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ノクス・トラジェディー  作者: 桜 hiro
二章 『桜の元に集まる少年少女』
13/16

噴火する騒嵐の落とし後

諸事情でこちらの更新遅れましたm(_ _)m

 ───────ガキの頃、オレは無意識のうちに呪術じゅじゅつを使えてた。

 でも、オレが使えるのはかなり特別らしくて、呪術のじの字も知らねぇ両親や同じ幼稚園のヤツらはオレの力を不気味に感じてたらしく、オレとマトモに会話をしようとさえしてくれなかった。

 オレにとっての当たり前は、皆にとっては当たり前じゃなかったのを教えてくれなかった。

 仲間がいなかったオレは、なんでみんなできないんだってイライラしていた。

 避けられ続けて誰とも遊べない、関われない地獄のような苦痛の退屈の日々が続いていて、そんな日の流れはちっとも楽しくなかった。



 そんなある日、近所の公園で暮らしてた野良猫になんでか懐かれた。

 オレもその猫が好きになったから、猫を家へと持って帰った。でも家族は猫を連れ帰ったら、初めてオレに怒鳴ってきた。

 やれ『パパは猫アレルギーなのよ、早く戻してきなさい!!』だの『フザけるな、殺す気か!!』なんて行ってきやがって若干ムカついた。

 けど、仕方なく猫を公園で育てる事にした。

 そんなある日、一人の同い年のガキがオレの猫を蹴りやがったり石投げたりしてたから、ソイツをボコボコにしてやった。

 歯が何本も折れてしまっていて、何度も「ごめん、許して」だの「誰か助けて」だの言ってたけど関係なかった。

 寧ろ、叫ばなくなるまで殴る事にした。



 …………楽しかった。



 ソイツがなけなしの抵抗で殴ってくることも、ソイツのことを全力で殴ってやるのも。

 何もすることがない、退屈なオレの日々は猫しか彩られてなかったオレの日常には、『赤』が追加されたのをガキながらに実感してた。

 最後は、騒ぎを訊いて駆けつけてきた両親が、オレを止めた。

 ただ止めるだけじゃ何をしてくるか分からなかったからか、両親は原付で突っ込んできてオレは原付に突き飛ばされた。

 その時も、無意識に発動させた呪術で大した怪我が無かった。

 けど、両親のオレを見る目がますます化け物を見る目となっていることに気付いちまった。



 それからちょっとの間、家の中に閉じ込められた。その間に猫は保健所に連れて行かれちまってた。

 オレはまた、『彩』を喪った。

 どうやら反省を促す為に閉じ込めてたらしく、オレの元気のなさで勝手に反省したと思ったのか両親は数日後には呑気に幼稚園に連れてかれた。

 けれど、『赤』を求めてオレは5歳ながらに、呪術を意識的に使って他のヤツらをボコってた。

 もっと楽しみたい!!

 もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと───────────楽しみたかった。

 誰も、なんもしてくれねぇ。避けらればっかで、話しかけてもくれない。

 けど殴ったりしちまえば皆、嫌でもオレに話しかけざるを得ないから、オレは話しかけてもらうために、遊んでもらう為に近くにいるからって理由で殴りかかったりした。

 1ヶ月で18回。親が、幼稚園に呼ばれた数だ。

 18回目の深夜、たまたまトイレに行きたかったから起きてトイレに向かったら



『アイツを殺そう。オレァ、もう耐えられねぇ!!』



 なんていうオヤジの情けない声が聞こえてきた。

 その言葉が頭の中で何度も響きながら、何も聞かなかった体で時間をズラして数分後、トイレに行った。



(やっと楽しくなってきたのに、楽しくなくなるのはイヤだ。

 猫も奪ったクセに…………オレの楽しみをまだ奪うつもりなんだ)



