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ノクス・トラジェディー  作者: 桜 hiro
二章 『桜の元に集まる少年少女』
5/16

地獄から

おまたせしました、二章の開幕です

 ───────広間から退出した後、丸吉は歩き続く。

 黒衣の男達はその後を歩き、腰に差している刀の柄を握っていた。

 いつでも殺せれるように、彼等に染みつかれたその思考が自然とそうさせていた。

 対して、丸吉は何時でも刺せばいいと言わんばかりに無防備であった。

 秋夜に見せた水の球状を出す素振りもない。

 一言で言えば不気味、それが黒衣の彼らがいつまでも刺せずにいた原因であった。

 一階の広間から上へ上がり、二階へと続く階段へと登り、その踊り場に着いた時に丸吉は足を止めた。



「……なんだ、刺さんのか?」



 そして煽るように黒衣の男たちに言う。

 毅然とした態度、その煽りに彼らは苛立ち直ぐに刀を抜いた。

 ようやく自慢の牙を見せた事に丸吉は笑いながら、彼らに視線を配らせた。



「ようやくか……遅かったな。

 お前達、最期に一言だけいいか?」



 丸吉の問いに、苛立ちを募らせたまま男達は



「…………早く言え」



 促したのだった。

 丸吉はこくりと頷き、息を吸い───────



「私にはまだ、この徽章がある!!

 煌月玄人様より賜りし、彼の右腕としての地位を証明する為のこの徽章が!!」



(蒼龍……貴様がこれを取らずに私を広間から出した真意は知らん……だが、この機会を有難く頂戴しよう!!!!)



 丸吉は言葉を、続けた。



「この徽章の元に、高らかに宣言する───────私は、風魔秋夜の飛び級入学に同意し、そして卒業した暁には彼を次の征鬼軍総統補佐である風魔蒼龍の秘書へ配置させると!!」



 朝日と、金色の葉があしらわれたその徽章を見せて丸吉は犬達に告げる。

 その宣言は、今は処刑人として番犬として機能している彼等にとってはこの上なく目障りなものであった。

 何故なら、彼らもまたそのポジションを狙っていたから。

 処刑人として耐え抜き、ある程度の能力を持つ者はその地位へと上り詰めることが出来るのだ。



「貴様ァ…………死ぬ寸前の、風前の灯の分際でぇ…………ッ!!」



 真っ先に丸吉を刺したのは、先頭にいる男だった。

 それに続いて、彼等は只管に刺し貫く。

 これ以上、丸吉に無駄な事を言わさないように。

 そして、丸吉の言ったことを自身達の中で終わらせようと証拠の隠滅に走ったのだった。

 刺される中、激痛が走りながらも丸吉は笑みを浮かべ、



(さぁ食え……下品な犬共、もとよりそのポジションに付けると、甘い言葉に釣られて今の立場に成り下がった犬畜生共が。

 使い潰されるだけと気付けぬ間抜け共に与えられるポジションなど、あるハズないだろう!!

 我が身は毒…………それを気付ける馬鹿共は何人か、地獄で見てやろう)



 犬達を嗤う。

 死を迎える寸前、彼は先程の秋夜の言葉を反芻させた。



(『戦争を終わらせる』……か。その素質は確かに君にはある。

 風魔秋夜……貴様の行動もこの私が、この森丸吉が見守ってやろう!!)



 怒りを込めて、犬達は刺し続ける。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何故も。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も───────


 50を超えた辺りから彼らは壊れた玩具のように、只管に刺していた。

 もう既に死んでいる丸吉に目をくれずに、下品に獰猛に、狂うように、遊ぶように。

 彼らは、只管に刺して与えられた仕事を堪能したのだった。




 その全てを、”彼“が見ていたのを知らずに、無様に───────




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 広間では、残された御門が力無く立ち尽くしていたが、やがて地面に膝を着けた。

 彼は森丸吉の護衛という、重要な位置にいてはいた。

 しかし、その森丸吉が処刑される事により自身の立場が今、非常に不味い事となっているのに気付いたのだった。

 甘いボディチェック、考え無しに発砲をしようとした事、そして丸吉が連れて行かれたのにそのまま放っておいたこと。

 その全ての事実が御門に絶望を、焦燥を与え。希望を、平静を奪っていく。


 そんな状態で、よせばいいのに彼の中で頭がこんがらがり、これからの行動を模索する。



(あのガキを殺す、風魔蒼龍を殺す?

