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ノクス・トラジェディー  作者: 桜 hiro
二章 『桜の元に集まる少年少女』
7/16

恨まれる理由

もう1回新キャラ出てきます。

 美沙希が進行させて、ある程度自己紹介は済み次は秋夜の番となった。

 教壇へ立ち黒板に名前を書く。

 黒板に噛まれたその名前を見て、露骨に自身に対する敵意の視線を感じた秋夜は、その視線の方へと視線を向けると歯を食いばりながら、握りこぶしを作り今にも自分へと襲いかかってきそうな青年の姿があった。

 その青年に疑問を抱きながら、秋夜は気を取り直して自己紹介を始めた。



風魔秋夜ふうましゃうやです。

 存じ上げている方もおりますが、俺は征鬼軍総統補佐である風魔蒼龍の次男です。

 理由あって皆さんとは三つほど離れた入学ですが……先に言っておきますと、私は皆さんとの成績争いにおいて負けるつもりはありません。

 どうぞ皆さん、この年下を全力で叩き潰しに来てください」



 煽るように笑みを浮かべ、言い放つ秋夜を睨んでいた青年が立ち上がる。

 その瞳には激しい怒りを、秋夜に向けていた。



「偉そうに言いやがって、随分と舐めてるな!!

 そんなに自分が強いって言いたいのかよ!?」



「えぇ、強く在らねばいけませんので。

 それに、確かに俺は皆の事を下には見てます」



「なんだと……お前!!!!」



「では貴方は、ここに来る前に何か下準備をしたのですか?」



「準備……だって!?」


 今にも殴り掛かろうとする青年だったが、秋夜の問いにピタリと止まった。

 彼とて入る前から、それこそとある事が起因で多少のトレーニングを行っていた。

 しかし、悪くいうならばそれだけであった。

 そしてその男子は、秋夜のいう『下準備』とはそれだけでは足りないと勘づいてしまっていたのだった。



「そうだ、下準備だ。

 例えば、座学。

 鬼の生態、何故人と鬼とで戦争が起きたのか、そして一度は沖縄にまで住処を追いやられた鬼達が何故、現時点で関西まで住処の拡充が出来たのか。

 それを、先に学んでいたのか?」



「それは…………」



 言い淀む青年に、秋夜はやや呆れた笑みを浮かべながら答えた。



「鬼は人よりも身体能力が遥かに高い。

 例えば、陸上の世界記録。

 あれらのタイムは大体の鬼ならば優に超えることが可能だ。

 中には、戦闘機並の速度で戦場を駆ける鬼もいる。

 その身体能力の高さに目をつけた諸外国の一部は鬼が戦争に勝つと予想し、彼等に貸しを作った。

 それが、近代兵器……当時最先端の小銃だったり、戦車を鬼側に寄贈した。

 ……今は相手の大将が変わり、呪装具じゅそうぐという武器を用いての戦闘が主となっているけどね。

 けど、それでも中国が呪装具の開発を援助している。

 それで、聞くけれど君はこれらの事は学んだかい?

 教科書は二月ほど前に渡された筈だ。

 その期間があればおおよそは頭に叩き込めたはずだけれど」



「…………読んですら、いなかった」



「あぁ、顔に書いてるね」



 ニコリと笑みを浮かべる秋夜に男子は怒りを募らせる。

 だが、ここで手を出すのは自身の負けだと分かっているが故に、青年は歯を噛み締めてその場は踏みとどまった。



「どうせ、ここにいる皆もだけどある程度の筋トレさえ出来ればいいやとでも思ってたんだろう?

 違うね、座学の予習。教師達に早々と取り入ること、武術の研鑽。それらを行なわなければ俺より上なんて思って欲しくないな。

 そんな奴らが大成するとは思えないし……まぁ、この様だと首位はずっと、俺のものかな。

 張合いのないメンツっぽくてガッカリだよ」



 だというのに最後、秋夜はそう言ってしまった。

 彼の内心では、発破をかけることで全員に向上心を持って欲しいと願っていた。

 全員が優秀、その中の成績首位は秋夜にとっては理想的だからである。

 冬華の自由は難しいのはもう悟っている。

 だが、少しでも待遇は良くなるはず。

 そう信じて、秋夜は自身の条件を更に難しくするのである。

 だが、そんな独り善がりな感情など誰が汲み取ってくれようか、誰が気付こうとしてくれようか。

 秋夜の最後の一言で、充以外全員の秋夜を見る目が変わった。

 敵意、そんな感情が秋夜の肌に刺さる。

 だが臆せず、秋夜は堂々たる歩みで席へと戻るのだった。



 美咲希はそんなクラスの雰囲気に嫌な予感を覚えつつ、溜息をいた後に秋夜を睨み続ける青年へと視線を向けた。



「それじゃあ……次は貴方ですね。

 どうぞ、教壇へ」



 美咲希に促され、青年が足早と教壇に立つ。

 そして自身の名を青年は書く。

 …………その苗字を見て、秋夜は成程と納得した。

 何故なら、その名は一年前に他の誰でもない秋夜自身が蹴落としたのだから。


 御門 信志。


 黒板に書かれた青年の名である。



(御門憲一みかどけんいちの……家族か。

 成程、だから俺に突っかかってきたのか……確かに彼からすれば俺は他者を見下している様に思えてしまうだろうね)



