表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
30/75

File5 水沢百合の回顧録#5

「ほっといて鍋準備しよう。食材は切ってあるから、その棚から鍋出して。」

 テキパキと慣れた手付きで江利は夕飯の支度を始める。気がつけば今年も残すところ4時間しかない。テレビを付けると赤組のアイドルが広いステージの上で歌って踊っている。

 このステージならば俺は多少駆け回れるななどと馬鹿なことを考え、江利の手伝いをする。鍋の具材に火が通ったことを確認すると、江利はテーブルの真ん中の鍋敷きの上に鍋を置く。出汁のいい香りが部屋に広がる。従姉兄達はそれにはっとすると片付けを始め、取り皿と箸を用意する。各自食卓に着く。

「じゃあ、いただきまーす!」

 元気なのは江利くらいなものだ。

「嫌いなものある?」

「ない。」

 江利は俺の取り皿を取ると具材をよそってくれた。自分の分も取り皿いっぱいによそう。

「江利ちゃん。」

「なーに?」

 江利は何を言われるか知っていてわざと聞き返す。その証拠に悪戯が成功した子どものようににこにこしている。

「帰ったらあたし、もう少し初代達のことを調べてみようと思う。あたし達は一面しか知らなかったのかもしれない。」

「そうね。他にも宝箱から色々出てきたって言ってたし。今度は自分の目で判断しようと思う。信じてあげられなくて、ごめんね。そして妖怪遣いの末裔、いいえ、鬼塚翔瑠君。最初は乱暴にしてごめん。江利ちゃんを、よろしくね。」

 改めて言われて色々返そうと思ったが、俺は『はい』としか口に出来なかった。

「辿萊兄さんはどうなの?」

 照舞萊さんはあえて辿萊さんに話を振る。

「未だに反対だ。僕達が導き出した答えが間違いだったとしても危険なものは危険だ。だから、定期的に僕が見に来る。職場も近いしな。それでも良ければ認める。」

「俺も辿萊の意見に賛成だ。何か異常があったら早く言え。いいな。」

 まさかここに来て全員から承諾を貰えるとは思わなかった。

「じゃあ賛成多数ということで、鬼塚氏から一言!」

 翠麗さんはまだ司会者をやっていたらしい。

「よろしくお願いします。」

 ぺこりと頭を下げる。

「あーあ、駆け落ちが面白かったのに。」

「まだ言うか!」

 10人のいとこ達の声が揃った。


 あの後、あんなに大盛りだった鍋はあっという間に空になり、片付けを終え、歌謡祭の行く末を見届ける。

 まぁ例年と同じような結果になり、時刻は11時30分。アイドルのカウントダウン番組にチャンネルを変え、残り10秒のところで江利と翠麗さんはカウントダウンをする。

 俺も誘われたが、いい歳して恥ずかしいのでお断りした。0とカウントした瞬間に江利と翠麗さんはその場でジャンプした。幼いと言うべきか無邪気と言うべきか、まぁそんなところも好きなのは事実だ。そして口々に恒例の挨拶をした後に、それぞれの部屋で寝る準備をする。

 2階の江利の部屋には江利も月萊さんと叶夢萊さん、江利のお母さんの部屋に継萊さんと照舞萊さんと苑麗さんが、残り男6人はリビングに押し込められた。2階では女子会を開いているのか笑い声が聞こえる。

「こえーよな、姉ちゃん達。俺らの家系は女が強えんだ。」

 知萊さんは大袈裟に肩をすくめる。

「父さんなんか空気だよな。禅麗んちもそうだろ?」

「朝はすぐ起きないと並十字絞される。翠麗も一昨日されていた。」

「あれ一瞬花畑見えるんだよなぁ。」

 翠麗さんはそのときを思い出しているのか遠い目をする。江利もいつかそんな感じになるのだろうか。片鱗は既に見え始めている。

「江利ちゃんは母や姉達とは違う。特に姉2人。あれは反面教師だ。教育に悪い。」

「兄貴は1番の被害者だから。お前は?」

と都万萊さん。

「俺の家は、6個上の兄と10個下の弟がいます。」

「三兄弟か。そっちは男が強いのか?」

 父さんは仕事で滅多に早く帰ってこないし、野球が好きらしいが、チャンネル権は母さんにあった記憶がある。

「普通の家だと思いますよ。兄はよく変わった人に引っかかるみたいですが。」

 帰りに兄と彼女がいるところを何度か見かけたが、相手は毎回変人と噂される人だった。

「あー、血筋だな。」

「血筋だ。」

「間違いないね。」

 含みのある言い方が気になる。

「そういえば其方、僕が考案した江利ちゃんTシャツに文句があると。」

「文句ではないですけれど、あの『ビックバンに1人の美少女』という文言、」

「兄貴、あれはやり過ぎだ。流石に引くわ。」

「過小評価過ぎると思います。並行世界というものがこの世に仮に存在した場合、宇宙の誕生は無数に起こっていて、その中にも江利と同等の少女がいるということになります。ですが、江利は外面だけでなく、内面も現人神のよう。そのような人物が並行世界にいるとは思えない。ので、ありとあらゆる次元を超越した美少女、『十次元を超越した美少女』にすべきだと思います。」

 俺は凄く大真面目に話しているのに、知萊さんと翠麗さんは大笑いし、都万萊さんと禅麗さんは引き攣っている。

「あっはは!江利ちゃんもやるなぁ!」

「おかしいだろこいつら。」

「素晴らしい……!是非とも検討しよう!」

「よろしくお願いします。」

 辿萊さんは持っていた手帳にメモ書きする。チラリと見ると服の製図が書かれていた。

「それは?」

「次にイタチに造らせる江利ちゃんの衣装だ。まだいっぱいある。」

「見てもいいですか?」

「是非とも其方の意見を聞かせて欲しい。」

 その晩、俺と辿萊さんは時間を忘れ、江利の新作衣装の会議をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