 いや、ダメだダメだダメだダメだ…………!!

 どうしよう、私には、姉から預かる事となったあの子を育てないとダメなのに、あの子を、守ってやらねば……あの子から離れるわけにはいかないのに…………!!)



 思わず頭を抱え、地面に額を押さえつけて御門は思考する。

 そんな無様な姿、笑われて然るべきである。

 しかし、この場で笑おうと思える者はいなかった。

 何故ならば、彼らもまた秋夜という一人の少年に弄ばれた存在。

 寧ろ、手痛く、そしてこうもコケにされた御門を同情する者達すら居た。

 だが、例外はいるものだ。



「────────────無様だな、御門少尉」



 鼻で笑いながら、黒鳥は御門に言い放つ。

 御門は顔を上げ、黒鳥と視線があった。

 玉座に座り、自身を見下すように嗤う黒鳥に怒りを覚えた。

 しかし、直ぐにそれはマズいと思考を切り替えた。

 弁解の言葉を思案するそんな御門に黒鳥は───────



「安心しろ、お前如き殺す価値すらない」



 まさかの言葉だった。

 しかし、それはこれ以上はない程の凍てついた言葉でもあった。

 玉座から立ち上がり、玄人は広間から退出する。

 その去り際に、



「やはり、貴様に護衛としての価値はない。

 これからは一兵として、戦場に立つようにしろ。

 遺書は書いておけ。お前の遺書すら、何も無いのではお前の義子が可哀想だからな」



 それだけ言い残し、玄人は広間から姿を消したのだった。

 凍てつき、絶望の現実を実感し御門は「ごめんなさい」とだけ呟いた───────。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「まったく……今日は忙しい」



 広間から出た黒鳥が呟く。

 彼は確かな足取りで、二階の踊り場まで向かう。

 其処が、処刑場となっているのは承知の上であった。

 無惨な姿となった丸吉の死体が転がっていた。

 その丸吉を囲うように黒衣の犬達は立っていたが、黒鳥を姿を見ると直ぐに横に整列し彼に敬礼した。



「黒鳥総統!!

 この通り、処刑させていただきました!!」



「そうか……何か、最期に丸吉は言葉を遺したか?」



 犬の報告など、今の黒鳥には興味が無い。

 彼にとって今、重要なのはこの犬達の価値であった。

 そんな事を知らない、この犬達は───────



「いいえ、何も言っておりませんでした!!」



 丸吉が最期に遺した毒を、見事なまでに、間抜けに全て飲み干してしまっていたのだった。

 黒鳥は思わず溜息を零す。

 深い、深い絶望、失望。

 それらを孕んだ、感情と共に溜息を零す。

 そして、歯を噛み締めて犬達を睨む。



「あ、あの……どうされましたか、総統?」


 恐る恐る、犬の一人が訊ねる。

 しかし、黒鳥にとってはもはやそれ自体が不愉快で仕方がなかった。



『名と魂に刻まれた命を遂行せよ。鬼達の頭目───────呑み干せ。初代・酒呑童子』



 命じ、その名を呼ぶ。

 するとどこからとも無く黒鳥の手には死神の鎌と呼ぶに相応しき、巨大な鎌が現れた。

 思わず瞳孔すらも開きながら、彼等は狼狽える。

 黒鳥に命乞いを、抗議を視線で示す。

 しかし、その命乞いは死神にとっては意味の無い。

 その鎌は横一閃し、彼等の首を斬り飛ばしたのだった。



「私は言ったはずだ……森丸吉が、昔の器を取り戻したなら生かせと。

 犬と言っても、所詮は駄犬共であることは承知のつもりであった……が、しかし少し想定以上だったな。

 私の目は誤魔化せん、何故ならばこの建物自体が私の目であるからだ。

 死体共、それを覚えて逝け」



 刃に着いた血糊を空振りして払い、玄人はその場を離れた。


 自室へ戻る道中、玄人はふと秋夜を思い出す。

 広間で見せた力を思い出し、彼は笑む。



「その・・・を楽しみにしているぞ……有能を示し続けなければ死ぬのみの、弱肉強食の正義の世界を生き抜き、世界をひっくり返すその姿を───────」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ごめんね……アキ、わたしが、わたしのせいで……また、無茶させちゃって……ッ!!」



