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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
24/75

File4 水沢江利と呪いの少年#4

「風神……、やっぱり出来ないや。」

 あたしは一歩、また一歩と翔瑠に近付く。警戒されて至近距離で遠慮なく吠えられたが負けない。

「翔瑠のこと、ちゃんと言わなかったあたしも、研究室も悪いけどさ、戻ってきなよ。恨み言ならいくらでも聞くし、一発くらい殴ってもいいよ。殴り返すけどね。」


「……でも、まだ、翔瑠と一緒にいたいかなぁ。」


 翔瑠(超大型犬)は唸るのをやめた。そればかりかあたしに頬を擦り寄せてきた。くすぐったい。

「なんて命知らずなんだ。危うく殺しかけたぞ。」

 びっくりして見上げる。

「超大型犬が喋ったぁぁぁ!!」

「お前のところの猫も喋るだろうが!!」

 本当に声を発している。神々しさを感じるが、声色はいつもの翔瑠だ。そのことに少し安心する。

「なんだ、自我は残ってたんだ。あたしゃもうダメかと。」

 力が抜けてその場に座り込む。翔瑠がモフモフの体で支えてくれた。

「なんとかな。大丈夫か?」

 そのまま寄りかかると人間をダメにするソファー並みに心地がいい。このまま昼寝でもしてしまおうか。呑気なあたしとは真逆に翔瑠はしっぽと耳をだらんと垂らす。どうやら落ち込んでいるらしい。

「俺はもう、江利に会えなくなるのか。」

「なんで?」

 翔瑠は口を閉ざす。

「協会の奴らになんか言われた?」

「協会?」

「どこから話せばいいのかな。前に廃墟で会った研究室覚えてる?黒子の白色バージョンの。」

「あの不気味なのか。忘れられそうにもない。」

「あの人達は、えーと公安所属の異常現象対策研究室っていうところがあって、怪奇現象の研究をしているの。

 で、翔瑠が会った協会は要注意団体として研究室にマークされてて、怪しげな場所を買い漁っては怪奇現象をあえて引き起こしているらしいわ。

 要は頭のヤバい奴らとヤバい奴らの争いよ。そのヤバい奴らの片棒をあたしも担がされているってわけ。」

「そんなことに巻き込まれていたのか。スーツを着た男が、俺が江利の先祖を殺した男の末裔だとか、俺はまた江利を殺すだとか言われて……」

 最悪だ。あたしが気を使って言わなかったこと全てを翔瑠に暴露しやがったらしい。

「こんなになっちゃったわけか。」

 翔瑠の腹の当たりを撫でる。全体的にフワフワしていてどれだけ触っても飽きない。

「実際に俺は切り裂き事件のとき、江利を傷つけた。」

 縫い跡はまだ残っている。翔瑠の爪を見る。確かにあたしの傷跡と一致している。

「やっぱりこれ、翔瑠だったんだ。」

「皮膚を切り裂いた時の感覚が、焼き付いて離れないんだ。江利が倒れていたとき、自分の手にも血が付いていた。何かの拍子で付いたんだと思ったんだ。江利が目を覚まさないのは俺のせいじゃないってずっと自分に言い聞かせてた。

 けどこの姿になって分かったよ。きっと俺はまた江利を傷つける。いつかは命を奪ってしまうかもしれない。それだけは、嫌だ……。」

「気にしなくていいのに。怪異と生きていればこれくらい日常茶飯事よ。」

 あたしは喉のあたりを撫でる。嫌がる素振りをしているが、しっぽをぶんぶん振り回している。完全に犬だ。

「隠す必要ももう無いね。あたしね、人と違うの。小さい頃から幽霊が見えるし、風もちょっと操れるの。」

 少し指を振ってみると、あたしと翔瑠の間を風が通り抜けていく。

「これが、水沢の。」

「そう。そして翔瑠は水沢百合の旦那さんの血筋。初代が死んだ後、再婚したのかな?」

「俺の先祖は随分なクズ男だったらしいな。今だったらネットの晒し者だ。」

「どうしてそう思うの?」

「自分のためだけに一国の姫を惑わして結婚して、いらなくなったら殺すんだぞ。いいところなんてない。昔のこととはいえ、その血が流れてると考えると、」

「大事なところが抜けている。」

「大事なところ?」

「なんで旦那さんが初代を殺したかってこと。」

「だから水沢百合がいらなくなって…」

「違う。初代はそんな人を好きにならない。」

「え?」

「だって、初代の日記を見たら2人幸せそうだったもの。お姉ちゃん達には馬鹿にされるけど、絶対に違う。それに、あんた見てたらもっと信じたくなった。」

「俺?」

「気づいてないかもだけど、たまーにあんた初代の旦那さんに所有権奪われてるわよ。」

 少し驚いた顔をする。あのマンションの時といい、夏祭りの一瞬といい翔瑠の様子がおかしかった。それが旦那さんが乗り移っていたことが分かったのはついさっきだ。

「あたしのこと初代と思い込んでたのか親切にしてくれてたし。あんたもその性格引き継いでいるのか教育の賜物か引くほどお人好しだし。」

「いいのか、全部言って。一般人に知られたらパンダになるんじゃなかったのか。」

「なんであんた知って?!でも、翔瑠に知られてパンダになるのもいいかな。だから、翔瑠はいつも通りの日常を過ごせばいいさ。あたしだって自分の能力を上手く使えない奴に負けるほど弱くないし。」

 本心からの言葉だった。

「江利。」

 不意に呼ばれる。

「好きだ。」

「…………は?」

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