 オレに、ドス黒い殺意が宿った瞬間だった。

 両親を殺したのはトイレから出てすぐだった。

『首切れちゃえ』って思ったらあっという間にオヤジの、喉笛がカッ切れた。

 寝たとこを誘うとしたんだろう、リビングで寛いでテレビを見てたオヤジの手には包丁が握り締められていた。



『ガッ、ア、アァ…………ッ!?』



 そんな情けない断末魔が耳にへばりつく。

 赤いハズの血に『彩』が付かなかったオレは、その時は不思議に思ってた。

 不思議に思ってるオレは、ドタドタとオレのオレの部屋から騒がしい足音がしたのに気付いた。

 部屋から、空の酒瓶を持った母親が現れた。

 母親はテレビの前で床に這いつくばってるオヤジを見て、恐怖で歪んだ顔のまま固まった。

『その顔のまま千切れちまえ』

 そう思ってると、母親の頭が床に転がった。



 ……また、『赤』じゃない。

 それに、心が空っぽだ。



 そう思いながらオレは、最寄りの征鬼軍せいきぐん派出所にまで行ってオッサンに言いに行った。

 親が死んだこと、オレが殺したことを。

 最初は信じてなかったけど、オレが呪術を使うとオッサンは顔を真っ青にしながら何処かに電話を掛けていた。



 取り調べを受けることとなり、取り調べ室に先に待たされていたオレだったが、突如としてガチャリ、と扉が勢いよく開く。



『よォ親殺しのガキ!!

 オメーなんて名前だ?』



 …………黒霧島のラベルが貼られた一升瓶片手に顎周辺の髭を整えた、髪の毛がオールバックのオッサンが入ってきた。

 黒髪の所々に白髪が混じっていて、だらしなく着崩れた服を見て幼いながらに『あ、この人マジでダメなオジサンなんだ』なんて思った。

 けれど、何故かそのオッサンに最初から『彩』

 が付いていた。



吉弘よしひろ れん……オジサンの名前は?』



 だからか、つい名乗ってしまった。

 オレの名前を聞いたダメ親父は、ニカッと歯を見せた笑顔を作り手をさし伸ばす。



『オレァたちばな 紹運しょううんだ!!

 ……よし、お前は今日からオレの養子な!!』



 いきなり、息子として迎え入れられたのだった。

 それからオレは、オヤジに呪術のあれこれと剣の腕、そして1人で鬼を殺せるように鍛えられていくのだった───────






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「テメェら……よくも、よくもテメェら…よくも……!!」



 わなわなと手を震わしながら、煉は惨状を目にして激情を顕とする。

 片腕の欠損した学徒、今にも呼吸が途切れそうな教官達。

 そして、呆けていると勘違いしてその場に立ち尽くす自身を見て満足気に、見下すように笑む鬼達。

 煉は、そんな鬼達に怒りを向けて睨んだ。



『───────理不尽を強いる輩には徹底して痛めつけろ。

 弱き者の為に、父母を殺めたその暴力を解放させろ』



 そして脳裏に蘇るは、父の言葉。

 幼少の頃、自身を拾い上げてくれた養父の言葉であった。

 その言葉を反芻はんすうさせながら、その暴力を振るうのは今だと彼の直感が、理性が告げていた。

 それは入学式の日、先輩に理不尽に丸刈りにされそうになっていた生徒を目にした時と同じであった。



「やってやるよクソがァ!!!!」



 地面を踏み込み、鬼へと駆け出す。

 隼の様にはやく、鷹のように獰猛に。

 龍の様な気迫を瞳に、怒り狂った姿は罪人を裁く閻魔の如く。

 そんな煉の気迫に気圧された鬼の一体は、瞬く間に首を切り捨てられた。

 断末魔をあげることも、死に際に何かを呟くことすら許されない速さで鬼一人の頭は首から零れ落ちたのだった。

 その速さに、鬼の二体は狼狽して煉の攻撃に身構えるのだった。



「な、なんだコイツ……!?」



「こんなヤツ、聞いてない……、オレたちは風魔のヤツしか!!」



「が、ガキなのになんて速さ……!?」



(あと───────二体か!!)