 拘束が解除された冬華が、秋夜の胸元へ駆け寄る。

 只管に涙を流す少女を、秋夜は優しく抱き締めて答えた。



「いいよ。僕は、君のおかげで……君が外へ連れ出してくれたおかげで思ったより世界が悪くないなって思えたんだ。

 全部、君のおかげなんだ。

 だから、僕は君を助け続ける。

 あ、けれど…………これに懲りたらもう知らない人から本を受け取ったらダメだよ冬華」



 秋夜は彼女の親のように諌め、背中をゆっくり摩ってやる。

 冬華が泣き止むまで秋夜はずっと、優しく摩り続けた。


 そうして数分泣き続けた冬華が、顔を上げて秋夜と目が合う。

 やはり青アザだらけのその顔は一体何があったのか、訊ねようと───────



「顔は気にしないで。

 これは、父と喧嘩しただけだから」



 したが、秋夜自身がそれを阻んだ。

 決して君は悪くないと、秋夜が暗に言う。

 しかし普段は簡単に騙されてしまう純粋な冬華だったが、今回だけは秋夜の嘘を見抜いた。

 ………だが、だからと言って何かを言えるわけでも無かった。

 そんな、残酷に彼の優しさを踏み躙る真似などしたくなかったから。

 冬華はぎこちない笑顔を、秋夜へと向けるのだった。



「……そっか、あんまりお父さんとケンカしちゃダメだよ?

 わたし、お父さんもお母さんもいないから家族がどういうものか分からないけれど。

 それでも、家族って仲良くするものなんだって知ってるんだから」



「…………そうだね、気を付けるよ」



 少女の言葉を受け、秋夜は困った笑みを浮かべながら頷いた。

 そのまま、少女の手を引いて歩き出した。



「そろそろ、出よう。

 こんな薄暗い所にいても、気分が沈みっぱなしなままだよ」



「うん……本当に、ありがとうねアキ」



 地下へ出るべく、二人は歩き始めた。

 その道中、二人の会話は絶えることな無かった。



「そういえば僕、来年から軍校に入るんだ。

 兄と姉さん一緒で、中学校を飛び級しての入学だってさ。

 悲しいけれど、冬華とはあと1年しか遊べない。

 だこど、その残されたあと1年は2人で遊び尽くそう。

 今日は色々と忙しい思うから、また明日から遊ぼう。」



「忙しい…………?」



 あぁ、と頷いて秋夜は冬華の置かれた状況の説明を始めた。



「君は煌月の人に引き取られる処分になったんだ。

 君が本当にあのテロ集団……平和主義連合の人間では無いのかを確認する監視役としてね」



「そうなんだ……ちょっと、残念。

 けど、今日くらいは我慢しないとバチが当たっちゃうか」



「これ以上、君にバチなんて当たって欲しくないね」


 冬華の、冗談を一蹴する。

 それと同時に、気付けば二人は地上へと繋がっている階段へと到着した。

 そこには、二人を冷ややかな眼光で見下す蒼龍の姿があった。



「……着いて来い、因幡の女。

 黒鳥様が待ちくたびれている」



 威圧的な言葉に冬華に恐怖を抱きながらも、ズカズカと彼の側へと歩み寄る。

 不愉快そうに眉を顰めながらも、少女へと視線を向け続けた。

 そして、彼女から放たれる腰への一蹴りを受けたのだった。

 ポスンと、か弱い音がその地下牢に響き渡る。

 受けた後、蒼龍はただ一言。



「……生意気な女だ」



 忌々しげに呟いて、蒼龍が背中を向け階段を登る。



(…………なんで、この人は冬華の蹴りを食らったんだ?

