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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
14/75

File2 拡張する廃墟#5

※江利は白子をしろこと呼んでいます(黒子と同じ発音)。お腹が空いているとしらこになります。

「んわ!マンション!」

「あぁ起きましたか。」

 気がつくとあたしは行きに乗ってきた車の中にいた。

 隣には鬼塚がすやすやと無礼にもあたしの肩に寄りかかって眠っている。普段のあたしなら張り倒しているところだが巻き込んでしまったこともあったのでそのままにしておく。膝にも重さを感じて見てみると、ミケも気持ちよさそうに眠っている。

「どうなったの?」

「無事に解決しましたよ!全く、2人して急にいなくなるのですから心配したんですからね!江利さんに関しては待っててくださいねって言ったのになんで1人で乗り込むんですから!」

 寝起き早々ガミガミ怒らないで欲しい。

 白子女によると10階付近で気を失っている翔瑠と側から離れないミケを見つけ、マンションの屋上で傷だらけで倒れていたあたしを発見したらしい。

 そしてあたし達をマンションから運び出した直後にマンションは崩壊し、2倍になっていた公園も元の大きさに戻っていたという。

「江利さん屋上で何をしていたんですか?」

「怨霊と死闘を繰り広げていたわ。話が通じるやつでよかった。」

「なんて危険なことを!殉職しても不思議でない職場なんですからね!我々だって綿密な計画を立てて怪奇現象の検証に取り組んでいるのです!」

「まさか鬼塚が来ると思わなかったんだもの。一般人が来た時点で計画破綻しているじゃない。」

「そこは我々の不徳のいたすところですが、一般人が入ってこないように特殊な機械を設置していました。なのに彼は侵入することができた。鬼塚翔瑠とは何者ですか?」

「1年5組出席番号5番、成績は学年トップ10をキープしている帰宅部エースってとこね。」

「あれ?確か野球部の幽霊部員じゃなかったでしたっけ?」

 それは知らなかった。てかなんでそこまで知っているんだ。

「江利さんの身辺を失礼ながら調査させていただいておりました。」

 この手の怪しい集団はまずは人の身辺調査から開始するからな。

「彼のことは調べても普通の人間であるという結果しか出ず……。江利さんなら何かご存知だと思っていたのですが。」

「半年くらいの付き合いなんだから知っているわけないでしょう。」

 素っ気なく聞こえるように答えた。鬼塚の呪われ体質を隠す必要はなかったのかもしれないが、なんとなく言いたくなかった。

「それもそうですね。彼のことは少し調べてみます。江利さんはそれまで鬼塚翔瑠には近づかないほうがいいでしょう。今回の件といい、彼を知らないままなのは危険です。」

「それはあたしが決めることよ。遠巻きに鬼塚を見たことしかないあんた達がこいつの何を知ってんのよ?」

「そうですよ、先輩。これだから彼女に振られるんですよ。」

 意外にも白子女が応戦してきた。

「へー、なんて言われて振られたの?貴方は私より、怪異のほうが大事なのね……。とか!」

「そんなニュアンスで言われてましたね。良かったですね、上司に頼み込んで別の班にしてもらって。」

 少数精鋭だというのに呑気に職場恋愛をしていたのか。内部崩壊する前に禁止にすべきじゃないかね。

「勤務中に私生活の話は禁忌だと言っているでしょう!我々は常に怪異に見られているのですから!」

 白子男は誤魔化すかのように声を荒らげた。


「それではまた。」

 30分程度で自宅に着き、ずっとあたしに寄りかかっていた鬼塚を起こし、ミケを抱えて車から降りる。すっかり夜になってしまった。白子2人と運転手に手を振り、車が見えなくなるまで見送った。

「今日は一日長かったわ。夏休みも拡張しないかなぁ。」

 ふいにあたしの頬に貼られているガーゼをなぞられる。犯人は鬼塚だ。

「痛そう。」

「『そう』じゃなくて痛いね。背中も腕もちょっと痛いんだからね。」

 怪我することには慣れているとはいえ、流石に今回は結構痛かった。

「これに懲りたら変なところには近づかないほうがいいわ。」

「水沢は?」

「ん?」

「これからもあいつらとあんなところに行くのか。」

 最後に『また』って言っていたしそうなるだろうな。

「んー、気が向いたらね。」

「あいつらとは関わらないほうがいい。」

 同僚に振られた白子男と同じことを言っている。1つ違うのは、あたしが本当にあいつらと2度と関わりたくないということだ。

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。」

 異能者が溢れ返っている世の中であれば良かったのに。慢性的な人手不足のせいで前まで幼気な女児だった人にまで手伝ってもらわなくてはならないことを考えると……

「選択肢なんてないよね。色々とあるのよあいつらだって。」

「……ごめん。」

「え?なんで謝った?」

「お前がこんなことになったのは、俺のせいでもあるから。」

 こいつはどうやら白子達が押しかけてきたのは自分の不幸体質のせいだと言いたいらしい。鬼塚がいなくても遅かれ早かれあいつらはあたしを執念深く探していただろうし、悪いのはあいつらだ。

「あんたの不幸体質はそのネガティブ思考が悪いんじゃないかと思うわ。

 最初は本当にあんたがどうしようもないくらい不幸な人だったから引き起こしてたんでしょうけど、今はあんた自身がそういう考えだから悪化してるんじゃないの?

 どうせ悩んでたってあたし達の生きた証とやらは宇宙の塵にもなれないんだからのんびり生きたらいいのよ。」

「お前はもう少ししっかりしたほうがいい。」

「余計なお世話!」

「これ、返す。」

 鬼塚が取り出したのはあたしがあげた御守りだ。

「それはあんたが持っていたほうがいいわ。」

 鬼塚はまた巻き込まれそうな気がした。

「いや、でも…。」

「いいから。ペンダントだけは返して。他人に渡したことバレたら怒られるから。」

 鬼塚は首に下げていたペンダントを外し、あたしの首に掛ける。

「じゃあ帰るか。今日は遅くまで悪かったわね。」

「なぁ、俺にも出来ることがあったら、その、言ってほしい。今日みたいに足手まといにならないように努力するから。」

 今日も足手まといではなかったけどな。『無い。』という言葉が喉まで出かけて引っ込んだ。あるではないか、鬼塚に出来ること。

「じゃあさ、宿題見せてよ!」

続く!

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