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ノクス・トラジェディー  作者: 桜 hiro
二章 『桜の元に集まる少年少女』
6/16

兎の影が重なる少年

今回ちょっとギャグ(?)入ってます。

あまりに重たすぎるのばっかりだと私自身が胃もたれしちゃうので

「煌月に監視されている……?

 なんだ、君の親は大犯罪者だったりするのか?」



 怪訝な表情を浮かべながら、秋夜が充に訊ねる。

 秋夜の問いに、充は顎に指を当てて少し考えるような仕草をした後に、



「……悪いけれど、素性は伏せさせてもらうよ。

 けれど、君の推察通りではあるね。

 母親がたまたま黒鳥様と知人だったようで、彼に助命をお願いした結果、僕は助かったらしい」



 そう、憂いげに微笑みながら答えた。

 その敵意が微塵も無い笑顔に、秋夜は何処か冬華のような純粋さを重ね煌月充は信頼に足る人物なのだろうと本能で察知し、友好を築こうと思った、思ってしまったのであった。

 その為にはまずするべき事は一つであり、すぐに行動に移した。



「すまない……冬華になにか、例えば嫌がらせとか、監視をしていたりするのかと君に少し警戒してしまい、少し乱暴な事をした。

 だけど、君の笑んだ表情はどこか冬華に似ていた……そんな冬華と似た雰囲気を持つ人がそんな事、する筈が無い。

 先程の無礼をどうか、許して欲しい」



「気にしなくていいよ、元々これは勘違いさせてしまった僕が原因だし。

 黒鳥さんが、君と僕は同じ12歳だって言ってたし仲良くしようよ、風魔くん」



(やっぱり同年代だったのか。

 ……充だったか。コイツとはいい関係が築けそうだ)



 秋夜が笑みを浮かべ、充の言葉に返事をする。



「あぁ、同じクラスと言わず君とは仲良くしていきたい。

 あと呼び方は、秋夜でいいよ。

 俺も、勝手だけど君の事は充と呼ぶから。

 充、改めてこれからよろし───────」



「オイ、校門前で新入生っぽいのが先輩をボコボコにしてんぞ!!」



 言い切る直前、それは二人と同じ新入生の言葉により阻止された。

 あまり穏やかでは無いその報せを受けて、二人は顔を合わせた。

 先に口を開いたのは充だった。

 そのオッドアイをキラキラと輝かせているのを見て、秋夜は充が何を言うのかは嫌なほど悟れてしまっていた。

 何故ならば、その瞳は道に遭遇した冬華が自身を誘う時に使っていた瞳と同じであるから。



「見に行こう秋夜!! 入学早々、喧嘩をするなんてことをする奴がどんな顔なのか、興味がある!!」



「なんか、その冬華みたいな目を向けられた時から言うと思ったよ……

 あぁ、別にいいよ。

 ソイツの顔を知っとく事で、極力接触を避けれるのは俺としては有難いしね」



 そんな憎まれ口を叩きながら、秋夜は充と共に校門前まで戻ることとしたのだった。





 校門前では、一人の少年が青年とも形容できる身体付きの男子に一方的な暴行を行っていた。

 青年は身体をくの字に曲げ、頭だけは殴られんように手で覆い隠していた。

 少年は、髪の側面を刈り上げ、派手な金に染めており、更には両耳にピアスを着けていた。

 それだけで不良児なのは分かりきっているというのに、教師に対して挑発のつもりか征鬼軍の制服を身に付けずに、まさかの短ランとボンタンを身に纏っていた。

 そんな不良児を見て、秋夜はただ一言。



「アイツ……馬鹿なのか!?」



 その一言に、不良児に対する感想を込め尽くしたのだった。

 この征鬼軍の訓練校は規定に恐ろしく厳しい。

 一体どのような仕打ちを食らうのか分からない。それこそ、何度も死にかけた羽目になった生徒がいたと兄から聞かされるほどには末恐ろしいものである。

 それを知らずか知ってていてか。

 どちらにせよ、その格好をしている少年に対して秋夜が表せれる精一杯の本音が思わず漏れ出てしまったのであった。

 秋夜の罵倒は確りと耳に入れた不良児は、秋夜の方へ鋭く敵意が満ち満ちた視線を向ける。

 その茶色い瞳には明確な殺意が刻まれており、秋夜はしまったと自身の失言を悟った。



「おいテメェ……今オレん事バカって言ったのか!?

 確かにオレぁ算数のテスト赤点しかとったことねぇけど漢字テストはいっつも満点だったんだぞ!!

 テメェもコレと同じことしてやろうか、アァ!?」



 秋夜に言い迫る不良児は、更にコレと呼ばれた先輩男子の腹部へと蹴りを入れた。

 腹部に蹴りを喰らい、男子は耐えきれずき込んでしまう。

 その様子を見て、不良児は勝ち誇った様に笑みを浮かべた。

 なんて答えようと考えていた秋夜だったが、不良児は直ぐに狙いを元に戻したのかその男子に再び暴行を加え始めた為、言い訳をしなずに済んだことに、ほっと胸を撫で下ろした。



「センパイよォ……よくもオレの髪型が校則違反だからって坊主にしろとか言いやがってよォ!!

