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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
28/75

File5 水沢百合の回顧録#3

「進行役は19代目三姉妹の長女のとこの次女、月萊が務めさせていただきます。で、書記は辿萊ね。まずは自己紹介から。」

「月萊の双子の姉の継萊(つぐり)だ。今日限りだろうがよろしく。」

「3番目、長男、辿萊(てんり)。」

「4番目の照舞萊(てまり)だよ。今日は上がごめんねー。」

「5番目の知萊(ともり)。お前も厄日だなぁ。」

「さっきも言ったけれど、6番目の叶夢萊。」

「7番目の都万萊(とまり)だ。」

「以上が長女の家。で、次が」

「次女の家だ。俺が長男で禅麗(せんり)。」

「長女の苑麗(そのり)です。」

「末っ子の翠麗(すいり)だ!」

 ちょっと多すぎて覚えきれない。唯一覚えたのは全員最後に「り」が付いていることくらいだ。

「隣に住んでいる鬼塚翔瑠です。」

 微かに超大型犬になるのにと聞こえたのは気のせいだろうか。

「集まってもらったのは他でもないわ。この2人の交際を認めるかどうかを協議するためよ。この鬼塚翔瑠は500年も続く因縁の相手、妖怪使いの末裔よ。

 江利ちゃんはどういうわけか恋しちゃったみたいだけど、初代のこともありここは慎重になるべきだと思う。そこで皆の意見を聞きたいわ。じゃあ継萊から。」

「あたしか。」

 継萊さんは興味無さそうに頬をつきながら気だるそうに答える。月萊さんとは双子なだけあって瓜二つの顔をしている。

「あたしは反対だ。辿萊から聞いたが、お前、公安の手伝いをしていてそれで江利ちゃんに惚れたんだろう。やめておけ。血筋以前に異常な関係に基づく男女の関係は絶対に上手くいかない、と洋画で見た。」

 書記係を任命されていた辿萊さんはノートに正の字で反対一と書く。

「でもあの映画最後に結局くっついたじゃん。」

「二作目で別れたんだよ。」

 むむむっと江利は黙り込む。洋画の基準で決めないでほしい。

「次は私。前も言ったけど反対。妖怪使いの末裔なんて危険な人物江利ちゃんと一緒に居させるわけにはいかないわ。」

 月萊さんは1週間前の意見を変えない。2とカウントされる。そしてすぐに辿萊さんは1付け加えた。

「僕も反対だ。」

 今度は3番目の辿萊さん。江利にはかなり甘いということを知っていたので反対されるのは予想していた。

「月萊と同様江利ちゃんを危険な目に遭わせるわけにはいかない。研究室から少し聞いたが、其方、一度能力を暴走させたのだろう。今はコントロール出来ているのかもしれないが、またいつ暴走するか分からない。

 そして、其方が江利ちゃんと共にいることによって、要注意団体なるものが接触を試みる恐れがある。僕は江利ちゃんの身の安全のため、其方と研究室との縁を即切る。」

 賛成反対以前に宣言されてしまった。しかし、何故か辿萊さんは顔を上げない。

「別にいいよ。もうお兄ちゃんと話さないから。」

「うぐっ!それでも、僕は江利ちゃんのために……。」

 江利はふいっと無視する。それを見た辿萊さんは机に突っ伏した。どうやら致命傷だったらしい。

「わたしは賛成。」

 4番目の照舞萊さんはきっぱり答える。ショートカットの髪は他の姉弟と違って少し染めているのか茶髪だ。

「てか月萊姉さんはいつの話を持ち出してんのよ。ここ10年の話だったらそうだけど500年前でしょう。時効も時効じゃん。あと継萊姉さんと辿萊兄さんに関してはそれは本人達の問題だから。いとこがとやかく言うところじゃないから。そういうところだと思うよ、江利ちゃんに嫌われる理由は。」

 辿萊さんはピクリとも動かなくなってしまった。

「江利ちゃんはあたしが嫌いなのか?!辿萊だけだよなぁ?!あたしは好きだよなぁ?!」

 またも江利は無視をし、継萊さんも机に突っ伏した。江利を前に2人も撃沈してしまった。

「俺も照舞萊と同じで賛成。」

 快活に答えたのは5番目の知萊さん。この状況を楽しんでいるようだ。

「このくらいの壁がないと。まぁどーせ学生時代のカップルなんて8割がた別れるんだから目くじら立てるもんじゃないだろ。」

 付き合いたてなのに別れる割合の話をすべきではないと思う。

「あたしは反対だなぁ。」

 一番味方してくれそうだった6番目の叶夢萊さんが意外にも反対派だった。江利も同じことを思ったのか、目を丸くして叶夢萊さんを見る。

「ほら、今日で分かるとおりうちの人たち変でしょう。こんなことに鬼塚くん巻き込んじゃダメよ。どうしてもっていうのなら反対押し切って2人で駆け落ちしたら面白そ……、ロマンティックじゃない。てかそれで行きましょう。」

