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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
21/72

File4 水沢江利と呪いの少年#1

「先月は大変助かりました。しばらくご挨拶もできずすみません。」

 誰も呼んでもいないのにあたしの家にまたまた白子の2人がやって来た。

「別にいいけど、要注意団体の解体は済んだわけ?」

「そんなすぐには無理ですよ。何年追い続けていると思ってるんですか。」

「実はあんた達の情報が流出しただけで、研究室は成果も何も無かったんじゃないの?何やってんだか。」

「失礼な!私達寝ないで解析……」

「どうして貴女はそう口が軽いのですか!」

 白子女が何か言いかけたが、白子男がそれを制止した。一連の二人のやり取りを見て合点が行った。

「ふーん、協力者にも秘密ってこと。秘密主義者は人から信用されないんだからね。」

 白子男は深いため息をついて、麦茶を顔が見えないように器用に布を上げて飲んだ。そして口を開いた。

「ま、いつまでも隠しておくことはできませんからね。まず我々は余計な不安を与えないように、協力していただいている方々には必要最低限のことしかお話していません。」

「上が秘密主義なんですよね。意味無いと思うけどなぁ。」

 横から茶々を入れる白子女を咎め、白子男は続ける。

「今回の件も本来であれば隠匿するところですが、江利さんが直接彼らの領域に足を踏み入れた以上、それも不要でしょう。

 『怪異共依存推進協会』。

 廃墟マンションの私有化、第二の地球の精製を行った団体の名称です。他にもいくつか団体はありますが、力関係が複雑となるため、割愛させていただきます。」

「怪異……、なんだって?」

 あたしは5文字以上の名称は覚える気がないんだ。

「怪異共存推進協会です。」

「略して怪協(かいきょう)とかどうですか!」

「ゴホン、その協会ですが、」

 白子男は華麗にスルーした。

「名称のとおり怪異と人間の共存を推進するというのが建前の目的として創設されました。」

 勝手にやっててくれ。

「しかし、解明してみれば怪異や怪異能力者だけの世界を創ることを目的としており、非能力者は奴隷階級を用意しているみたいです。」

「ヤバい薬やってんじゃないの?」

「そうであってほしかったのですけどね。

 現在の地球は怪異にとって最大限の力が発揮できないのです。統治なんて以ての外。

 だから地球と似たような条件下を人工的に創り出し、怪異にとって最適な環境を用意しようと考えた。第二の地球はその試作品ではないかと思います。江利さんの力が最大限発揮できたのも協会の成果でしょう。」

 道理で霊感の調子がいいと思ったがそれが理由か。

「鬼塚さんもどうやら特殊な力をお持ちみたいなので、お2人が協力したからだと思います!お似合いじゃないですか?」

「誰と誰がお似合いだって?興味無いわよ、あんな奴。」

 自分で言っておきながら、少し胸がちくりとした。

「着実に計画は進められているのでしょう。完成後はあの時のように地球の生物を転送させ、統治を開始しようとしているのではないかと。」

「ぶっちゃけイマイチよく分からなかったんだけどさ、なんで協会はあたしと翔瑠を選んだの?」

「……能力が特に強かったからですよ。」

「江利さんと鬼塚さんを第二の地球の最初の人類にしようとしていたのではないかなと。アダムとイブ的な!幽霊が見える女の子とミステリアスな男の子!ありがちじゃないですか。ここは敵ながら見る目があると思いますよ。」

「はぁ?!?!そいつらここに連れてこい!!」

「無茶言わないでくださいよ!貴女も変な妄想しないでください!」

「あったま来た!何よそいつら!」

 部屋の中の書類が少し浮く。

「落ち着いてください!風吹きますから!」

 久しぶりに頭に来て思わず能力を発動させてしまった。あたしはお茶を一気飲みする。腹の虫はおさまらない。

「近いうちに協会が江利さんに接近する可能性があります。危害は加えてこないとは思いますが、お気をつけて。」

「気をつけてって、あんた達は何もしないの?」

「……奴らに我々の存在を明かすわけにはいきません。」

 申し訳ございませんとまた深々と頭を下げられた。研究室は研究室で事情があるのだな。

「はいはい。頭に入れておく。」

「では、我々は次の案件がありますのでまた。それから、鎌鼬の彼から伝言を預かっておりました。いつか江利さんの戦闘用コスチュームを作るのだと意気込んでいました。これ、彼の写真です。」

 渡された写真には、ピンク色のフリフリが付いたミニスカートとピースサインをするイタチが写っていた。

「……これはない。」

「江利さん可愛いから絶対似合いますよ!!」

 白子女は思ってもないことを言う。

「せめてフリフリ付けないで。」

 これが可愛いのになぁと白子女が言っていたが、白子男は苦笑いをしながら家を後にした。イタチには悪いが鑑賞用になるだろう。


 研究室から気をつけろと言われたものの特に不審者に声をかけられる事案も発生せず、相変わらずな日々を過ごしていた。翔瑠にも警戒するようにと伝えているが、特に変わりはなさそうだ。だいたい特徴も知らない不審者にどうやって注意しろと言うのだ。そんな完全に油断していたある日の帰り道。

「水沢江利さん。」

 スーツ姿の女があたしに話し掛けてきた。これはどっからどう見ても不審者だ。

「そんな怖い顔をしないで。私、怪異共存推進協会の者です。」

 精一杯の威嚇のつもりで眉間に皺を寄せて険しい表情を作る。

「少し、お話しませんか?」

「あたしはあんたに話すことなんかないわ。」

「そうでしょうか?調べさせていただきました。貴女のこと、鬼塚翔瑠君のこと、それと、水沢一族の始まりの祖、水沢百合のことも。」

 あたしは動揺を隠すように女を睨み付ける。それすらも女は楽しんでいる様子だった。

「場所、変えましょうか。」

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