間章 夏祭り#1
鬼塚side
「なんで日本の学校は黙って休ませてくれないのぉ。」
水沢は通算10度目の文句を言っている。
「なら海外に留学でもすればいいだろ。」
「もうめんどくさい!休憩!ゲームしよゲーム!」
これも10度目。30分おきに休憩と称して1時間くらいゲームをし始める。そんな調子なので、かれこれ2週間くらい水沢の家に入り浸っている。
『宿題見せてよ!』
『は?』
『あたし一切手付けてないんだよね。』
学年の黙っていれば優等生、口を開けば問題児の東中唯一の女子生徒は自慢げに言い放った。
『お前なぁ!次は見せないからなって言っただろ!』
『それいつも言うけど結局見せてくれるじゃん。いいじゃん。休みの日に廃墟徘徊するくらい暇なんでしょ。』
頼む者の態度ではないが、つい言う事を聞いてしまう俺も悪いのだろう。
『……今回だけだからな。』
『ラッキー!じゃあ明日宿題一式全部持ってあたしの家に集合!』
『お前の家でするのか?!』
『近いからいいじゃん。ゲームやり放題、漫画見放題、ジュースもお菓子も食べ放題付きよ!』
そういう問題ではない。
『一応男子と女子だぞ。気にする奴は気にする。』
『あたしは気にしない。坊やは興味無いんでね。』
『帰る。』
『そんなぁ!鬼塚だけが頼りなんだよぉ!』
その後家の前でも粘られ、渋々嫌々引き受けることとなった。
あんなに駄々を捏ねていたくせに、真剣に書き写していたのは初日の2時間くらいで、今はゲームの合間に宿題をするという当初の目的から大いに外れている。
「どのくらい進んだ?」
水沢は少し目を泳がせた後、
「もうちょっと。」
だけ答えた。これは半分も終わってないな。
すると最近猫集会で姿を見せていなかった水沢が飼っている三毛猫のミケが、ゲームの電源コードを咥える。
「ミ、ミケ!ストップ!セーブするから!セーブするから!分かったわよ!ちゃんとやるわよ!」
水沢が再び机に向かったのを見てミケはコードから口を離した。この猫、実は人語を理解しているのではないか。
「あー読書感想文も終わってない!もうやりたくなーい!」
10分も経たないうちに根を上げている。
「つまんない!どっか行かない?!東京行こうよ東京!1時間で着くのよ!地元は7時間でも着かなかったのに!この奇跡を享受しないでどうするの!」
「1人で行ってこい!全部終わってからな!」
「はぁぁぁぁ。」
水沢は長いため息を吐きながら俺のノートを書き写し始める。これで定期テストはまた満点近く取るのだから天は不公平だ。
更に1週間後。
「終わっっった〜!!」
書き写しが終わった水沢はひと仕事終えたとばかりに歓喜の声をあげている。気がつけば夏休みも残り1週間だ。
「あたしは2度と宿題しないから。」
そういうセリフは1度自力でやってから言ってほしい。
「じゃあ東京行こ!ユウキ空いてるかなー?」
「……その前に夏祭り。」
「祭り?」
「明日、夏祭りがある。元神社の娘には物足りないかもしれないが、花火もあるんだ。……良かったら。」
「あたし、浴衣置いてきちゃって持ってないよ?」
「浴衣がなくてもいいだろ。俺もないし。」
「何時に集合?」
きっと断られるだろうと思って誘ったのに、水沢の反応は意外だった。
「来るのか?!」
「誘っといてその態度はないんじゃないの。」
「あ、いや、こういうの嫌いだと思っていた。」
「気が乗らないときもあるけどね。今回は乗った。」
「じゃあ明日6時くらいに迎えに行く。」
ずっと傍から見ていたミケが目を細めたような気がした。




