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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校一年生編
11/72

File2 拡張する廃墟#2

「現場って?」

「ここから車で30分くらいの場所にある廃墟です。」

「廃墟なんて毎日怪奇現象のバーゲンセール中じゃない。」

「高度経済成長のときに建てられた20階建てのマンションです。

 当時はマンション全部屋満室で、近くにはちょっと大きな公園があって人で賑わっていたみたいなんです。だけどある年を境に住んでいる人達が次々と出ていってしまって……。

 なんでも建築基準法に違反していて、近々解体するという真偽不明の噂が出回り、入居者は遂にいなくなり今の有様に。

 マンションが閉鎖され必然的に併設されていた施設も閉業、公園にも人っ子一人いなくなってしまいました。」

「法律に違反しているなら解体すればいいじゃない。住民も自主的にいなくなってくれたんだし。」

「それがですね、何度も解体を試みたんですが事故が多発して計画もストップしてしまったんです。しかも最近その土地を購入した者がおりまして、解体の許可が降りないんです。」

「その購入者って……」

「そう、要注意団体、我々の敵です。」

 我々ってあたしも入っているんじゃないだろうな。あたしはいわばお試し期間なんだからな。

「情報統制を行っているのか、鎌鼬のときのようにニュースにはなってはいないものの、廃墟に迷い込んで行方不明となる人が続出しています。公安本部からも早急な解決を求められています。」

「解体もできないんじゃどうしようもないじゃない。」

「そこで江利さんの出番なんですよ!江利さんお祓い得意でしょう!」

 どうしてこうも子どもに重大な案件を押し付けて無責任になれるのだろう。あたしは能力をちょっとくらいしか操れない。そんなあたしに廃墟に住み着く頑固な怨霊を退治しろと遠回しにこの世からおさらばしろと言われている気がしてならない。

「能力はイメージですって。着いたみたいです。」

 車は工場のようなところで止まった。そして面倒なことを言った。

「ここからは運転手の安全確保のために、徒歩で向かいます。」

「えー、この炎天下の中?何分よ?」

「10分くらいです。ではすみません、ここで待っていてください。お守りはありますね。」

 おじいさんはお守りを見せていってらっしゃいと言ってくれた。

「お守りって?」

「研究室で作成されている、対怪異用の御守りです。結構予算を掛けておりまして、効果はてきめんですよ。」

 この手の商売で効果がてきめんすることなんてあるのだろうか。

「忘れないうちに江利さんの分もお渡ししておきます。」

 手渡されたのはなんの変哲もない赤色で安全と書かれた御守りだった。


 5分くらいたったところで白子は立ち止まった。

「もう着いたの?10分もしないで着いたじゃない。」

「……また拡張したみたいですね。」

「そろそろ観察場所も検討しなくては。」

 白子は深刻そうに話している。

「え?なんのこと?」

「この廃墟、近頃また拡張しているみたいです。」

「拡張ぉ?!どうやって?!」

「先程の研究室の支部からは本来30分くらいのところに位置していたのです。

 例えばこの人が寄り付かなくなった公園。我々が危険区域と制定した2年前はまだ半分くらいの面積でした。

 そしてあそこにそびえ立っているのが車内でお話したマンションです。」

 白子男はマンションを指さす。20階建てと言っていたのに数えてみたら40階建てになっている。

「恐らく地下の階数も増殖しているでしょう。」

「な、なんでそんなことになっているのよ!」

「怪奇現象としか言いようがありません。推測の域ですが、廃墟に多くの無念が積み重なり、元々の質量では収まりきらなくなったのでしょう。」

「……前言撤回しようかな?」

 ミケはかぷりと頬を噛み付いてきた。あまり痛くない。何を怯んでいるんだと喝を入れているつもりらしい。

「ここを正常化するにはあのマンションの中にいる怪奇の元を断つしかありません。」

 あたしはこれ以上1歩たりとも足を踏み入れたくないのだけれど、白子達の迫力に押され仕方なく後を付いていく。

「水沢?」

「……なんでここにいるの?」

 人ってめちゃくちゃびっくりすると逆に冷静になるんだな。

「何故ここに人が?!」

 白子はあたし以上に驚いている。それもそのハズ。だって廃墟マンションの前にはあたし達の他に人間が、鬼塚が突っ立っていたのだから。

「俺は、その、気がついたらこんなところにいた。」

 こいつは事件に毎回出くわす高校生探偵か私立探偵の孫かなんかなのだろうか。

「気がついたらって、ここは電車で乗り継いでも2時間かかる場所ですよ!おかしいでしょう!」

「お前達みたいな格好をしている奴に言われたくない。」

 鬼塚の言う通り黒子じゃなくて白子は明らかにおかしい。白子達もそんな自分達を棚に上げて、負けじと怪しげな鬼塚に警戒心剥き出しだ。

「あー、この人は、鬼塚翔瑠。あたしのクラスメイトだから怪しい人じゃない。そして、こっちは、なんか急に今日押しかけてきた人達。」

「クラスメイト……、一般人ですか!ここは危険ですよ!」

 あたしも一般人なんだけど。今は緊急事態だから黙っておくが。

「白子2人、鬼塚のこと安全な場所まで連れてってくんない?」

「……ここで怒っていても仕方ありませんね。すみませんが私達が戻ってくるまでどんなことがあってもこの場から動かないでくださいね。彼は危険区域外に無事に送り届けますので。」

「なんで俺だけなんだ!水沢もだろう!」

 鬼塚は連行されそうになると、抵抗を始めた。

「あたしもこんなところ離れたいんだけどさ、色々とあるのよ人間には。」

 鬼塚はまだ何か言おうとしていたが、白子達に強制的に連れて行かれた。

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