 よーーーーくみたらテメェの髪型もオレからしたらコーソク違反だからよ、今からセンパイの髪の毛を刈ってやるよ。

 バリカン取りに生活指導室せいしまで行ってくるから、ちょっくらそこで気絶しとけや!!!!」



 そう言うと不良児は先輩男子の頭部へ目掛けて踵を振り落とそうと───────



「貴様、何をやっているか!!

 あとなんだその髪と装いはァ!!」



 したのだが、騒ぎを聞きつけた教員の一人が駆け付け、不良児は発された怒号を聞いて脚をピタリと止めて、地面へとゆっくり下ろした。

 不良児はニヤリと、無邪気さと凶暴さを兼ね備えた笑顔を教員へと向ける。



「アンタ、センコー?

 なんかゴリラみてぇだから一瞬気付かなかったわ!!

 まぁ、センコーならちょっとバリカン貸してくれよ!

 ここにいるナマイキな先輩をボウズにすっからよぉ!!」



「巫山戯た格好だけでなく舐めた口まで叩きやがって……生意気なのは貴様だろうが!!

 いい洗礼だこのクソガキが、覚悟しろ!!」



 教員はあまりにも狂っている、舐めきっている不良児に怒り腰に装備していた警棒を手に取る。

 先程までの先輩男子と全然筋肉量も違う、明らかに実力が乖離している。

 それは誰もが思った。秋夜でさえも、この不良児は直ぐにでも取り押さえられてしまうだろうと思っていた。

 身の程知らず。

 そう、全員は不良児に印象を抱いた。

 しかし、それでも不良児は笑みを浮かべて教員に手招きをする。

 とっとと来いと、態度と仕草がそう言っていた。

 勝てる要素など何処にも無い、無謀である。

 そう全員は

 思っていた───────その不良児が何かを呟き始めるまでは。



「“襲来”“蒼帝そうてい”“東の神”

『青龍の三・疾風はやて翔堕しょうつい』」



 唱え終えた刹那、強風が吹き荒れると共に教師の身体が風によって上へと拐われた。

 1mほど、浮いた途端に風は吹き終わり──────教師は背中から地面へと堕ちたのであった。



「うグッ…………おぉっう…………!!」



 教官の口からは苦悶が漏れ出る。



「なんだセンコー、オレに勝てると思ったのかよ!!

 オレぁなァ……こう見えて呪術の天才なんだよぜ!!」



 自慢げに、勝ち誇った笑みを教師に向ける。

 ───────更に自身とこの男の差を見せてやろう、そんな考えが分かるような笑みを浮かべながら、不良児は更に唱え始めた。



「”解呪“”天市垣てんしえん“”中子星なかごぼし””幸運の天之四霊てんのしれい“”孟章せいりゅう“……『青龍のとが転移てんい』!!」



「な、それは───────!?」



 教官が目を見張り驚き、不良児が詠唱を終えた次の瞬間、異空間へと繋がる『門』が発生される。

 不良児はその中へと入ると、門は姿を消した。

 どこへ行ったのか、教官は周囲に視線を配らせる。

 しかし、不良児の姿には何処にも在らず。

 ただ、不良児がいたという事実のみが有った。

 不良児の唱えたモノ、それは秋夜が風魔の家で予習していた鬼に対抗する為の方法の一つであった。



(鬼には行使できない力……呪術。

 その中でも異質な存在である禁呪きんじゅ

 アイツは今、それを唱えたっていうのか!?

 こんなヤツがいる中で、俺は学年首位を取り続けなくてはならないのか?)



「───────面白い、そうじゃなきゃ俺は俺自身を有能であると証明できない」



 押し寄せた不安を無理やりやる気、自身に変換し、秋夜は不敵な笑みを浮かべて呟く。

 彼の赤が混じった小暮色の瞳は爛々と輝き、これからの未知なる存在に心を馳せるのだった。

 そして、勇み足で再び校舎の玄関へ向かうその時。



「───────待って!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……アンギャアアアアアアアアアアアぁぁぁ…………!?!?」



 …………先程の不良児と思わしき、あまりにも情けない悲鳴を聞き、彼の膝はガクりと崩れてしまう。



(イヤ、本当になんて情けない叫び声を出すんだアイツは……!?)



