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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SPICE

「僕のこと、食べようとしてない?」


少年は法衣を脱ぎ、肩まで湯に浸かりながら怪訝そうな視線を僕に向けた


火にかけられた湯の中には香草、ハーブ、香辛料、ニンジン、ポテト等が浮かんでいる

このパズルの最後のピースはどう見ても血と肉、そして「聖なる美少年の無惨な最期」に他ならなかった



「聖職者が人を疑ってはいけないよ」


もっとも、僕は人間ではないけど


あるいは、僕なんか簡単に祓えそうな力をこの少年が持っている事も想定されたが、それにしてもお人好しが過ぎた

「やはり戦いは強さだけじゃないな」とシニカルな事を考えながら、僕は煮えていくスープを頬杖をついて視ていた


「それなら良いけど…」

少年が熱病にうなされたような表情で、答える


「でも、少しのぼせて来ちゃったかな」

少年が浴槽から出て来てしまう

彼の陶器の様に白かった躰は、すっかり紅く染まっていた

あと少しだったのに…


立ち昇る湯気の中で、濡れた裸体が隠す所なく露わになる

別に同性同士だから恥ずかしい事なんか無い筈なのに、僕はなんとなく羞恥を感じて眼を背けた

僕の様な闇の魔物が恥じらいを感じる様な煽情的な曲面を持ちながらも、彼の躰は磨かれた大理石みたいに神聖だった


「ねえ」

視界の外から少年の声がする



「汗、拭いて」



挑発的な提案だった


理性の留め金が弾け飛んでしまいそうな感覚が心の中を支配しそうになったが、警戒心がそれを抑止した

『例えば僕自身の様なものだ』

『子供の様に視えても、油断して良いものではない』



「じ、自分でしなよ」


「ええと、タオルは渡すからさ……」


かろうじて逃げ道を探す

だが、それもすぐ断たれてしまった


「君から拭かれたい…駄目?」


困った聖職者だ

僕はバスタオルを広げて両手で持つと、両手を広げて少年を受け入れた

広げた手と手の間に、望んで抱かれるかの様に少年が入り込んでくる

少年の吸い付く様な肌が、骨張った硬さが、幼さから来る甘い柔らかさが指を通して伝わってきた



「また遊びに来ても良い?」


少年が僕の腕の間から、曇り無い眼で僕を視る

僕は口籠ったが、彼は首を傾げながら続けた


「自分が吸血鬼だから気にしてるの?」


「君は悪い人じゃないし、客観的に視て友達が必要だと思う」


この時、僕の脳裏には少年に対する奇襲攻撃の計画が十通り以上あったが、総てが形になる事なく心の中で破棄された


僕の正体を容易く看破した相手に対し、戦いを挑むのは得策では無かったし…

それ以前に、僕はこの害意ない少年に対し不思議な感情を感じ始めていた


少年は最初にこの部屋に入った時そのままの様に法衣を纏うと、「一週間後にまた来るね」と微笑んだ

そして、優美な所作で部屋を去っていった


「友達、だって…?」



暫くの間、僕は何をするにも上の空で手に付かなかった


書斎の机には蝋燭が七本

毎日、僕は目覚めるとその内の一つに火をつけてから一日を始める様になった


「友達、か…」


熱と光に照らされながら、蝋が少しずつ溶けていく

僕は「次に彼が来る日が待ち遠しいな」と思った

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