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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
3/63

始まりの始まり#3

「えぇ……」

 この1ヶ月冷血女子でイメージを固めていたあたしらしからぬ困惑の声が出てしまった。げた箱の中にはビリビリに引き裂かれたあたしの中ズックと赤字で罵詈雑言が書かれていた。これでは中ズックは使い物にならない。

 今日は早く目が覚めて、いつもより早く登校したと思ったらこれだ。普段と違うことはするものではない。

 こんなときは職員室に助けを求めればいいのだろうけど、掃除も行き届いているのかも分からない廊下を靴下だけで歩き回りたくはない。荒れ果てている学校だ。掃除もまともにされていないのは間違いない。

 あたしだって女子だ。汚い廊下を靴下でうろうろしたくない。靴下だって新品だし。だからといって代々伝わる摩訶不思議な力をこんなことで使うわけにもいかない。

 どうしたものかと1人考えていると、隣に昨日の男子生徒がいた。あたしの下駄箱をじっと見て、

「こんなの日常茶飯事だ。」

と淡々と言った。

「そんなにここ治安悪いの?教師は何をやっているわけ?」

「大人もまともじゃない。」

 確かに。定員埋まっているからって1人の女子生徒を魔窟に送り込む奴らに期待をしてはいけない。やむを得ん、先生が通るまで寂しくここにいるか。すると男子生徒は不思議そうにこちらを見つめる。

「職員室に行けばいいじゃないか。」

「裸足で歩けって?嫌よ。」

「そうか。」

と言って自分には関係ないと教室に行ってしまうかと思いきや、突然あたしの背中と足を持ち上げた。所謂お姫様抱っこというものを人生で初めてされている。

「はぁぁ?!急に何?まさか校舎の3階から突き落とす気!?」

「しょうがないから運んで行ってやる。」

「誰も頼んでないわよ!」

 ジタバタと腕を使って暴れてみたものの、男子生徒は体制を崩すことなく悠然と歩き始める。

「暴れると落ちるぞ。」

 抵抗は無駄だと悟り、あたしは黙って運んで行ってもらう。歩かなくて済むから楽ではあるが、居心地は悪い。それにあたしだって女子だ(2回目)。口には絶対しないけれど、重くないかどうか心配である。身長のわりに重いなどと陰口を叩かれていたら、逆にあたしがうっかりこいつを3階から突き落としかねない。だけどなんだか安心するのは何故だろう。恐る恐る表情を見ようとしたところでピタリと足を止めた。職員室に着いてしまった。

「鬼塚君!またあなたは!」

 女教師が男子生徒を見るなり責め立てようとした。保健室の先生だったはずだ。そしてこいつは鬼塚と言うらしい。鬼塚は先生に構わず職員室に置いてあったパイプ椅子に座らせてくれた。荒んだ学校でもこんなに良い奴がいたのだな。世の中捨てたものではないと大人しくVIP待遇を受ける。

「先生、中ズック破かれてました。」

「中ズック?」

「中ズックです。」

「中ズック……。どこかの方言かしら?」

 怒ろうとしていた先生がキョトンとする。日本語で話しているのになんで通じないんだ。

「内履きのことか?」

 鬼塚が口を開いた。

「うん。中ズック。」

 慣れ親しんだ言葉が通じないことに軽くショックを受けながらも、あたしが事の経緯を説明すると教師は鬼塚に興味をなくし、事情聴取が始まった。鬼塚は黙って教室に戻って行ってしまった。

「水沢さん、いくら他の中学校が満員だからってこんなところに来るなんて運がないわね。」

 粗方聴き終わった先生は同情したように言う。先生なのにそんなぶっちゃけてしまっていいのだろうか。

「全くです。」

「さっきの子、鬼塚翔瑠君とは仲良くなったの?」

「今まで一言しか話したことないですけど。」

「珍しいこともあるのね。あの子、色んな噂があるから。根はいい子なんだろうけど。」

 そんな風には見えなかったけどな。先生は取り敢えず応急処置としてスリッパを用意してくれた。あたしはお礼を言って、教室に入っていった。下駄箱も綺麗にしておいてくれるらしい。先生の様子を見るに鬼塚の言っていた通りどうやら日常茶飯事なことのようだ。


「果たし状も日常茶飯事なの?」

 下駄箱の事件の翌日、今度は果たし状の汚い字で殴り書きされた封筒を鬼塚の前に差し出す。

「は?」

 鬼塚は間抜けな声を出した。というかなんで俺に声をかけたという目だ。クラスメイトも何故かこちらを見る。

「今日の放課後に、駅前の……、トンネル?だって。読みにくいわねこれ。字も習ってこなかったのかしら?」

「送り主は?」

「書いてないわ。礼儀も知らないみたい。」

 あたしは封筒の中に入っていた紙を目の前で広げる。

「行ったほうがいいの?」

「放っておけ。いつものだ。変に首を突っ込むと病院送りにされる。」

「無視して犯罪にならない?!決闘拒絶罪みたいな!」

「ならない!」

 安心したあたしはそのまま自分の席に戻った。他のクラスメイト達があたしと鬼塚を不思議そうな顔で交互に見比べる。あたしはそれを無視してこっそり持ってきたゲームでもしようかと鞄を広げようとすると後ろから肩を叩かれた。

「よくあんな不気味なのに話しかけられるよな。」

「誰が?」

「鬼塚。編入組は知らないのか。色んな話を聞くぜ。あいつに喧嘩を売ったやつがいて、あいつは1歩も動いてないのに大怪我をおったって。他にもあいつに話しかけたやつ全員不運に見舞われるとか。」

「祟りなら元々神社の娘だから間に合っているわ。」

 後ろの生徒はなーんだとつまらなさそうに座った。

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