 そう、心の内で呆れ果てながら秋夜は溜息を一つ零しすのであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 無事、入学式は終わった。

 緊張しているのが一目見て分かる入学生達。

 これから、一体どんな日が待っているのだろうか、どんなに厳しい日が待っているのだろうか。

 恐怖と、期待。

 その苦難を乗り越えた先、成長する自分はどんな姿であるのだろうか。

 そして教官はどれくらい厳しいのだろうか。

 緊張は、刻々と膨れ上がっていくのだった。




 そう……であったハズだったが。



「───────ずびばぜんでじだ」



 壇上に立たされているのは一人の生徒。

 先程まで先輩の男子生徒を徹底的に痛めつけ、教師に舐めた態度をとっていたあの不良児である。

 その茶色い瞳は青あざと大腫れで膨れ上がった目蓋で隠れてしまっており、更には両頬も腫れ上がっていた。

 そんな、漫画かのような見てくれに全員が吹き出すのをこらえる事に思考を固めてしまっていたのだった。

 それは当然、秋夜や充も同じであった。

 隣接した椅子で、秋夜は天井を仰いで不良児の顔を見ぬようにし、充は下を向いて視界を緑のカーペットと己の靴のみのみにしていた。




 ───────コツコツと、ヒールが床を踏む音が響く。

 壇上には、不良児とは別に居たもう一人の女性が不良児へと距離を詰めた。



「何に、対してすみませんかを言いなさいたちばな れん訓練生。

 先輩生徒に生意気な態度及び暴行行為。挙句は教官に巫山戯た態度を取った後、女子更衣室に潜入して申し訳ございませんでしたと」



 ニコリと、笑みを見せて不良児───────橘煉に迫る赤毛の女性。

 拳は煉を殴ったからなのか、皮が剥けていた。

 煉はその女性に酷く怯えた様子で、先程までの狂犬ぶりは何処へやら。

 今、この状態の煉はただひたすらに命の危機に瀕した子鼠同然だったのである。



「ごべんなざい美紗希びざぎゼンゼー……言いばずがらほんどでぃゆるじで……

 ぼぐは、先輩ぜんばい生意気だば言っでゼンゴーにチョーしごいでデギドーな場所ばじょに逃げたら女子更衣室じょじごういじづ美紗希びざぎゼンゼーの着替ぎがえでる姿ずがだを覗いでじまいばじだ」



 その姿はまさに命乞いであった。

 その命乞いを聞き届けた美紗希、と呼ばれた赤毛の女性は笑みを浮かべたまま煉の頭に拳を叩き込んだ。

 ガン、とまるで鉄の塊で頭を殴ったかのような擬音が響き渡る。

 煉はその一撃を食らってしまい、即座に気を失ってしまうのだった。



「最後のは不必要でしたね。

 さて皆さん……今後、この生徒みたいにならないように先輩生徒に対し確りと敬う態度をもって接するようようにしてくださいね。

 以上、私……齋藤さいとう美沙希みさきが貴方達、新入生への心構えを注意させていただきました」



 一礼した後、気絶した煉の襟を掴み、床に引き摺りながら美紗希は壇上を後にする。

 齋藤美紗希、そう名乗る女性の事を秋夜も充も把握していたのだった。



「齋藤美紗希……? 確か、二年ほど前に三重県の半分を鬼から取り返した女傑だったはず。

 結局は鬼にまた取られたけれど、当時、かなり話題になっていたな。

 教員になる道を選択したのか……彼女が?」



 だが同時に、秋夜は胸に生じた疑問を吐露する。

 事情を把握している充の表情には、何処か翳りが宿されていたのだった。



「…………暗いトンネルの中なんだよ、彼女は」



(トンネルの中…………何か心に傷を抱えたのだろうか?)



「……まぁいいか、また今度調べるようにしよう。

 それよりも……同じクラスとは驚いたよ。

 影でこっそり仕組まれたのかな、それとも本当に偶然なのか。

 気にする必要は無いか。これからもよろしく、充」



「運命なんだよ。僕と、君の出会いは。」



 充の言葉に、秋夜は柔らかな笑みを浮かべた。

 そうして二人は教室へと向かい、席に座る。

 担任の教師がやって来るまでの間、クラスの面々は新たな出会い、元々の知り合いとの談笑に花を咲かせる。

 秋夜も、想い人である冬華の日頃はどうしていたのか充に訊ねたり自身が黒鳥と交わした約定を話したりし、時間を潰していた。


 そうして───────ガラリと戸を引き教室へ入るのは先程の赤毛の女性、美紗希であった。

 片手は未だに気絶している煉を引き摺っていたのであった。



「さて……まずは皆さん、自己紹介から始めましょうか」



 そんな煉を、教室に入れた瞬間手から離して美紗希が教壇へと立つ。

 入学生式の時はにこやかな笑顔で隠していた、紫紺の瞳が生徒達へと向けられる。

 何処か、酷く冷たいその瞳は、こんなにも楽しかったこれまでを。

 これからは辛く、厳しいものであると告げているようであった。





橘煉くんは気が向いたら書く予定の外伝主人公でもあります。

暫くはこうやって新キャラを小出ししつつ時代背景や諸々の設定等を少しずつ明かしていく予定です。

それまで「?」なところがあるかと思われますが、お待ちいただきますと幸いです。


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