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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
20/75

File3 孤独なセカイ#3

「……なんで?」

「帰ってもどこにも居場所はない。」

 それはどういう意味なのだろうか。学校で浮いているということか、あるいは、

「俺は家族に避けられている。幼い頃から。まるで腫れ物を扱うみたいに。」

「……それ、あたしが聞いてもいいこと?」

「水沢だから話す。」

 鬼塚はふぅーと息を吐き出し、まるで気にしてはいないかのように語り始めた。

「一番古い記憶の母親は、俺を、一応は可愛がってはいたと思う。

 保育園に入ってからだ。友達と些細なことで喧嘩をした。最初は小競り合いだったのが、だんだんヒートアップして俺はただ友達を押し倒すだけのつもりだったのに、気がつけば保育園が倒壊していた。

 喧嘩した相手だけじゃない。園内にいた先生も、みんな命は助かったけれど、重症だった。救急車が何台も来たのを覚えている。でも俺だけは無事だったんだ。

 それから俺の感情が高ぶると窓ガラスが全部割れたり、建物が半壊したり……。どうしてそんなことになったのかは分からない。家でも兄と喧嘩をした時なんかは同じようなことが起こった。

 それから父さんも母さんも俺を刺激しないように、必要最低限のこと以外何もしてくれなくなった。

 俺がいてもいなくてもあの家は変わらない。何も変わらない。なら、俺はここで誰にも干渉されないで独りで生きていたい。」

 感情が平たんな奴だと思っていたが、そんなことがあってから自分の感情に蓋をしながら生きてきたのかもしれない。

 それはとても生きづらくて、孤独な日々だったのではなかろうか。なんと言ったらいいのか分からず言葉を探していると、

「江利、ここで、2人きりでいないか?」

 人を誘うのなら嬉しそうに言ってよ。そして消去法で選ぶのはやめて欲しい。

「お嬢さんはどうするのよ?」

「お嬢さん?」

「夏休みに勇気を出して告った彼女よ。前一緒にいたじゃない。ショートカットのお嬢さん。」

「あぁ、茜のことか……。あれはただの幼なじみ。前久しぶりに会ったんだ。」

「え、あー、なんだ。あたしの余計なお世話だったわけ。無駄な気を遣っちゃったじゃない。」

「余計なお世話?」

「てっきりあんたとお嬢さんが付き合ったのかと思ったから、嫉妬されても困るし距離を取ってあげたのよ。」

「だから、今日……、嫌われたわけじゃなかったのか。」

 お互い少し勘違いをしていたのかもしれない。

「理由はどうあれ、ここに留まるのは危険よ。あたしは帰りたい。」

「……佐々木が待っているから?」

 そういや今週くらいに遊びに行く約束をしていたのだった。

「それもあるけど、来年またあんたと祭りに行く約束したじゃない。」

「え?」

「忘れたの?あたし達はまた来年もあるって。再来年も再々来年もあるんだよ?

 今は不幸のどん底にいるかもしれないけれど、来年はどうなっているか分からないじゃない。

 いつかこんな呪わた日も良かったと思えるかもしれない。それもほっぽいて全部無かったことにして第二の地球に居続けるの?」

 あたしは立ち上がり、鬼塚はあたし見上げる。

「あたしはこんなところにいるより、あんたと祭りに行きたい。」

「江利……。」

「本当は行きたくなかったりする?」

「違う!」

 それならとあたしは鬼塚の前に手を伸ばす。鬼塚は戸惑っていたが、ちゃんと手を取ってくれた。同時に御守り通信機がなった。

『江利さん!帰り方が分かりました。取り敢えず第二の地球を崩壊させてください!』

 解決策を見つけるとか言っておきながらこいつらもとんでもないことをいいだしたぞ。

「馬鹿言わないでよ!そんなことしたらあたし達宇宙の塵よ!」

『そうならないために対策を練っていたのです!我々を信じて!』

「信用ならん!」

「……ここを崩壊したあと、俺達は確実に元の世界に戻れるんだよな。」

『はい!必ず!』

「分かった、江利、頼んだ。俺に手伝えることがあれば手伝う。」

「えぇっ?!」

 帰りたくないと言ってたはずなのに、今や誰よりもやる気になっている。

「それと、冬祭りもある。」

 そんな真っ直ぐな目をされたらやるしかないじゃないか。

「一緒に帰ろう!地球に!」

 あたしは床に両手を付ける。

「鬼塚も重ねて。」

 躊躇うように鬼塚は自分の左手をあたしの左手に重ねる。手が冷たいあたしと違って、鬼塚の手は温かかった。異能はイメージと何度も頭で唱える。

 それらしい呪文も思い浮かび、息を吸って願いを込めながら叫ぶ。

『偽りの世界よ、我が真実の風の元に崩壊せよ!!』


「あだっ!」

 あたしはベッドの上から転げ落ちる。白子が言っていたとおり上手くいったらしい。時刻は深夜の1時を指している。

「なんとか帰ってこれたみたいね。」

 ミケが擦り寄ってきた。いつも素っ気ないが、心配してくれていたのか。

「翔瑠は?!」

『も、大丈夫です。江利さん、鬼塚さんに勝手に御守り渡してたんですね……。ので、江利さんの脳内に直接語り掛けています。』

 生きているうちにこの言葉を誰かに頭に直接語り掛けられるとは思わなかった。

「あたしが持っているよりあいつが持ってたほうが安全じゃん。」

『ともあれ、江利さんのおかげで団体の計画は妨害できました。我々はこれから第二の地球の解析を早急に行います。』

『また残業ですかぁー!!寝れない!』

『失礼いたしました。また後日ご挨拶に伺います。良い夢を。』

 回線が切れた。そういえばお風呂にまだ入っていなかったことを思い出してパジャマを引っ張り出して準備をする。寝たはずは無いのに疲労感は無くなっていた。お腹も空いているが、この時間に食べたら懸案事項がまた1つ増えるので今日は夕飯抜きだ。明日の朝食べよう。


 近いうちにまた厄介事に巻き込まれるように気がして憂鬱になる。でも、そんなことよりも明日、翔瑠に会って言うことがあるのだ。


 いつもより1時間くらい早く学校に着くと、翔瑠は1番乗りで教室に来ていた。欠伸なんかしている。

「眠そうね。」

「昨日壮大な夢を見たからな。」

 翔瑠は夢の中の出来事だと処理したらしい。あの告白は心の中に閉まっておく。

「ねぇ!今日花火するわよ!スーパーで買ってきて、学校に侵入してさ!」

「はぁ?!」

「まだ9月だし売ってるよ!今日の放課後すぐに買いに行くわよ!いいわね!」

 次の日、校庭のあちこちに焼けた跡が発見されしばらく大事になっていたのはまた別の話。

続く!!

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