白星
秋夜に魂装具が渡る数分前のこと。
蝦夷の相手を秋夜に任せ、教室に勢いよく入ってきた充。
そんな彼を、鬼達は侮りと嘲りの笑みと共に出迎えた。
鬼達からすれば半端者である充は、殴り放題のサンドバックに等しく、それが自ら飛び込んで来ただけなのだ。
「おいおい、自ら死にに来たぞコイツ!!」
「この結界をどうしようか考えていた所に来てくれたんだ、嬉しいぜぇ!!」
「殺して、とっととこの結界解いちまおうぜ!」
嬉々として、自身を殺す為に武器を構える鬼達に充は溜息を零した。
目の前にいる自身との力の差を把握出来ていない愚かな鬼たちに呆れ果てたモノだと鬼達は理解していなかった。
「……悪いけど、君達に殺されてあげるわけにはいかないんだ。
手早く済ませてもらうよ」
短刀と、古びた拳銃の呪装具を握りながら鬼達を睨む。
明確な闘気を感じた鬼達はその手にある刀を強く握り直し───────
「ほんじゃあ、さっさと死ねやい半端モンがァ!!」
充と最も近くにいた、金髪の鬼が刀を振り上げた。
そんな鬼を見ながらゆっくりと充は口を開く───────
「我抱く、祖国への憂いを。我抱く、宰相達への疑念を。
心中する心は決めた。臣従せし主も定めた。
錦の御旗を掲げよ、真なる旭を空へと捧げよ。
全ては我らが皇道の為に。覚悟を示せ───────二六」
二六、そう呼ばれた九四式は禍々しい紫雲を放ちながら弾丸が射出される。
何の変哲もない弾丸に、鬼は笑みを零す。
「ヘッ……なんやそれ、そんなチンカスなの弾くだけやでぇ!!」
言いながら、鬼が弾丸を弾く。
充が、まだ幼い子供というのもあってか鬼の中には完全なる油断が生まれていた。
故に、見落としていた。
彼が今、煌月の名……鬼達に地獄を作り、苦しめ続けた一族の名を頂戴していることを。
「楯三孫六」
名を呼ばれた短刀は旭の様な煌めきを放ちながら、熱を帯び始める。
その刀身の熱は離れている鬼すらも感知出来るほどだった。
(このガキ、最初の射撃は大した事ない思わせる為のワナやったんや……!!
アカン、一旦下がらな…………!!)
直ぐに危機を察知して、後退しようと足を動かしたが───────
「逃さないよ」
冷ややかな声と、熱波が放たれる方が速かった。
その熱波は金髪の鬼の身を襲いながら、皮膚を、肉を溶かしていく。
金髪の鬼は叫ぶ間もなく、息絶えてしまった。
その少しした後に熱波は鎮まり、それと同時に充の腹部は赤く滲み始めた。
(……この呪装具の副作用はやっぱり割と重いんだよな!!
なんだよ、腹が開いていくって!?
黒鳥さんも変なの押し付けてきたなぁ!!)
滲む傷みを堪えながらも、黒鳥への愚痴を脳内で吐露しながら続け様に熱波を宿らせる。
(───────もう一度、この刀の能力を使うか!)
「辞めておけ充。
お前をここで死なすのは惜しい」
何も考えず、否。
本当は理解しながらも理解してないフリをし、充が再び口を開いたその時に彼を止める男の声が響いた。
その声は凛としていて、圧がありとても冷ややかだった。
春を冬であると錯覚させてしまうほどに凍てついているその声の主は、充はよく知っている男だった。
灰色の長髪。黒のロングコート。
そして赤黒く禍々しい刃の鎌は、その場の全ての生物に死を感じさせた。
その鎌を持った男は昔、鬼達に呼ばれる渾名があった。
それは───────
「し、死神……ッ!?」
死神。煌月黒鳥は、そう恐れられていた。
窓を覗くドローンに視線を刹那的に向けながら、その鎌を鬼達に向けた。
「黒鳥さん……!?
どうしてここに、いや。どうやってこの中に入って来たんですか!?」
「《《禁呪》》だ」
短く答える黒鳥。
充はなんの禁呪かは分からなかった。
しかし、その得体の知れなさに若干の恐怖を抱くのだった。
「さて───────始めようか」
黒鳥が呟いた直後───────1番離れた位置にいた鬼2人の身体は斜めに切断されてしまっていた。
何が起きたか分からない瞬殺に、鬼と充は目の前の死神に答えを求めるように視線を固定させた。
「何を驚いてる? 何を呆けている?
お前達は目の前にいる私を誰か分かっているはずだ。
その名を口にしたのだから、この鎌を見たのだから。
これが、1人で鬼を……否。
人類を滅ぼしえる男の実力というだけだ。
脳に刻み、そして走馬灯の最後に焼き付けるといい」
告げると同時に、鬼達は上半身と下半身の間から勢いよく鮮血を吹き出させた。
恐ろしい速さで彼等を斬り裂いた、それを理解していたのはモニター越しでその様子を見ていたのは、視界で捉えれたのは大嶽ただ一人だけであった。
「充、怪我を治して服を着替えなさい。
本来ならば私はこの騒動に手を加えるつもりも無かった。
だが、君がそれを無闇矢鱈に振り回すのを予測してね。思わず『転移』を使ったよ」
「いや……それは可笑しい。
禁呪は本来、安倍晴明が施した封印の儀により一人の人間しか唱えれない筈です!!