御門信志みかどしんじ

 そこの風魔以外とは仲良くやっていきたいって思ってる。

 みんな、これからよろしく」



 短くぶっきらぼうに自己紹介を切り上げ、信志は席へ座った。



 その後は流れるように自己紹介を終え、



「一先ず、皆さんは親交を深めるべく会話でもしておいて下さい。

 私は一旦、プリント等を持ってきますので。

 先に言っときますが喧嘩はいけませんよ」



 機械のように冷淡とした態度で、美咲希は教室を後にする。

 その後、信志はすぐに秋夜の元へと足早に接近する。

 そして、そのまま流れるように信志は秋夜の頬を殴ったのだった。



 いきなりの暴行に、秋夜は驚きと怒りは両立するのを自覚した。



「なんだ、無能な父親の代わりに御礼でもしに来たのか?

 構わないが、それこそあの父はますます情けなくなるぞ」



「こ、のぉ……!!」



 信志が秋夜の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

 しかし、それを払い除けて秋夜は信志の、懐へと潜り込み───────



「させるわけねぇだろうがァ!!」



「ぐっ…………!? なんだお前は!!」



 腹部を殴ろうとした秋夜を、横から蹴りを入れる一人の男子生徒。

 その蹴りは秋夜の横腹へと入り、秋夜は机と共に床へと倒れた。



麻生あそう。そこのシンジと一緒でよ、父親がお前のせいで左遷されて死んでんだわ。

 で、お前の自己紹介聞いてマージでぶち殺したくなったんだわ。

 殺すとか無理としても───────少なくとも腕一本は折ってやんよ!!」



 秋夜の問いに答えながら、足が振り上げられる。

 秋夜が身体を翻してその蹴りを回避しようとしたその時だった。


 近くにいた充が、その男子生徒のことを横から蹴り飛ばした。



「ぐぁ……ッ!? テ、テメェ……!!」



「年上が二人がかりで年下を痛めつけようだなんて、随分と情けない真似するじゃないか。

 僕は秋夜とは今日からの付き合いだが、今日から親友なんだ。

 友達がリンチされるのは我慢ならない。だから僕も混ぜさせてもらうよ」



「すまない充……ありがとう」



 秋夜が立ち上がり、信志に向き直る。

 そして、



「続きをしよう御門。

 やられっぱなしは格好が悪くて、後々を考えたら我慢出来ないもんでさ」



 言いながら、信志へと殴りかかった。

 信志は敢えてその拳を顔で受け止め、秋夜に仕返しの一発を食らわせた。



(結構やるな……!!)



 お互い、相手にそんな賞賛を胸の内に秘めて動向を探る。

 その反面、彼らの真後ろで起こっている充と信志の連れの殴り合いは激しくやり合っていた。

 否、やや充が優勢な状況と言ったところか。

 後ろの雰囲気を何となく掴んで秋夜は、自身も流れに乗ろうと信志に仕掛ける。


 手始めに拳を振り、信志の腕を彼自身の顔へ誘導させた後に即座に小さく、それでも勢いよく脛へと一蹴り入れる。



「チッ……小賢しいマネしてぇ!!」



 だが、痛むはずのその脚を信志は秋夜の腹部へと蹴りを入れた。

 よろめいた秋夜だったがすぐに近くにあった誰も座っていない椅子を信志へと投げる。

 信志はそれを躱したが───────懐にまで潜り込まれるのを許してしまった。



「クソッ……お前!!」



「なんだ? 急に殴りかかってきたのはそっちだ、なら卑怯だなんて言うなよ御門……!!」



 言いながら、秋夜は信志の顎へと拳を突き上げる。

 防ぐ術も無い、これ以上身体を動かせば身体のバランスを崩し別の一発を貰うだけ。

 否、そもそもこの一瞬で動かせれる訳が無い。

 信志は、その秋夜の一撃を顎に食らい───────



「何を、しているのですか?」



 そうな寸前で、秋夜の腕が女性の声と共にピタリと止まった。

 声のした方……具体的には教室の入り口へ顔を向けるとそこには。

 背後に阿修羅のような気配を纏った、とても怒っている様子の美咲希の姿があった。

 ……昼間の、そして今も青痣まみれの煉を思い出す、思い出してしまう。

 彼は席に座り、ゲタゲタとこちらを見て笑っていた。



 ───────自然と、四人は汗を滲ませる。



「教室が何か騒がしいとは思っていましたが……若いですね貴方達は。

 今すぐにでも戦場に放り出して、その元気を根こそぎ奪いたいくらいには」



((((ヤバい、どうしよう))))