 叶夢萊さんは勝手に駆け落ちのストーリーを妄想しているのかうっとりしている。江利も真剣な表情だ。まさか本気で考えているんじゃないだろうな。

「俺も賛成だ。」

 7人姉弟の末っ子、都万萊さんは上の姉弟に臆することなく答える。運動神経が抜群で球技、武道、水陸ほとんどの競技に選手として出場経験があるという都市伝説みたいな人だと江利から聞かされていた。冬だというのにまだ残っている日焼けの跡を見るに、全てが嘘ではないのかもしれない。

「江利ちゃんの部屋に上がり込んだんだって?俺達(廃人)を受け入れるには相当な覚悟がいる。それをこいつは持ち合わせているってわけだ。」

 部屋にずらりと並んだフィギュアや壁のあちこちに貼られているポスターのことを言っているのだろうか。流石に最初は引いたが、そんな一途なところもいい。

「そして最新話のアレを江利ちゃんの分も予約しておいたぞ!」

「都万萊お兄ちゃん!!」

 江利は感激しながら撃沈している2人の上で都万萊さんとハイタッチしている。劣勢かに思われた俺達だったが、賛成3、反対4の接戦となっている。

「今度は俺だな。」

 はしゃぐ江利と都万萊さんを制して口を開いたのは8番目の禅麗さん。その髪は金色に輝いている。

「俺は反対だ。江利、お前も継萊達が反対する意味がわかるだろう。その銀色の髪。水沢百合と同じ性質、先祖返りの証だ。」

 江利の握る手が強くなる。

「初代は当時でも異形の銀色の髪だったという。それは神の生まれ変わりとまで。初代が死んで、それからも異常な髪色を持つ子孫が数十年に一度現れた。

 彼らは水沢家屈指の異能を誇っていたという。時によっては力に飲み込まれた者によって、水沢家を消滅寸前まで追い詰めたこともあった。

 そして今世では俺と江利。俺は幼い頃からこの目と能力に悩まされてきた。加え、その髪。」

 禅麗さんは江利の銀色の髪を指さす。

「前に会った時は前髪の半分しか銀色になっていなかった。それも2年足らずで今は後ろ髪にまで銀色に変色している。水沢家本来の妖力が戻ってきている証だ。あとは、言わなくてもいいな?それでもお前は、この少年を守ることが出来るのか?」

 場の雰囲気が一気に重たくなった。禅麗さんはそれを知ってか知らずか、すっかり冷めたお茶を飲む。江利は俯く。

「あたしだって、この髪好きじゃないし。」

「俺は好きだけどな。」

 思わず、というのはこういうことを言うのだろう。いとこ会議なので外野の俺は口を慎んだほうがいいと思い、一言も発さないようにしていたのだが、江利の言葉に我慢ならず口を挟んでしまった。

「は、はぁ?!ば、ばっかじゃないのぉ……」

 江利はいつぞやのように顔と耳を真っ赤にしてピタリと固まっている。

「それは俺が言おうとしていた。」

 こんな空気にした張本人の禅麗さんは何故だか不貞腐れている。

「ごほん、兄さん、空気を読んでください。上3人は江利ちゃんを傷付けないように鬼塚君のことしか触れていなかったのに。」

 フォローしているのか貶しているのか分からないが、風向きを変えたのは苑麗さんだ。

 苑麗さんは極度のブラコンだが、自分の意見はしっかり持っていて例え大好きな兄と対立しても自分の意見を曲げない、らしい。江利曰く、健全なブラコンとのこと。

「私は賛成です。江利ちゃんなら大丈夫じゃない?鬼塚君もしっかりしてそうだし。」

「可愛がることと甘やかすことは違う。」

「江利ちゃんを危険から遠ざけることも甘やかしと何が違うの?」

「敢えて火に飛びいる必要はない。」

「いいじゃないですか火遊びも。」

 静かな兄妹喧嘩が始まった。勝負の行く末を観戦しているしかないかに思われたが、十人のいとこの最後、そして三兄妹の末っ子翠麗さんが兄妹を手で制した。

「喧嘩はそのくらいにして、やっっと俺の番だな!賛成だ!江利ちゃんが良いならそれで良い!!」

 と、至ってシンプルな回答だった。これで賛成5、反対5の引き分けとなった。

「これでみんなの意見が出たわけだが!他に言いたいことがある者は!」

 どうやら翠麗さんが今度は司会をするらしい。我先にと手を挙げたのは月萊さん。

「この際だから血筋は置いておきましょう。ただ1つ、あんたに言いたいことがある。クリスマスの日、江利ちゃんの服装を見てなんて言った?」

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