 残りを数えた後、煉が小さく口を開いた。



急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう───────『青龍の六・風迅ふうじん』……!!」



 それはまだ授業で習うことはまだ先の、簡略詠唱。

 呪力が精密な働きをしないから上手くコントロールができない代わりに、呪術を速く唱える為のテクニックであった。

 その詠唱を終えた瞬間、煉の身体から吹き出る呪力が風となり、其れは肉体を装う。

 青い刀身に付いた赤血は、身体中に吹き荒れる暴風と共に飛ばされ空のような青い煌めき我刀に宿るのだった。

 次の瞬間───────鬼達の視界は青い軌跡と赤い血飛沫の二つを捉え、次には自身の身体が映り込む。

 最後に、怒り狂った若い怪物を視界に彼等は後悔の情を浮かべながらその命を終えることとなった。



(呪力の無駄撃ち、精度が低いからあんま簡略したくねぇけど時間がもったいねぇ。運良く避難所にまで運ばれてくれよ!!)



「”急急如律令“───────「『青龍のとが・転移』!!」



 煉の背後に、そして怪我をした生徒達の頭上に巨大な門が現れる。



「運良く避難所に行けたら、保健室のセンコーに治療してもらえ!!

 オレも体育館に向かうけど、道までの鬼をぶっ殺す!!」



 煉が下へ指を指すと門が生徒達を呑み込み姿を消すのだった。それを見届け終えた煉は、走りながら体育館に向かう。

 少しして踊り場の方に鬼を一体確認し、脚に力を入れて廊下を踏み込み、階段を飛ぶ降りる。

 鬼が気付いて顔を見上げた次の瞬間には、その鬼の首を刈り取っていたのだった。

 その高速は、人より少し早い程度の身体能力しかない落ちこぼれた鬼の視界に捕捉されることすら許さなかった。



 着地の後に煉の脚に強烈な鋭い痛みが。

 ブチブチ、と筋繊維の切れる音に煉は眉を顰め、歯を食いしばる。

 其れが自身の呪術によるものだと知っている煉はチッ、と苛立って舌を鳴らす。



(簡略詠唱だと無駄に吹き出す呪力のせいで、こんな着地でも身体にダメージが入りやがる……!!

 めんどクセェけど、鬼もいなさそうだし一旦解くしかねぇか)



「───────解呪」



「あっれれぇ?

 それ、解いちゃって良いんだぁ?」



 術を掛け直そうと、一度解いた煉の背後から幼い声が響く。

 煉が振り返ると、既に何か巨大な獲物をを振り上げて自身に振り下ろそうとしていた栗毛の幼い子供がいた。



「ッぶねェ……!?」



 煉は子供の初太刀を前へ転がるように躱すと、直ぐに懐から拳銃を取り出して子供へと数発の弾丸を放つ。

 音を置き去りにしている筈の銃弾は、難なくと子鬼にくるりと横へ回って躱されてしまう。

 そしてそのまま、袖口からナイフを現して投擲を許してしまうのだった。

 弾丸と同じ速さのナイフは、煉の肩へと命中する。

 肩に奔る鋭い痛みに顔を歪ませながら、煉は目の前の子鬼を睨む。



「チッ……テメェ、ガキのクセに生意気にやるじゃねぇか!!」



「……君達って鬼には危険度と強さでなんか等級付けしてんだっけ?

 ボクはその等級に則ると上級なんだよん☆

 あ、こんなダイジなこと言ったからボクの素性割れちゃったかな?

 こーんな歳で、戦場にいるのはボクくらいしか居ないしね!!」



 その言葉を聞き、煉が子鬼を凝視する。

 巨大な獲物の正体は少年よりも高く、漆黒に光る金棒。

 栗色の髪は均一に切り揃えられている。

 そして……幼いその容貌。

 小さなその背丈を纏う着物の胸には、散った木の葉を背景に四つ並ぶ刀のデザインが施されていた。

 それは、鬼達の中で分かたれた派閥である『大嶽派おおたけは』に所属している証。

 更には手にある金棒という武器。

 これらの特徴で、煉はその鬼の名を割り出し声を荒らげたのだった。



「テメェ大嶽派の愛宕あたごか……!!」



「ぜーんーしょーうー!! 僕の名前は愛宕 (あたご) 善勝ぜんしょうだよ!!

