、お2人とも年頃なんですよ。』

『人類皆年頃じゃん。』

『ですから……』

『何が問題なのよ。』

 この2人は何に文句があるというのだろうか。

『いや、それは、先輩!』

『僕に振らないでくださいよ!それは、あれやこれやですよ!』

『あんた達じゃ話にならないわ。翔瑠君はどうなの?』

『嫌ではないけれど……』

『じゃあいいじゃん。』

『確かに。』

『納得しないでくださいよ!』

 話し合いは並行線を辿る。するとミケがあたしの足に飛び乗ってテーブルの上に立つ。

『この子ははっきり言わないと諦めないからね。こうなると鬼塚が振らない限り面倒よ。』

 人を聞き分けの悪い人みたいに。

『じゃあ振ってくださいよ。』

『江利はいいの?』

『嫌ならいいしっ。』

 こんなにいいと言っているのに首を縦に振ってくれない翔瑠君にあたしも拗ねてしまう。ちょっと困った顔をしながら、

『江利がいいなら……。』

 と歯切れが悪いが承諾した。

『分かってます?!貴方はいいかもしれませんが、江利さんこれでもまだ13なんですからね!』

『保護者の承諾が降りないんだが。』

『大丈夫よ。こいつにそんな度胸ないだろうし、江利になんかしたらあたしが呪い殺す。』

『だって。なんかあったらミケがどうにかするってことで。』

 何のことだかさっぱり分からないが。

『どうするんですか、あの人になんと言えば。』

『直接会いに行ってくださいとでも伝えておきましょう。育児放棄した罰ですよ。』

 エージェントと姐さんは怪しげな会話をしていたが、なんやかんやで翔瑠君はあたしの家に居候することになった。


 回想をしている間に学校に着いてしまった。更地になっていないかなと願っていたが、比較的新しく出来た校舎は今日も元気にそびえ立っている。いつもと様子が違うのは昇降口前に人だかりができていることだ。あたしの顔色はますます悪くなる。

「朝から更に疲れるんだけれど。なんでこんなに集まっているわけ?」

「クラス替えだ。」

「そっか2年生だと変わっちゃうのか。翔瑠君と一緒だといいなぁ。」

 昇降口の扉に張り出されているらしいがこの分だと当分確認できそうにない。しかもあたしは148cmという男子だらけの学校では校内ダントツトップの低身長だ。

「ちょっと見てくるから待ってて。」

 そういうとあたしとは正反対に既に170cmあるという背の高い翔瑠君は、すいすいと人混みを分けて行く。しばらく待っているとほんの少し嬉しそうな顔をしながら戻ってきた。

「5組、一緒だ。」

「これで少しは学校に行く気になれるね。」

「少し、か……。」

 2人肩を並べて教室に向かう。始業まで20分前だが、半数以上の生徒が揃っている。ちらほら去年と同じクラスメイトもいた。

 翔瑠君はあたしの席を指さし、何事も無かったかのように自分の席に座ってしまった。翔瑠君は何故か学校ではあたしに話しかけたがらない。あたしも丁度読みたかった本を持ってきたので、チャイムがなるまで自分の世界に入ることにする。

「はい、皆さん、新学期で逸る気持ちも分かりますが、席に着いてください。」

 凄く厨二病心を擽られる声だ。新任の先生だろうか。教室に入ってきたのは、若い男の教師だった。どこか幼さの残る顔でスーツを着ているのはなんとなくちぐはぐな感じがした。先生は黒板に土御門時弥と書く。

「今日からこの学校に配属されることになりました、土御門時弥です。担当は国語です。初めての赴任で緊張していますが、皆さん、一年間よろしくお願いします!」

 よく朝からこんな爽やかになれるものだ。朝会はいつもより30分延長され、先生の自己紹介やら朝の伝達事項やらが始まった。あたしは興味が無いので本を読み続けることにする。

「水沢さん、水沢さん!」

 突然名前を呼ばれた。人がせっかく世界観に浸っていたというのになんだ。

「自己紹介、あなたの番ですよ。」

 浸りすぎてそんなことが始まったのも気が付かなかった。翔瑠君、はもう終わっているのか。惜しいことをしたなと反省しつつ、渋々席を立つ。

「元1年5組、水沢江利。怪奇現象に遭遇したらあたしを呼びなさい。」

 自己紹介を終えすぐさまカタンと椅子に座ると、先生は面食らったかのように目をぱちくりしている。あんたが自己紹介しろって言ったんじゃないか。

 あたしは構わずに本を開いて続きを読む。あたしの番が終わって数名が何か話していたがあたしの耳には全く入らなかった。

 長い朝会を終えると、始業式が始まるとのことで面倒なことに、全校生徒は体育館に集められた。ついでに新しく着任した先生の紹介もするという。

 この学校は荒れているため、島流しにあった先生は辞めるか1年くらいで異動届を提出するという。1年の頃も20人くらい先生がいなくなっていた。その分を補うべく、今回も20人くらい入ってきたらしい。

 じゃあ今日の入りたての土御門先生もその島流しにあってしまったというわけか。くわばらくわばら。

「えぇー、新学期が始まり……」

 何故どこの校長も話が長いのかね。流石に全校集会には本を持っていくわけにはいかないので、10分少々無駄に長く、今後の人生の足しにもならなそうな話しを聞く羽目になった。

「では、今日から新たに我が校の仲間となりました先生方の紹介です。」

 ようやく本題に入った。周りの馬鹿男子は綺麗な先生いるかななんてはしゃいでいる。綺麗な先生がこんな魔窟に来るわけないだろうが。

 と、思ったが、いた。金髪で、肌の白い、明らかに日本人ではない女の先生。先生は辞めて、女優にでもなったほうがいい。女のあたしでも見惚れてしまうほどに綺麗な先生だった。きっと先生が泥棒の一味だったらあたしは喜んで宝石を渡してしまうね。宝石なんて持ってないけれど。

 そして容姿だけではなく、何かがあたしを惹きつける。一瞬目が合った気がしたが、瞬きした頃には美人な先生は真正面を見ていた。シャーロット先生というらしい。他の先生も自己紹介をしていたが、あたしはシャーロット先生に夢中で全く覚えることが出来なかった。

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