 恐怖を予感した四人はすぐに言い訳を考える……が、



「言い訳をしてくれてもいいですよ。

 聞いてあげますけれど、聞く気はないので」



 免罪符は与えられず、情状酌量の余地も無いらしい。

 それを知らされた四人は、数秒後には絶望と共に美咲希による拳骨一発という名の罰で沈められていくのであった───────




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「クソ……あの煉ってヤツがどれだけの地獄を味わったのかをプチ体験出来たよ」



 帰り道という名の、寮への移動中。

 ポツリと漏らす秋夜の愚痴に、充も思わず同意したのだった。



「あの姿を見ると彼は何発だろうね……少なくとも十は貰ってそうだ」



「分かる、アレはそのくらいでないと納得できない。

 って考えるとアイツは凄いな。

 俺は十発アレを食らったら多分、死んでる」



 自信満々に秋夜が言う。

 自信満々に言ったところで、格好がつかないのは秋夜からすれば気にしないでいい事だった。

 それよりも、この目の前の少年を少しでも笑かしてやろうと秋夜は大袈裟に言ったのだった。



「ハハ、秋夜が十発で死ぬって言うなら僕は四発で死んでしまうよ」



「嘘つけ、その倍は余裕だろう?」



「冗談。その頃にはもうついでに埋葬されてるよ」



 二人して笑い合う。

 そのまま、くだらない談笑をしながら二人は寮へと向かうのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 秋夜と充の偶然は、さすがに寮の部屋まで続くことは無かった。

 それでも、二部屋しか離れていないのはどういった因果か。

 面白い出会いだ、そう思いながら秋夜は部屋の扉を開け未知なるルームメイトとの出会いを───────



「……よぉ、ゼンゼーに殴られだ仲間だがば



 その青アザを見た瞬間に秋夜は後退り、部屋の扉を閉める。

 その出会いを無かったことにしたのである。

 秋夜は部屋の前で、思考を張り巡らせた。



(何故、何故あのバカと同じ部屋……!?

 しかもアイツ、俺の事を仲間って言ったよな? なんで仲間だ、殴られたからか?

 そんな安直な理由で仲間なんて言うハズないだろう、他になにか理由があるのだろう。

 というか、なんであんな狂犬と一緒の部屋なんだよ首輪は何処だ首輪は!?

 喧嘩とかになったら多分、僕勝てないぞ!?)



 焦り、視線の焦点はズレてしまっている。

 その場で立ち尽くし、悩み尽くした秋夜だが。



「……だんで部屋のぞどだの?」



 普通に、煉に出迎えられてしまった。

 まぁそりゃそうか。仕方ないか。

 そんな諦めと共に、秋夜は部屋へと入っていくのだった。



「よろじぐ……オデはだぢばだ でん

 あどオデ、あのゼンゼーに惚れたがら、応援よろじぐ」



「──────────────なんて?」



 再度、秋夜が驚く。

 それはもちろんそうである。

 なんせ煉が惚れたと言っている相手は当の本人をこんな状態にした張本人であり、

 秋夜達には件の拳骨により、『阿修羅』を連想してしまう程の怪力女であったのである。

 ハッキリ言って感情が飛躍しすぎてて怖い。

 そんな感情を抱かされた女性に、惚れたと言ったのだ。その十倍は酷い目に遭った目の前の狂犬、もとい阿呆は。

 空いた口が塞がらないのを自覚しながら、秋夜は煉の言葉を聞くのであった。


「ふづーにいくない?

 ズダイルも良がっだし……じがもオレよりづよいとかおどぐずぎない???」



「……そっか、頑張れよ」



 秋夜はもう、疲れた。

 タダでさえ急に信志に因縁を付けられたかと思えば急に謝られ、挙句にはこの不良児との同部屋に加え、唐突な脈絡もない恋心のカミングアウト。

 脳はキャパオーバー、感情は消失。

 既に仏同然となったこの少年は、とりあえず応援に付け加え。



「……後で、充を呼んでトランプでもする?」



 親睦を深めようと、煉を遊戯に誘う。

 もういいや、今日はもう楽しい思い出しか作りたくないと本能から出た行動。

 そんな秋夜の言葉を聞いて、煉は無邪気な、太陽のような笑みを浮かべ───────



「やる!!やりだい!!!!」



 こくこくと頷いて、その誘いに乗ったのであった。



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