 愛宕だけじゃ戦艦になるだろ?」



 ヘラヘラとした様子で名乗る子鬼を無視して、煉が少し考える。



(愛宕善勝……大嶽派第10席だっけか。

 何十万といる人を積極的に殺し回る事に賛同している鬼達の派閥である大嶽派。その10本指に入るくらいには危険な鬼だ……オレ1人だと、下級と中級の真ん中くらいのヤツらなら殺せるけどコイツはちょっとキツイか!?)



「“賜物” “春を司る者” “紫微宮しびきゅう”───────」



「呪術なんて許すわけないじゃん!!」



 言いながら、愛宕は煉へ金棒を振るう。

 煉は再度、その一撃を回避しようとしたがすぐ後ろは壁、横は階段となっていることに気付いてしまう。

 唯一の逃げ場、それは階段から飛び降りる他無い。

 しかし、今飛び降りればナイフによる追撃に遭う可能性が高い。

 極めつけには、大きな動きをすれば今唱えている呪術が中断されてしまう。



(簡略化の詠唱だと1回しか門開けねぇのダルいな……!!)



 煉は瞬時に状況を分析し、行動を決定させた。



「けど、それなら───────!!」



 煉は、その金槌による一打を刀で受け止めることとした。

 そのまま、阻まれかけた詠唱を再開させる。

 止まりかけた呪力の流れは、そよ風が吹いたように突如として速さを得た。



「“蠍座さそりざ” “足垂れ星” “蒼帝そうてい”…………ッ!!」



「その詠唱……続くといいねェ!!」



 そう言いながら、愛宕がもう一度懐から取り出したナイフを投げる。

 煉は飛来するナイフを、残った片腕を盾にして受け止める。

 しかし───────煉はある違和感を覚えた。

 それは、何故か呪力の放出がピタリと止まったこと。

 直ぐに、原因と思しき腕に刺さるナイフへと視線を移すと腕に突き刺さっているそのナイフは禍々し雰囲気を纏っており、普通のナイフではないと自ら告げていた。

 予想外の物に煉は驚きを隠せなかった。



「これは……呪装具か!?

 くそ、西洋モンの呪装具とかクッソ珍しいモン持ちやがって!!」



「お、流石に橘家の子供……あんま頭良くない見た目のクセにこれが珍しいってのは分かるんだねぇ」



 ニコニコと、余裕の笑みを浮かべる愛宕。

 何故か自身の事を知っている、初対面のハズである愛宕に煉は驚きを深めた。

 煉は別に、戦場に出てはいない。

 だからこそ、その情報は本来ならば鬼たちに伝わるはずがないのだ。

 なら、愛宕が自身の事を知っている理由など征鬼軍の重鎮、その誰かが漏らしたということ。

 その考えに至り、煉が衝撃のあまり身体を硬直させてしまう。

 そんな煉に、愛宕は自慢げに煉の経歴を語り始めた。



たちばな れん……旧姓 吉弘よしひろ れん

 小さい頃に……5歳だっけか? その時に実の両親を殺したんだってね?

 ハハッ、エッグイことするよねぇ!!

 そっからたちばな 紹運しょううんに拾われて、鬼狩りの訓練をしながら秘密裏に平和主義連合とか関わりのある人の殺害の補助をしている。

 ───────こんな感じで、ボクは他のザコと違って君の情報をもらってるよ?」



「……ここにバレずに来れたことと言い、テメェらの協力者は征鬼軍の誰かだな……!?」



「せーいかーい♪ そのナイフもソイツに貰ったんだァ!!