 いいや、今考えても答えなんて出ない。

 気にせずに着いていこう)



 言われるがまま彼の後を追う二人。

 重苦しい沈黙に耐え切れなかったのだろうか、冬華は蒼龍に訊ねた。



「あの、なんで……私に蹴られちゃったの?」



(冬華もやっぱり気になるんだな)



 内心で思いながら、秋夜は蒼龍の方へ視線を向けた。

 数秒の沈黙の後、彼は重い口を開いた。



「……お前の父と叔父は、私が殺したからだ。

 せめてもの貴様に対する罪滅ぼしとして受けた迄だ」



 蒼龍の言葉に、冬華は衝撃を受けていた。

 否、秋夜も一瞬だけ同じく衝撃を受けた。



(初めて聞いた事だった。

 こんな時代になる前に僕たち、風魔の家業が呪術を用いてた罪人の処刑を秘密裏に行っていたことは知っていた。

 ……けれど、当然と言えば当然だが。

 父が殺した相手の事なんて聞いた事なかった)



 視線を冬華の方へ向ける。

 その顔は、明らかに翳りを見せていた。



(まぁ、やっぱりショックだよな……)



「そう、なんだ……」



 冬華は自身のワンピースのスカート部の端を握りながら、下唇を結びながら下を向く。

 なんて声をかけようと、秋夜の脳内は思考する。

 やがて、その思考をしている時点で答えなんて出て来ないと悟った秋夜は自身の無力さにもどかしさを覚えた。

 そしてふと、冬華の手を握ろうと思い少年は少女へと手を差し出す。

 深紅の瞳は、僅かに揺れた。

 顔に熱が籠る感覚があるまま、少女は少年の手を握り返したのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 兎のような少女と、内に勇気を秘めたる少年は残された一年という長くも、短くも感じられる時間共に遊び、学んだ。

 他の子供たちからすればどうでもいいような時間すらも宝物と感じれるような、眩い記憶。

 それを脳裏に少年と少女は刻み、

 少女は少年の無事を、少年は少女を救う事を胸に秘めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして、少年が軍校へと入学する当日。

 桜が散る、その様子を校門前の数多の少年少女は見惚れていた。

 皆、三つ年上というのもあってか秋夜は他の者たちよりも小さくはあった。

 しかし、その場にいる誰よりも秋夜は闘志に満ち満ちていた。

 空を舞う桜の花びらを見ることなく、少年は校門をくぐり抜けて教室へ向かう。


 玄関の靴箱、そこには先に靴箱に居た生徒が一人居た。

 背丈は秋夜と同じくらいで、顔も幼さを残している。

 赤銅色の右目を、隠すように伸ばされた前髪と月色の左目。

 その珍しい風貌に秋夜は驚くと同時に、確信と疑問を抱くのだった。



(間違いない……僕と同じ鬼との混血(ハーフ)

 けれど何故だ……、ハーフはそもそもとして存在を認められていなく、存在が確認されれば即刻処分対処になるハズ……!!

 俺は、風魔の家だから許されている。彼は……コイツは何処の家だ!?)



「いきなりですまない、君の名前を聞かせて欲しい……その瞳が気になってしまってさ」



「あぁ、赤目がかい?

 ……そりゃそうだね。君も僕もどうやら同種(なかま)なんだ、名前は覚えておきたいよね」


 そう言いながら、彼は秋夜へと身体ごと向きを変えて自身の名を語る。



「僕の名前は煌月(こうづき) (みちる)

 今は訳あって、煌月の名前を貰ってる。

 ……君は聞かなくても分かるよ、風魔秋夜。

 冬華ちゃんからよく聞かされていたからね。

 これからよろしく」



 柔らかな微笑みを浮かべ、少年は秋夜に差し伸ばす。

 伸ばされた手を、秋夜は内心では『思いっきり握ってやろうか』などと嫉妬混じりの嫌悪を抱きながら握り返す。

 秋夜が充の手を握った瞬間、充を思い切り引き寄せて秋夜が小声で訊ねた。



「お前は冬華とどういう関係だ?

 彼女の監視役か、それとも───────」



 惑わす者か、そう訊ねる前に充は秋夜の方をポン、と叩く。

 そして、



「彼女と一緒で、監視されている立場さ。

 よろしくね、秋夜くん」



 そう、妖しく微笑むのだった───────

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