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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
27/75

File5 水沢百合の回顧録#2

「お邪魔します。」

 玄関に入った途端、何者かに手を押さえつけられ、そのまま地面に倒された。

「何かあると思ってきてみれば妖怪遣いの末裔がいるとわね。うちの大事な江利ちゃんを誘惑しようとしていたんでしょうけど、残念だったわね。私達は2度も同じ手には引っ掛からないわ。」

 江利に少し似た声がする。

月萊(つきり)お姉ちゃん?!」

 江利は驚きの声を上げる。

「今朝方ぶりね。いつもより可愛い服にしてってお願いをしてきたのはこいつとデートだったからなのね。」

「ち、違うわよ!そういう気分だったの!じゃなくて!翔瑠のこと離してよ!」

「聞けないお願いね。こいつ、腹の中では何を企んでいるのか分からないわよ。」

「翔瑠とご先祖さまのことは関係ないでしょ!離してよぉ!」

 江利は必死に抗議しているみたいだが、俺はというとがっちりと押さえつけられているため状況が全然飲み込めない。どうやらいとこ達は俺の先祖をあまりよく思っていないらしい。

「そんな悲しそうな声出さないでよ。悪かったわよ。いきなりは。」

 俺はようやく解放された。が、腕を紐で縛られる。

「なんで縛るの?!手擦り切れちゃうじゃん!」

「江利ちゃん、何度も言っているけれど初代はこいつの先祖に殺されたのよ。警戒するに越したことはないわ。」

「初代の旦那さんはそんな人じゃないってあたしいつも言ってるじゃん!」

 こんなに必死になっている江利は初めて見た。

「江利ちゃん、いつも言っているけれどそれはね、」

「そうやって勝手に決めつけて!いいからその人を離して!」

 体を起こされてお姉さんを視界に捉えることが出来た。黒く長い髪に、江利と同じような白色のリボンが頭に巻かれている。

「……あんた、江利ちゃんに何したの?」

 何と聞かれても。

「しゅ、宿題を見せています。」

「宿題?」

 お姉さんは眉を顰める。

「江利ちゃん、宿題ならお姉ちゃんに聞こうよ。こんな奴に頼らないでさ。いつでも教えてあげられるよ。」

「な!あたしは宿題で釣られたわけじゃない!」

「なら何よ?」

「いや、その……、色々!」

 俺の後ろから鋭い視線が感じる。

「クリスマスカップルねぇ、ふーん。」

「お姉ちゃん独身だからあたしに嫉妬してるだけでしょ!」

「私は江利ちゃんを心配しているの!」

 また言い争いが始まってしまった。足元に何か当たった。下を見るとミケがこちらを見あげている。

「月萊、江利の意見も尊重したら?」

「ミケまで?こいつを庇うの?」

「人間は私嫌いだからどうなってもいいけど、江利がここ2ヶ月どうしようどうしようと悩んでいたのよ。で、今日帰ってきたらこいつを呼び出して、江利の大好きなところ選手権のお返しをするんだって意気込んでたのよ。せっかく上手くいったのに否定しちゃ可哀想じゃない。」

「ミケェェ?!」

 江利はその場で蹲ってしまう。戦意を消失したみたいだ。聞かなかったことにしよう。お姉さんはますます眉間に皺を寄せる。

「……もし、俺が、江利の障碍になるというのなら、今後は接触しません。」

「随分あっさりね。」

「嫌、あたしは翔瑠がいないと絶対嫌。」

 江利はお姉さんを睨み付ける。姉妹喧嘩はしてほしくない。止めに入ろうとしたが、お姉さんが突然を力を無くして膝を付く。

「江利ちゃんが、江利ちゃんが私を睨んだぁぁぁ!反抗期だぁぁぁぁ!!うわぁぁぁぁ!!」

 肩を震わせ泣き始める。この人確か江利の10歳上の人だったような。ミケは気にせず俺を縛っていた縄を解いた。乱暴に解かれたので、手首がジンジンする。

「あーあ、江利が月萊泣かした。」

「お姉ちゃんが悪いんじゃない。」

「江利のいとこってこんなんばっかり?」

「周りからは変わってるって言われてるわね。」

 お姉さんはしばらく泣き続ける。江利は流石に悪いと思ったのか、お姉さんの頭を撫でる。

「ごめんって。だってお姉ちゃん、翔瑠のことなんにも知らないくせに酷いことするんだもの。」

「私は江利ちゃんのためを思って……、分かったわ。」

「分かってくれた?!」

「家族会議をしましょう。そこで2人の交際を認めるか認めないか決めるわ。」

「なんでそうなるの?!認められなくたってあたし達は別れないからね。」

「とにかく、あんた今日のところは帰って。」

「帰らなくていいよ。これからお昼だもんね。」

「え、江利ちゃんの手作り?!」

「お姉ちゃんにはあげないから。翔瑠のだけだから。」

「……っ!食べさせてあげるから江利ちゃんに私の分も作ってって頼みなさい!」

 このお姉さん大丈夫なんだろうか。楽しみにしていたこともあったので、言うことを聞く。

「江利、お姉さんの分もせっかくだから作ってあげたら?」

「……翔瑠が言うならしょうがないなぁ。」

 江利の料理は確かに美味しかった。それはもう高級レストランかというほどに。しかし、俺は江利に似たような顔のお姉さんに睨み付けられながら食べる羽目になり、少しでも間違えたら俺もこの食卓に並ぶのではないかという恐怖も味わうことになった。

「じゃあ12月31日、午後6時から話し合いを始めるからここに来なさい。」

「いいんですか?せっかくの大晦日に。」

「……確かに。まぁ、あんたがいいならいいけど、予定あるの?」

 年末年始に家族と過ごすなんてことは今年もないだろう。母さんが色々準備をしているが、俺がいると家の雰囲気が固くなるのがひしひしと感じられる。むしろいないほうが家族のためだろう。

「予定は無いので。」

「じゃあお泊まりグッズを持って皆で集合!」

「「泊まり?!」」

「万が一認められた場合、江利ちゃんの交際相手に相応しいか見定める必要があるからね!」

 お姉さん、何だかんだ言って楽しんでいるだけな気がする。

「それまでは接触禁止!」

 予想はしていた。どうやらこのお姉さんは、俺の先祖のこともあるが江利を盗られたのが悔しいらしい。そうとも知らない江利は、

「なんで?!明日クリスマスなのに!!」

 また反抗している。

「危険だから。江利ちゃん、クリスマスはお姉ちゃんと一緒にいようね?」

「絶対に嫌!!」

 押し問答はしばらく続き、俺と江利は1週間ほど接触禁止を言い渡された。

 12月31日。約束の30分前に江利のインターホンを鳴らすと、明らかに江利ではない声が帰ってきた。

「いらっしゃい。君が鬼塚君?」

 前に会ったお姉さんが出てくることを覚悟していたが、今度は全く正反対のほんわかした雰囲気の人が出てきた。

「ごめんねぇー。変なことに巻き込んで。うちの一家は変なところがあるから。あ、あたし叶夢萊(とむり)。よろしくね。江利ちゃん、翔瑠君来たよ。」

 居間に案内されるとむっすーっとした江利が座っていた。居間にはいとこ達が10人既に揃っていた。皆それとなく似たような顔をしている。俺は叶夢萊さんに江利の隣に座るよう言われる。よかった。ここで引き離されたらどうしようかと思っていた。江利は相変わらず拗ねているが、こっそり手を重ねてきた。こんなに素直じゃなかったはずだ。

「じゃあ揃ったわね。これより、第十回水沢家家族会議を開始します!」

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