 ソレに刺されたら10分は呪力を出せないからさ───────頑張って、ボクの攻撃に耐えてみせてねェ!!」



 言いながら、愛宕は再び金棒をを振り上げてから横へと薙ぐ。

 その横薙ぎを煉は再度、刀で受け止め敢えて力の流れるままに飛ばされる。

 足への負担は覚悟の上で、彼は1階へ飛び落ちる事としたのだった。

 空中で隙だらけの煉に、再度ナイフが投擲されたが運良くナイフは大きく狙いを外したのだった。



「あちゃー……運いいねお兄ちゃん」



 愛宕に見下ろされながら、1階への踊り場へと着地する。

 脚には強烈な痛みが走り、血が吹き出る。

 顔を歪めながら体勢を立て直すべく、煉は痛みを堪えてすぐさま身体転がして勢いよく起き上がる。

 そして、逃げるように最寄りの教室へと飛び入った。

 入口の方へ振り返り、愛宕を警戒しながら肩と腕に刺さったナイフを抜き、呪装具のナイフは制服の裏ポケットに仕舞い肩に刺さったナイフを床に捨てた。

 ……ふと、投げた先の床に流れていた血が目に入り視線をその先の、教壇の方へと向ける。



 ───────その血の先には、何十にも積み上がった肉塊があった。

 死体を見慣れた煉だが、このおぞましい数の死屍累々の山には嫌悪感と、怒りを抱いた。

 顔は潰されているが彼等の無念、怨念、憤り、慟哭、厭忌えんきが遺体から漏れ出ていた。

 呪力が出せなくなったことにより、煉の目には彼らの死後の姿も見えて、聞こえてしまっていた。



『殺してくれ……ガキの鬼を殺して、俺達の仇を取ってくれ!!』



『苦悶に泣く顔を見させてくれ、アイツに産まれてきたことを後悔させてくれ…………!!』



 その怨嗟の声は煉にただ只管に、愛宕へ対する怒りをぶつけていた。

 その声で、この山を生み出した犯人は愛宕であると煉は悟る。

 雲のように純白な柄を強く握り締め、煉はその凄惨で惨憺さんたん醜怪しゅうかいで醜悪な光景を作り出した愛宕に静かな怒りを抱く。



「やっぱりここだよねぇ……フツーにヒトがそんな遠くに逃げれるハズないもん」



 煉が視線を上げると、そこには目星を付けた容疑者がいた。



「コレは……テメェか?」



「そうだよー?

 勿論、ボクに決まってるよねぇ!!

 ボクさ、こうやって壊しやすいオモチャを壊すの大好きなんだ!!」



「オモチャ……人が?」



 声を震わし、愛宕に訊ねる。



「だってそうじゃん?

 いい声で鳴くし、弱いし、脆いし!!

 楽しくてさぁ……ついやっちゃうんだ☆」



 悪びれもない愛宕に、訊ねた煉は確かに噴火した。

 しかし静寂に、静謐せいひつに。

 怒ったと認識できない程に抑え込んだ静かな怒りを、煉は刀へと乗せたのだった。

 刀身を愛宕に向けて、煉は静かに彼に視線を向ける。



「荒れ狂う牙は争乱の如く、その身に振るいかかる。

 春の帝よ、獣達の神よ、その憤爪を今此処に」



「なに、呪術?

 ……いや、呪装具の効果の方かな?

 あのナイフで呪術は唱えれるハズないし……ま、邪魔するしかないよね!!」



 言いながら、金棒を煉に叩きつける。

 その一撃は刀で受け止められてしまった。

 何度も行っている単調な動きではあるが、詠唱に集中するしかない煉はそもそも、その一撃が面倒なのであった。

 愛宕もそれを理解して、そして自身の欲求を満たす為に敢えてその一撃を繰り出した。

 しかし、仕留める為に突いてこないのは幸いだと内心で胸を撫で下ろし、詠唱を続けるのであった。

 邪魔するべく愛宕は続け様にナイフを投げたが、煉がポケットからナイフを取り出して、弾き飛ばす。

 唇を尖らし、少し拗ねた表情を浮かべた愛宕だが直ぐに余裕ある笑みへと戻った。



「ま、ちょっとしたハンデをあげてもいっか!!

 ほらほら、その刀も知ってるよ?

 蒼雲そううん……詠唱を唱えたら身体能力を向上させる、だったかな?

 キミが死んだ後はボクのモノになるワケだし、どれくらいの幅なのかみせてよ!!」



 愛宕が金棒を床へと突き刺して、身体を前のめりにして煉が唱え終わるのを待つ。

 愛宕のその行動に感謝しながら、煉は詠唱を完結させるのだった。



「瑞獣よ、怒りを示せ───────!!」



 刹那───────『ヒュン』、と鋭い風が吹く音と共に愛宕の健がスパッと切断されたのだった。



「~~~~~~~~~~~~!?!?!? イッタい……痛い、痛い痛い痛い、痛い痛い痛いよォ…………ッ!!」



「……なんだ、この情報は貰ってなかったのか?