それを、それを貴方が唱えれるのはおかしな話だ……だって、転移は──────」
「橘 煉より前の転移の保持者は私が殺し、この鎌の餌となった。
それだけだ」
その言葉に、充の恐怖はさらに深まった。
目の前の男に対してどう思えばいいの分からない。
化け物か、恩人か。
あるいは、それこそ死神か。
そんな迷いを察してか、黒鳥は笑みを浮かべながら答えた。
「私の事はゲームマスターと思えばいい。
全ての流れを統括し、修正する。
そしてここでの君の死は修正しなければならないと判断したんだ。
───────その刀は1度使えば深く腹が割れ、二度目を使えば臓物が零れ落ちる。
教えなかったのは君の思考力を鍛えたかった。
……君はたまに考えずに行動する時があるからね。
1度目でこれなら2度目はどうなるか。
どうして考えれなかったのは……やはりあの集団のせいか?」
黒鳥の言葉を理解した刹那、充は先の別教室での事を思い出した。
破裂し、四散し飛散する悲惨たる鮮血の景色を脳裏で再生させてしまい、堪えきれずに吐き気を催す。
そんな充にお構い無しに、黒鳥は優しくも冷徹に続けた。
「甘えだ、君のその甘えはいつか最悪な形で返って来る。
……母親から与えられた人生だ。不幸なき道を選んでほしい。
ましてや、君を若いうちに死なすようなことはしたくない」
真剣な眼差しを充へと向ける黒鳥。
しかし、充にとってその視線は呪いを掛けにきているようなものだった。
思わずその視線から逃れようと顔を背ける充に、黒鳥は力ない笑みを零した。
「───────あまり死にたがるなよ小童。
貴様が死のうともこの私が常に馳せ参じ、邪魔をする。
そのような、貴様の下らぬ我儘なんぞ許す訳にはいかないからな。
それとも、お前の新しく出来た友人達を殺せばいいか?」
言いながら、黒鳥は自身の目の前に異空間の裂け目を創り出す。
その裂け目に向かって、いつの間にか手に持っていたナイフを数本、投擲した黒鳥はすぐに充へ笑顔を向けた。
「……脅しはこの程度にしよう。
さて、私はここで退散させてもらおうか。
先程も言ったが、あまり干渉はしたくないからな。
───────全ては来る日のために」
「…………ありがとう、ございます」
充が礼を言いきる前には黒鳥は姿を消していた。
一人残された充は、一瞬だけ歯を軋ませそして服を着替えて剣を持って教室へと出る。
そして、回収したその剣を秋夜へと投げたのだった───────
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秋夜が剣を受け取ったその刹那。
蝦夷の視界でも捉えきれない音速の一太刀が奔る。
縦一閃のその一撃は、蝦夷の胴体を切り裂き赤い道を創る。
鋭い痛みに歯をかみ締め、舌打ちをしながら呪装具を起動させて秋夜とすれ違い距離を離そうとする。
この状況では不利だと、負けると悟った蝦夷が撤退するべくとった行動は秋夜に先回りされていた。
「なっ!?」
「凄いな、この魂装具っていうのは。
君の動きが鮮明に、スローモーションに見えるよ」
勝ち誇った顔で言う秋夜に、蝦夷は屈辱と不快の混ざった眼差しで秋夜を睨む。
鋭いその視線を折り曲げる様に、秋夜は嘲笑を浮かべた。
「いやぁ、これじゃ君に何を言えなくなってしまうな。
あぁでも……もう死ぬから関係ないか」
「この…………餓鬼がァ!!」
蝦夷が腕を振り上げる。
どうしようもない状況による、悪足掻き。
だが、そんな悪足掻きは直ぐに秋夜によって腕を斬り飛ばされてしまい失敗に終わる。
憎しみは増すばかり。
蝦夷は打開策をこの刹那で考えようとするも、秋夜による身体への一閃の方が速かった。
綺麗な、鮮やかな赤の斜めの線が描かれ秋夜は勝利への確信を、蝦夷は益々怒りを抱いた。
怒りのあまり、目を見張りその姿を眼に焼き付け続ける蝦夷を秋夜は目を細めて見つめ返した。
「ほら、お前は死ぬだろう?」
「…………タダでは、死なん!!」
「なっ……!? 悪足掻きを!!」
その言葉と共に、蝦夷は秋夜の腕を掴み彼に向けて火岩を放った。
その行動を予想していなかった秋夜は目を見張り、額に冷や汗を流す。
このままでは顔に直撃する、その事実に秋夜は打開策を直ぐに思案し始めた。
が、その直後に彼の背後からナイフが飛来し岩を砕いた。
それが充の呪装具であると悟った秋夜は感謝の笑みを零す。
オマケに、そのナイフから呪力の篭もった炎が漏れ出て、魂装具であるクレイモアがその炎を吸い上げると炎を刀身に帯び始めた。
「火葬してやる……さようならだ、蝦夷!!」
言いながら、刀身にやどった熱を蝦夷へと放ちその身体を焼き尽くしていく。
焼かれる自身の痛覚が焼き切れた蝦夷は慟哭を放った。
「風魔……秋、夜ァァァァァァァァ!!!!」
自身を殺した仇の名を叫びながら、蝦夷は灰へと朽ち果てた。
その直後に誇らしげに笑みを浮かべながら、秋夜は大剣を掲げ───────
「鬼琉軍幹部……蝦夷の首は俺が取った!!」
そう、高らかに自らの勝利と手柄を宣言したのだった。




