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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
31/72

File5 水沢百合の回顧録#6

「んぅ。」

 俺はどうやらいつの間にか眠っていたらしい。辿萊さんもノートを開いてペンを持ったまま寝ている。他4名もすやすや寝息を立てていた。

 時計を見るとまだ起きるには早く、外もまだまだ暗い。再び眠ろうと目を瞑ってみるが目がすっかり冴えてしまった。俺はなんとなく外の風に当たりたくて、パジャマ姿のままコートを羽織り、冬靴を履いて外に出る。

 扉を開けると一気に冷気が吹き込んできて寒さが身に染みる。俺は歩いて5分くらいの場所にある公園に向かう。この公園はまだ母さんが俺に優しかった頃に何度も連れてきてくれた。

 家に居ずらくなってからもたまにこの公園で時間を潰していた。滑り台も、ブランコも、シーソーも錆び付いてきてはいるが、幼い頃から何一つ変わらない。霜で濡れたブランコを拭いて腰掛ける。少しだけゆらゆらとする。幼い頃は何故これが楽しいと思っていたのだろうか。

「翔瑠……、君。」

 突然声を掛けられて振り返る。と、江利がパジャマ姿でコートも羽織らずに立っていた。

「なんでここに?」

「こっちのセリフ。こんな夜明け前に一人で外に出て。」

 くしゅんとくしゃみをした。

「寒いんだからコートくらい羽織ってこい!」

「ふん、前にいた村はこんなもんではないわ。へくしゅん!」

 言わんこっちゃない。俺は自分のコートを江利に羽織らせる。

「ふふ、あったかい。」

 この感覚は不味い。超大型犬に成ったときの感覚に襲われる。次の瞬間にでも化けてしまうところまで来た時、体の主導権が奪われた。

「お久しぶりですね、姫様。」

 俺の意に反して口が勝手に動く。

「勝手に体奪わない。翔瑠、君がビックリするでしょう。そしてあたしはあんたの姫さんじゃない。水沢江利っていう立派な名前があるんだから。」

 江利は眉を顰める。意識ははっきりしているのに体が言うことを聞かない。

「そうでしたね。江利さん。相変わらず水沢家の人々は面白い方々です。」

「面白いで済ませられるもんじゃないけどね。」

「怪異の件、私のせいで、巻き込んでしまい申し訳ございませんでした。」

「人の目に付かないところで起こってるんだから防ぎようがないわよ。いくら妖怪どもの長だったとは言え、旦那さんの責任じゃないでしょ。」

 体を乗っ取っているのは俺の先祖、妖怪使いらしい。

「本来、鎌鼬も廃墟の亡霊もそこまで殺気立つものでもなかったのです。それが、この少年の妖力に触発され凶暴化していました。」

「鬼塚さんちのことがよく分からないのだけれど、旦那さん再婚したの?」

「そんなわけないじゃないですか!私は姫様以外考えられません!……と、言いたいところなのですが。」

「何?後妻業?ことが事ならここで成仏してもらうわ。」

 江利はすぐさま戦闘態勢に入る。

「違います!!姫様に誓って!私が死んだ後、この体は邪神の手に落ち、妖力の強い女子(おなご)と子どもを成していたみたいです。」

「何その後味の悪い話。」

「思い返すだけでも腸が煮えくり返ります。その血も20代目まで来てしまいました。2代目以降妖として覚醒しないよう手は施したのですが、まさかこの少年に宿るとは予想だにしていませんでした。」

「翔瑠君はなんなの?」

「江利さんと同様血筋が色濃く出てしまったといったところでしょうか。私の代でもう既に色々な妖怪の血が混ざりあっていましたし。彼の場合犬神が強く出たのですね。私はもっと格好良く化けられますからね!姫様!」

「張り合うな。しかもあたしは猫派。」

 そうだったのか。

「そうですか……。」

「で、なんでまた翔瑠君だけが血が濃くなったのよ。」

「時機が重なったんでしょうね。」

 んな適当な。

「んな投げやりな。」

「江利さんもそうですし。」

「あたし?」

「江利さんも容姿、妖力全てが姫様と変わりありませんから。生命の巡回には偶然というものがいくつもあるんですよ。」

「適当ねぇ。」

「死んでから500年ですからね。」

 人間はそのくらい存在し続けると開き直れるようになるのだろうか。

「旦那さんは初代と一緒に死んだの?」

「……そう、ですね。私が全て悪いのです。」

「旦那さんのせいだってのは分かっているわよ。あたしが知りたいのはなんでそんなことになったのかってこと。」

 江利はあっけらかんと言った。確かに今までの発言を振り返ると、先祖が悪くないとは一言も言っていなかった。

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