 コイツは、今の詠唱を唱えるコトで風の刃を生み出すことが出来んだよ」



 煉の説明が終えると同時に、愛宕が床へと倒れ伏す。



「ハァ!? そんな情報なかったぞ……!!

 その刀はただ、身体能力を強化するだけって───────!!」



「もう一つの効果はな。

 本当は、風の刃を生み出す能力だ。

 この風の刃は割と簡単にヒトには防がれちまうから、隠してんだ。

 …………使った相手が死んじまえば、隠し続けれるだろ?」



 ゆっくりと煉は愛宕の元へ歩み寄り、愛宕の手首を刀で刺しながら金棒を蹴り飛ばした。

 愛宕は滅多にない痛みに耐えきれず悲痛な叫びを教室に響かせるのだった。



「う……ギャアァァァァァァァァ!?!?」



「質問だ……お前らに提供した情報の主は誰だ?

 あぁ、後なんで今日、この訓練校を襲いに来た?」



「い、言うわけないだろ!!

 言ったら殺されちゃうんだ……言うわけないやい!!

 ───────イッギャァァァァァアアァァ!??!?」



 愛宕が言い終えると同時に、小指に激痛が走る。

 視線を向けると、煉がその小指を蒼雲で切り取っていたのだった。



「言わなかったら死ぬぞ。

 けどそうだな……言ったらそれなりの安全を約束するぜェ。

 オレの父親は、知っての通り煌月に気に入られてる人間だ。高確率でお前の命は助かると思うぜ」



 愛宕にとってそれは魅力的な提案……などでは無かった。

 お情けで人に生かされ、飼い殺される事は激しい屈辱であり死んでも御免だった。

 ……幸いな事に、隠してある自身の肉体のある力で、足の健は再生している。

 更には煉に気付かれていないという状況。

 愛宕は次に起こす行動を決心し、煉への殺意を強めたのだった。



(次には起き上がって、奇襲でコイツを殺す……!!)



 怒りを、殺意を押し殺してまさにその言葉を待っていたと喜色満面の笑みを偽る。

 そのまま、愛宕はこくこくと頷くのだった。



「うん、うん!! そう言ってくれて嬉し『騙されるな!! ソイツの足の腱が治ってきてるぞ!!』」



 声が聞こえ、愛宕が振り返る。

 振り返った先の死屍累々の山には、自身が嬲り殺したハズの霊たちの姿があった。

 怨恨を抱いたその表情を見て愛宕は聞こえてるわけが無いと笑おうとした、しかし。

 自身が煉に刺した呪装具の武具が、呪力の流れを止めるものと思い出した途端に彼の防衛本能が全力で働いた。

 バレた以上、直ぐにでも殺しに掛かれと。

 呪力を出せぬ煉など、殺す事は難しくない。

 愛宕は身体を起こし、煉に殴りにかかる───────!!



「クソ、邪魔な死人共め!!

 いいさ、このまま殴り殺してやる橘ァ!!」



「ヘッ───────甘いんだよバ~~~カ!!!!」



 しかし、『ビュン』と風切る音と共に愛宕の足の腱は再び切断された。

 それだけならば良かった。

 その風は、両腕すら刈り取って行ったのだ。

 愛宕は自身を罵った煉に怨嗟の眼差しを向けた。



「まさか、あの詠唱はフェイク……!?」



「 ホントならあの踊り場でも殺せたけどよォ、誰かに見られても嫌だからここに転がり込んだんだよ。

 教室は今頃、全員避難してるだろうし居ないって思ってなァ!!」



「クソ、クソクソクソクソ…………ッ!!

