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最弱男女の大勇譚【ザ・ブレイブ】  作者: かませ犬
序章:落ちこぼれの雷魔法使いボンズと蛮勇の少女ペティ。
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第0009話:ラースの森②冒険者プレート



ほどなくしてすぐ、焚き火の火光が薄っすらと見えてきた。


二人は顔を見合わせ、慎重にその火元の方へと進んで行く。


「いい、木偶でくぼう? 冒険者ならそのまま話しかける。やばそうな奴らだったら、気づかれないように迂回して通る。わかった?」


「う、うん。わかった」


「さ〜て、どんな奴等かしらね。その姿きっちりと確認させてもらうわよ〜」


全く恐れていなさそうな、なんなら楽しそうな声音にすら聴こえてくるペティのその緩い反応に、ボンズの緊張感も不思議と緩んでいく。


今まで出会った冒険者たちも、みんな彼女と同様に怖いもの知らずな人たちばかりであったことを思い出すボンズ。


思い返すと、自分ほど人や魔物を恐れている者は冒険者の中には全然いなかった。


だからだろうか。


ボンズは少し嬉しかった。


彼女も他の冒険者たちと同じだと知れて。


彼女には身長制限の問題をどうにか乗り越えて、いつか正式な冒険者になってほしいと心からボンズはそう思ったのだった。


「見えてきたわね。あそこの大木の裏側から観察してみましょう」


火光から少し離れた大木を指差し、ペティは位置をボンズに伝えた。


「う、うん」


足元の鈴の罠に気をつけながら、ゆっくりと大木の方へと近づいて行く二人。


ときたま首元辺りの高い場所にもワイヤーのような仕掛けが施されていたが、ボンズの長所、慎重派な性格がうまく働き、罠にかからず一歩一歩目的の場所へと近づいて行く。


そうして……二人は一度も罠にかかることもなく無事目的の場所へと辿り着いた。


「――着いたわね、木偶でくぼう。私があいつらを観察している間、周りを警戒しときなさい」


「は、はい」


「あああっっ!!」


突然大声を上げたペティに、ボンズは慌てて彼女の口元を抑えて大木に引き込み、ペティの身を素早く隠した。


「(な、なにやってるのさっ!?)」


珍しくボンズが焦ったような小声で他人に物申している。


口元から手を離せと、ボンズの手をバンバンッと叩くペティ。


「(お、大声出さないでよ、お願いだから)」


ボンズの言葉に激しくコクコクと頷くペティ。


その反応を信じ、ボンズはゆっくりと彼女の口元から手を離した。


「(いたっ!!)」


「(へっ? な、何がいたの?)」


「(いたのっ!! 白猿っ!!)」


「(えっ……えぇっ!?)」


予想外のペティの言葉に驚くボンズ。


彼女に続く形で、ボンズも大木からこっそりとほんの少しだけ顔を出して先の方を覗いてみる。


「あっ……ほ、本当だ」


2〜3つの簡易的なテントの傍で焚き火を囲みながら木彫りの台座のような何かに座っている、リーダー格的な雰囲気を漂わせている男。


その男の肩に、むしゃむしゃと丸い果実を食べながら座っている50cmほどの体格を持つ小さな白猿がいた。


焚き火の周りには3〜4人の男たちが地べたに座っているのも確認できる。


「おかしいと思ってたのよね。バーシア周辺って白猿の住み着かない生息範囲外の地域だから恐らく飼い主に捨てられて迷いこんだ個体だろうって、おじさんから聞いてたから」


「そ、そういえば見たことないかも……」


言われてみれば、たしかにボンズは一度も白猿を、それどころか一般的な猿の代表として挙げられているような黒猿や茶猿すら、ここ地元ではみたことがなかった。


白猿はここより遥かに寒い北の大地に、黒猿や茶猿はもっと南の暖かい地域でしか見たことがない。


過去の旅の記憶を思い返しながら、ボンズは『たしかに』とペティの言葉に頷いた。


ペティは彼らを監視しながら、


「……捨てられてたわけでも、迷い込んでたわけでもなく、元々飼い主がいたパターンだったのね」


と、なにやら独り言を呟いている。


「あ、あのっ」


「――なに?」


「に、逃げよう」


「……はあ!? なにいってんのよっ! 指輪返してもらいにいくわよっ!」


彼女の言葉に目を丸くするボンズ。


「ぼ、冒険者じゃないよ、あの人たち? ほ、ほら、首元に何も付けていないよ?」


首元。


冒険者になった場合、町の外では冒険者は身分証として常に細長い冒険者プレートを首元にぶら下げていなければならない。


それは、この国『アリストレア大国』の法に104年前、組み込まれた冒険者法により定められている決して破ってはならない冒険者の掟の一つでもある。


もし違反すれば、冒険者免許証の失効だけでは済まず、国の定めた法令違反に適応されるため、罰金刑がその者に課される。


にもかかわらず、目の前で暖をとっている男たちはみんな冒険者プレートを身に付けていない。


身なりも身なりで討伐や採取、護衛がメインの冒険者の格好には相応しくない、ならず者のような格好をした者たちで溢れている。


まず間違いなく彼らは冒険者ではなく、ならず者もしくは盗賊の類の者たちであろう。


話して納得してもらえるような相手じゃない。


余談だが、プレートには色が9種類存在しており、それは冒険者ランクによってそれぞれ色が割り振られている。


SSS級が虹色、SS級が白金色、S級が金色、A級が赤色、B級が緑色、C級が青色、D級が黄色、E級が紫色、F級が茶色といった具合だ。


なので、プレートを見ればその者の冒険者ランクが一目で判断できるようにもなっている。


「首元……?」


「う、うん。み、みんな冒険者プレートを身に付けていないよ。き、危険だよ。も、戻ろう」


「冒険者プレート? なにそ……あっ、わ、わかってるわよ。そ、そんなこと」


「じゃ、じゃあ」「いくわよっ!」


ペティがボンズの話を遮り、彼らの方へ力強い足取りで向かって行く。


「えっ……? えっ!? えぇぇぇっ!?」


頭の中がこんがらがるボンズ。


まず、こんな誰もいない相手のホームの場所に火種を持って行ってしまったら無事では済まされない。


運が良ければ身ぐるみ剥がされて半殺し。


運が悪ければ身ぐるみ剥がされて殺される。


「(どどどどどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!)」


「ちょっと! あんたたち! 指輪返しなさいよっ!!」


ペティの大声が少し遠くから聞こえてきた……。


やってしまった……。


「あぁ…大変なことになっちゃったぁ……」


ボンズは隠れていた大木から身を乗り出し、ペティの方へ震える足で向かったのだった。


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