 ニンゲンのクセに、ボクらより弱いウジ虫同然の集まりのクセに!!」



「そんな人間様に負けたお前はウジ虫以下かァ……ダヴィンチがびっくりする理論アリガトなぁ!!」



 笑いながら、煉が腕の切断面を踏みつける。



「イ、ギ……ッ痛い……イタイイタイイタイイタイ……ッ!!」



「異能……人の魂、霊体を食いすぎた鬼達が発現する、呪術と似てる能力だな。

 お前の場合は……再生か? 厄介なモン持ってんなぁ」



 激痛に愛宕は歯を食いしばり耐えようとするも、堪えることが出来ずに悲痛な声が漏れる。

 怨念達は、下品な笑いを愛宕に唄い返していた。そんな彼らに、煉は僅かな怒りを抱く。

 が、無造作に愛宕の胸ぐらを掴み顔を接近させた。



「オイ」



 煉は、無理やり自身の瞳を愛宕に見させた。

 このまま殺されるのか? と怯える愛宕に煉が口を開いた。



「さっさとジョーホー吐け!!

 死にたくねえんだろ、オレもクソガキなんて殺したかねぇからとっとと答えろよ!!

 情報を提供してきたのって誰だ、アァ!?」



 それはまさに、寝耳に水だっただろう。

 愛宕はポッカリと口を開け、肩を落とした。



「え、なんで…………?」



 疑念を問い掛ける愛宕に、煉はニカッと歯を見せた笑みを浮かべた。



「言っただろ。ガキを殺すのは気が引けるんだよ……それに、オレはもっとガキの頃にオヤジに助けられたしな!!

 だから、オヤジと同じコトしてぇだけだよ」



 明るく、暖かい煉の言葉に愛宕はますます呆けた表情を増させる。

 しかし直ぐに、その表情は暗くなった。



「…………ホントに知らないんだ。

 多分、一緒に来たヤツらは全員知らない。

 美空様だけ知ってると思う…………

 噂で、征鬼軍のヤツって聞いただけだから」



 それは、本当に知らぬ事を信じてはくれないだろうという不安によるものだった。

 無言のまま、煉が胸ぐらをパッと離して愛宕の身体を床へと落とした。

 そして腕を組み、悩ましげに眉を顰めたのだった。



「マジで知らねぇのかァ……。

 ンー……ならいいや、オレん家の小間使いにするかァ!!

 安心しろ、ウチはなんか知んねぇけど赤いカラコン流行ってるから!!」



 しかしこれを即断即決。日頃の雑さが良いとこに出た瞬間である。

 煉は父に電話を掛けようと、ズボンからスマホを取り出す。



『黙って聞いてりゃ、なんでコイツを生かそうとする!!』



『俺達の仇を取ってくれよ、なァ!!』



 だが、そんな馬鹿げた流れを許せない、生徒たちの怨念が煉を糾弾する。

 その声を聞いた煉は、怨念達へと振り返って唇を尖らせたのだった。



「えー、ガキをブッ殺しても胸糞悪ぃってさっき言っただろ?

 あと、コイツがピンチなの見てお前らゲラゲラ笑い過ぎてウザイから殺す気なんて消し飛んだよ。

 オヤジに聞いたけど、『興が冷める』ってヤツ!!

 そもそも、敵討ちをオレに頼むなよ殺される前に逃げるなりしとけよ」



 そして、面倒くさそうに煉が彼等をあしらってしまったのだった。

 愛宕の身体は、再び徐々に再生を始めている。

 しかし先程よりも深く切断されているためか、治りの進みは遅かった。

 そんな愛宕の状況を確認し、煉の言葉を聞いた霊の一つは、ゆっくりと煉へと近付きながら彼の事を睨むのだった。



『もう一度だけ言う……コイツを殺せ!!』



「あ? ガタガタ偉そーに抜かすなよザコ。

 死人なんだから黙っとけよ」



 再度の警告を煉が無視しようとする。

 だが風のように気分が変わる男ら煉に霊が激しい怒りを抱き、行動を起こすのだった。



『分かった……なら、お前を乗っ取ってやるよ!!』



「…………あぁ?」



「──────────────あ、そ、そうか!!

 早くソイツから離れて!! じゃないとカラダが……!!」



『今更気付いでも遅せぇよ!!』



 愛宕の忠告は虚しく、霊が煉の身体へと飛び込んだ。

 その瞬間、煉の全身から力が抜け電源の切れたロボットのようにがクリと項垂れた。

 その様子を、愛宕はただただ固唾を飲んで見るしか無かった。



(呪力が無いから、霊から身を守るハズの薄い呪膜も作れないんだ!!

 ……本当なら鬼は霊を食べる事が出来るけど、ボクは今、霊体を掴むための手がない……!!)



「さぁて……コイツの身体を乗っ取ったことだし早速テメェを殺させてもらうぜ!!」



「や、やめて…………やめてよ……あ、謝るからァ…………ッ!?」



 希望を取り上げられ、代わりに絶望を押し付けられた愛宕は目尻に涙を貯め、煉肉体を乗っ取った霊に命乞いをする。

 煉に優しくされ、認識を改めかけていた愛宕は、霊からすればなんと都合のいいことかと唾棄すべき事であった。

 霊は容赦なく、刀身を愛宕の心臓へと突き立てる。

『ゾプリ』、と生々しい音と共に愛宕が口から血を吐き、涙を零した。



「───────俺達が何回も『殺さないで』って言ったのに、お前は止めなかっただろうがァ!!」



「ヒッ───────ギャ、アァァァァァァァァァァ…………!!」



「へへ、いい気味だ……!!

 ざまぁみろ、このクソガキが……ッ!!」



 その反面、霊は憤怒と愉悦が混ざり合う感情で愛宕に何度も刃を突き刺した。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 呪装具により張れなくなった呪膜が自然と張られる様になるまで飽きることなく何度も。

 その間に愛宕は息絶えていたが、構わずに霊は煉の体を借りて恨みを晴らしたのだった。



 そして十分後、身体を取り戻した煉は愛宕であった肉塊を最初に視界に入れる事となった。

 一瞬だけ、煉は歯を噛み締めその死体を憐れんだ。



「まぁ、仕方ねぇか。これも戦争だろ。

 てか、センセー大丈夫かな」



 が、直ぐに美沙希の安否が気になり避難場所として指定されている体育館へと向かうのだった。



 ───────体育館に着き、扉を開けて煉が周囲を確認する。

 周囲には、生徒を守るように先頭にいる美沙希と他教師陣がいた。

 そしてその奥に、自身が転移で飛ばした生徒達がいるのを確認して煉はホッと安堵するのだった。

 扉が開いた事により、最初は身構えたが現れた煉の姿に美沙希は安堵の笑みを零す。

 しかし肩に刺さっている、刺傷と朝にはなかった空色の刀を目にしてしまい、驚きを隠せることは出来なかった。

 直ぐに、彼女は問い質すことにし口を開くのだった。



「どこへ行ってたのですか煉君!?

 それにその傷も何処で……まさか鬼と戦闘したのですか!?」



 いつもより感情的に、美沙希は煉を叱咤しながら訊ねる。

 一応、彼女は煉が元々鍛えており呪術による身体能力の強化無しで中級の鬼は殺せる事は把握していた。

 しかし、だとしてもこんな非常時に何処かへ行ってただけでなく戦闘を行った事に無謀であると叱らずにはいられなかったのだ。

 そんな美沙希の心など露知らず。二ヘラと気の緩んだ笑みを浮かべながら煉が答えた。



「オヤジと買い物行ってましたー。

 んで、帰ってきたらなんかすげぇ事になってたんですよねー。

 あ、そういや上級の鬼が一人死んでましたよ。

 なんかガキで、金棒持ってました!!」



「子供、金棒……?

 ───────もしかして、大嶽派の愛宕!?

 でも彼に太刀打ちできるだろう教師陣は殆ど出張で……もしかして……風魔ふうま君が…………?

 いや、その刺傷を鑑みるに貴方が討伐したのですか?」



「え、オレじゃないです!!

 多分ユーレイにでも殺されたんじゃないですか?」



 見え透いた嘘で元気よく答えた煉に、美沙希は肩を落としたが取り敢えずは教え子一人の無事は確認できて良かった、と安堵で胸を撫で下ろした。

 安堵する美沙希に、煉は嬉しそうに満面の笑みを見せた後、現在の状況を彼女に訊ねたのだった。



「センセー、状況把握したいんで色々と聞いてイイっすか?」



「わかりました、今から10分以上前になりますが……」



 時刻は遡ること───────

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